2023年度上半期の不動産売却は36社 前年同期より10社減、譲渡差益は2.5倍に増加

2023年度上半期「上場企業 不動産売却」調査

東京証券取引所に株式上場する企業のうち、2023年度上半期(4-9月)に国内不動産の売却を開示したのは36社で、前年同期の46社から10社下回った。
譲渡差益の公表総額は1,392億8,100万円(前年同期546億6,500万円)と前年同期の2.5倍に達した。譲渡損益を開示した34社のうち、29社(構成比85.2%)が譲渡益を計上した。

国内不動産を売却した36社のうち、直近の本決算の最終赤字は14社(構成比38.8%)だった。コロナ禍の影響が大きかった小売業を中心に、財務体質の強化や有利子負債の圧縮などを理由に不動産売却を実施している。また、社員寮などの福利厚生施設を売却する動きもある。
主な売却事例では、9月に日野自動車(プライム)が「経営資源の有効活用と資産効率向上のため」に日野工場の一部11万4,000平方メートルの売買契約を締結した。譲渡益は約500億円で2024年3月期第2四半期に計上した。売却先は三井不動産で、今後はデータセンターとして活用される見込み。
また、9月にオーミケンシ(スタンダード)は、「事業再構築策の一環」として加古川工場跡地の開発区域7万平方メートルの譲渡契約を締結し、2025年3月期第1四半期で固定資産売却益13億2,000万円を計上する予定と公表した。
コロナ禍以降、手元資金を厚くする企業の動きが続いており、不動産売却は増加基調にあった。しかし、経済活動の再開が本格化し、企業業績が回復するなか、手元資金確保のための不動産売却は前年に比べ落ち着いてきた。

※本調査は、東証プライム、スタンダード、グロース上場企業(不動産投資法人等を除く)を対象に、2023年度上半期(4-9月)に国内不動産(固定資産)の売却を開示した企業を集計、分析した(契約日基準、各譲渡価額・譲渡損益は見込み額を含む)。
※東証の上場企業に固定資産売却の適時開示が義務付けられているのは、原則として譲渡する固定資産の帳簿価額が純資産額の30%に相当する額以上、または譲渡による損益見込み額が経常利益、または当期純利益の30%に相当する額以上のいずれかに該当する場合とされている。
※東証の市場再編により集計基準を変更したため、2021年度以前(東証1部・2部企業を対象)のデータはすべて参考値。


開示企業の8割超が譲渡益計上

36社のうち、譲渡損益を公表したのは34社(前年同期46社)だった。このうち、譲渡益計上は29社(同38社)で、総額1,395億1,900万円(同570億8,400万円)と前年同期を大きく上回った。譲渡益100億円以上を計上したのは5社(同ゼロ)で、大型物件が目立った。
譲渡益の最大は日野自動車で、日野工場の一部の工場用地売却により約500億円を計上した。
一方、譲渡損の公表は4社(同8社)と半減した。譲渡損の総額も2億3,800万円(同24億1,900万円)と大幅に減少した。このほか、譲渡損益ゼロが1社(同ゼロ)だった。

【公表売却土地総面積】公表33社の合計は31万1,925平方メートル

2023年度上半期の売却土地総面積は33社が公表し、合計31万1,925平方メートルだった。前年同期(40社、合計49万9,178平方メートル)から37.5%減少した。売却土地面積が合計1万平方メートル超は8社(前年同期11社)と減少し、総面積は減少した。

【公表売却土地面積】トップは日野自動車の11.4万平方メートル

公表売却土地面積トップは、トラック・バスなど製造の日野自動車(プライム)の11万4,000平方メートル。エンジン不正問題の影響で、2023年3月期の経常利益は1,578億円の黒字(前年同期比58.4%減)だったが、最終利益が1,176億円の赤字に落ち込んでいた。
2位はオーミケンシ(スタンダード)の7万平方メートル。3位はサンエー化研(スタンダード)の2万2,846平方メートル。

【譲渡価額総額】譲渡価額10億円以上はゼロ

譲渡価額の総額は、公表した6社(前年同期11社)で、12億7,900万円(同90億9,800万円)。
最高は、医療機器メーカーのクリエートメディック(スタンダード)の8億6,000万円。現本社の営業部門やマーケティング部門、管理部門の一部を研究開発センター(神奈川県川崎市)に移転。開発部門、薬事部門とのコミュニケーションの活性化を図ることに加え、資産の有効活用を目的に、現本社土地と建物を売却した。
2位は、婦人既製服製造、卸売を手掛ける東京ソワール(スタンダード)の1億8,100万円。
3位は、材料試験機専門メーカーの東京衡機(スタンダード)の9,600万円。
譲渡価額10億円以上はゼロ(前年同期2社)だった。

【業種別】小売業が最多の6社

業種別では、最多が小売業の6社で、経営資源の有効活用や財務体質の強化を理由に挙げる企業が多い。6社のうち、最新期の最終利益が赤字の企業は4社(構成比66.6%)だった。
2位は、卸売業の5社で、最新期の最終利益が赤字の企業は1社(同20.0%)。経営資源の有効活用や財務体質の強化を理由に挙げる企業のほか、事務所統合やリモートワークが浸透したことによる業務スペースの見直しなどを理由とする企業もみられた。


国土交通省による2023年の都道府県地価調査(全国平均)では、全用途平均と商業地ともに、2年連続で上昇し、上昇幅も拡大した。コロナ禍で低迷していた地価が上昇傾向にあり、譲渡損を計上する上場企業の構成比は11.7%と、前年同期(17.3%)から5.6ポイント低下した。
2023年度上半期の不動産売却件数は36社(前年同期46社)と減少した。高止まりが続く不動産価格への警戒感や企業業績が回復し始めたことで資産売却の動きが減ったことなどが考えられる。
一方、本社屋や事務所を売却した企業は9社(構成比25.0%)みられた。テレワークの定着など働き方も変化し、業務スペースの見直しや事業拠点の統合による不動産売却は今後増加する可能性がある。

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