千葉のキョン「生後半年で妊娠」驚異の繁殖力で“獣害”増大の一方… 東京・伊豆大島では“減少傾向” その「秘策」とは?

大きさは中型犬ほど。「ギャー!」という不気味な鳴き声も地域住民を悩ませる(shou / PIXTA)

農林水産省は11月28日、野生鳥獣による昨年度の農作物被害は全国で約156億円(対前年度約+0.5億円)だったと公表した。

1日に発表された今年の「新語・流行語大賞」には、トップテンに「OSO18/アーバンベア」が入るなどクマ被害も注目を集めたが、局地的には千葉・房総半島で特定外来生物の「キョン」(小型のシカ科の仲間)が大繁殖し、農作物を食い荒らしていることも大きな問題となっている。

“脱走”きっかけで大繁殖?

キョンは本来、中国南部や台湾に生息する生き物。千葉県における繁殖のきっかけは、かつて房総半島にあったレジャー施設からの脱走だと言われ、県によれば「1960~80年代に野外に定着した」と考えられているそうだ。

その後キョンは、「早ければ生後半年程度で妊娠」するという驚異的な繁殖力で着々と生息数を伸ばし、2022年度には県内の推定生息数は約7万1500頭にまで上っている。

千葉・房総半島と同様に、野生化したキョンの被害に悩まされ続けてきたのが東京・伊豆大島だ。こちらは都立大島公園から脱走したキョンが野生化し繁殖したと言われており、2022年末の推定生息数は1万7190頭。島民(人口7009人、2023年11月末現在)より多い状況となっているが、実は2019年末をピークに減少傾向に転じているという。

当初は「キョンの増加数」に捕獲数が追いつかず

東京都では2005年の「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)」施行後、キョンが「特定外来生物」に指定されたことを受け、2007年から防除実施計画に基づく防除事業を開始。しかし、効果はなかなか出なかった。

都の担当者は、「事業開始当時は4500頭程度と推定されていたキョンですが、年間20%ほどの割合で増加していき、それに捕獲数が追いつかない状況が続いていました」と話す。

これを受け、2016年度から緊急対策として予算を大幅に増加。キョンとの“本気の闘い”が始まった。

「現在、伊豆大島を森林域、市街地、火口域、急傾斜地域と4つに分けて、それぞれの地域に合った手法で防除を進めています。

特に、森林域は細分化網で区切り、重点的な銃器による捕獲を継続したところ、着実に森林域の生息数は減少中です。近年は年間捕獲数が5000頭を超え、全体の減少に寄与しています」(同前)

ただし、依然として島には人口の2.5倍近いキョンが生息している。アシタバなどの特産物を含む農作物、伊豆大島の固有種であるサクユリなどが食害に遭い続けていることから、減少傾向という都の報告について住民からは「違和感がある」「むしろ増えているのでは」といった指摘もあるという。

これを受け、都の担当者は「現在、森林域での捕獲に重点を置いているため、市街地においての住民の実感と齟齬(そご)が生じている可能性はあると考えています。銃を使えない市街地における効率的な捕獲手法を検討中です」とコメントした。

ドローンの活用も開始

伊豆大島では本年度から、市街地に仕掛けたワナにキョンがかかった際、自動通報されるシステムや、ドローンを使った生体状況の把握といった新施策を実施し、さらに対策を強化している。

「現在、キョンがワナにかかっているかの見回りを毎日実施しています。通報システムの導入により効率化が図れることと、錯誤捕獲(本来捕獲する目的のなかった鳥獣がワナにかかってしまうこと)への対応も迅速になる効果も見込めます。

また現在、捕獲が未実施である火口域での効率的な捕獲手法開発に向け、ドローンによるキョン探索と銃器による捕獲をセットで実施する新しい取り組みを実施しており、今後、効果を検証していく予定です」(都の担当者)

動物との共生は大切だが、キョンなどの特定外来生物や有害鳥獣の異常増加は、農作物被害はもちろん、地域住民の住環境そのものを脅かしかねない。害獣駆除のニュースが流れると役所などに“筋違い”の苦情電話が殺到するというが、その“怒り”は本質的なものなのだろうか。

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