11月の「人手不足」関連倒産 16件発生 累計144件、年間最多更新のペース持続

2023年(1-11月)「人手不足」関連倒産の状況

2023年11月の「人手不足」関連倒産は16件(前年同月比77.7%増)だった。1-11月累計は144件(前年同期比132.2%増)に達し、前年同期の2.3倍に増えている。このペースで推移すると、調査開始の2013年以降、最多だった2019年の156件を超える可能性も出てきた。
1-11月の要因別は、「求人難」が55件(前年同期27件)、「人件費高騰」が54件(同7件)、「従業員退職」が35件(同28件)で、「人件費高騰」の急増が目立つ。人材の新規採用だけでなく、従業員退職を阻止するには賃上げが不可欠だが、業績回復が遅れ、収益力がぜい弱な企業ほど資金繰りに大きな影響を受けるだけに、2024年の賃上げ動向も注目される。

産業別では、最多がサービス業他の48件(前年同期比100.0%増)。次いで、運輸業の35件(同483.3%増)、建設業の27件(同92.8%増)と続き、コロナ禍で大打撃を受けた労働集約型産業を中心に、人手不足の深刻さが顕著となっている。
12月1日、連合(日本労働組合総連合)は2024年春闘で「5%以上」の賃上げ要求を決定した。輸出関連の大手企業を中心に、円安を背景に業績回復が進むが、内需依存型の中小・零細企業はコロナ禍からの業績回復が遅れる企業も多い。生産性や収益力が低調な企業は、身の丈を超えた賃上げが資金繰りに悪影響を及ぼしかねない。賃上げと人材確保のジレンマを抱える企業は、事業規模を問わず多いだけに、雇用問題は大きな経営課題に浮上している。

※本調査は、2023年(1-11月)の全国企業倒産(負債1,000万円以上)のうち、「人手不足」関連倒産(求人難・従業員退職・人件費高騰)を抽出し、分析した。(注・後継者難は対象から除く)


「人手不足」関連倒産144件、前年同期の2.3倍に増加

2023年1-11月の「人手不足」関連倒産は144件(前年同期比132.2%増)で、前年同期の2.3倍に急増した。年間最多を記録した2019年1-11月累計は141件で、これを上回る水準で推移しており、2023年は年間最多を更新する可能性が高まっている。
コロナ禍からの経済活動の本格化で、人手不足が深刻さを増している。「人手不足」関連倒産の内訳は、「求人難」が55件(前年同期27件)、「人件費高騰」が54件(同7件)、「従業員退職」が35件(同28件)で、「人件費高騰」は前年同期の7.7倍、「求人難」は同2.0倍に急増している。人材確保のための人件費上昇を、事業収益で賄えるかが大きな課題になっている。
人手不足は、コロナ禍の需要減少と市場縮小で隠れ、「人手不足」関連倒産も2020年1—11月が91件、2021年同期が53件、2022年同期が62件と低水準で推移した。しかし、経済活動の本格的な再開で、雇用が一気にひっ迫したことで賃金格差も深刻さが増している。
資金力が乏しい企業ほど賃上げは進まず、人材確保が難しい。このため、受注機会の喪失や業務能力の低下が加速すると、2023年の「人手不足」関連倒産は過去最多を更新する可能性も高い。

【要因別】人件費高騰が急増

要因別では、「人件費高騰」が54件(前年同期比671.4%増)で、前年同期の7.7倍に急増。「求人難」も55件(同103.7%増)で、前年同期の2.0倍に増加した。
「従業員退職」は35件(同25.0%増)で、2年連続で前年同期を上回った。
コロナ禍からの経済活動の本格再開で、企業の人手不足が深刻化している。人材確保のための賃上げを避けられないが、財務面がぜい弱な企業ほど、人件費上昇などのコストアップを吸収できず、資金繰りに影響する懸念が高い。賃上げが難しい企業は、事業維持のための人材の採用も進まず、受注機会の喪失から業績悪化に歯止めが掛からない可能性も出てくる。

【産業別】運輸業が前年同期の約6倍に

産業別は、10産業のうち、農・林・漁・鉱業、金融・保険業、不動産業を除く7産業で前年同期を上回った。
最多は、サービス業他の48件(前年同期比100.0%増、前年同期24件)。このうち、飲食業(5→14件)、生活関連サービス業,娯楽業(1→9件)などで前年同期を上回った。
次いで、2024年問題への対応を迫られる運輸業が35件(同483.3%増、前年同期6件)、コロナ禍前から慢性的な人手不足が続く建設業が27件(同92.8%増、同14件)で続く。労働集約型の産業を中心に、人手不足が顕著になっている。
このほか、製造業が14件(同75.0%増)で2年連続、卸売業5件(同25.0%増)と小売業8件(同166.6%増)、情報通信業6件(同500.0%増)が4年ぶりに、それぞれ前年同期を上回った。また、不動産業は前年同期と同件数の1件だった。
農・林・漁・鉱業は2年ぶり、金融・保険業は3年連続で、それぞれ発生がなかった。

業種別では、最多が一般貨物自動車運送業の28件(前年同期比460.0%増、前年同期5件)で、突出している。このほか、訪問介護事業が6件(前年同期1件)、建築リフォーム工事業、とび工事業、受託開発ソフトウェア業、酒場,ビヤホール、配達飲食サービス業が各4件、ラーメン店、普通洗濯業、エステティック業、労働者派遣業が各3件、建築工事業、木造建築工事業、内装工事業、電気通信工事業、豆腐・油揚製造業、貨物軽自動車運送業、こん包業、各種食料品小売業、調剤薬局、広告業、劇団、自動車一般整備業が各2件などで、前年同期を上回った。

【形態別】消滅型の破産が95.1%

形態別は、最多が「破産」の137件(前年同期比124.5%増)で、2年連続で前年同期を上回った。構成比は95.1%(前年同期98.3%)で、「人手不足」関連倒産の大半を占めた。
一方、再建型の「民事再生法」は前年同期と同件数の1件だった。このほか、特別清算が2件で2年ぶり、取引停止処分が4件で3年ぶりに、それぞれ発生した。
業績不振が続く企業は資金制約もあり、新たな従業員採用の余裕がない。また、従業員をつなぎとめるための待遇改善も難しく、業績回復の遅れもあって事業継続の困難さから破産を選択するケースが多い。

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