年末年始は感染対策が完全に手薄に…「インフルエンザ2度め感染」の危険性

流行下で“複数回感染”を懸念する声が上がっている(写真:PIXTA)

11月28日、秋田県は県内の高齢者施設でインフルエンザの集団感染が発生し、そののち90代の患者2人が死亡したと発表した。

「昨年までコロナの影響で落ち着いていたインフルエンザが、今シーズンは猛威を振るっています。国立感染症研究所が発表している11月29日現在の報告によると、定点当たりの報告数は28.30となり、前週の報告数の21.66よりも増加。この1週間の患者数は約95万人に上ると推測されています」(全国紙記者)

全国各地で学級閉鎖を余儀なくされ、医療現場ではインフルエンザ患者が後を絶たないという。こうした流行下で“複数回感染”を懸念する声が上がっている。竹内内科小児科医院(東京都大田区)の院長・五藤良将さんが解説する。

「すでにインフルエンザに罹患してしまった患者さんのなかには“免疫があるから、今シーズンは感染しない”“もうワクチン接種の必要はない”と考えている人もいるかと思います。しかし、インフルエンザにはさまざまな型があり、一度感染しても、別のインフルエンザの型に感染することは、例年でもありえること。今年は流行期が長いので特に注意が必要です」

たとえば東京都の場合、東京都健康安全研究センターが発表するインフルエンザ情報によると、コロナ禍前の’19年は前年12月から患者が増加を始め、1月に入り急増して中旬ごろにピークを迎え、2月中旬くらいまでに収束している。だが今年は8月中旬から流行が始まり、10月初旬にピークを迎えたものの下降線はなだらかで、11月にもまた上昇線を描き始め、いま全国の保健所管轄区域で警報レベルを超えている区域は249か所(44都道府県)、注意報レベルを超えている区域は250か所(44都道府県)となっている。

「複数回感染のリスクが高まっているのは、こうした流行期間が長いことに加え、この数年、インフルエンザが流行しなかったため、免疫力が低下していること、そしてコロナが5類に引き下げられ、感染対策も緩くなってきていることなどが要因です」

■A型B型あわせて3回感染する危険性も

では、現在はどのような型が流行しているのだろうか。

「季節性インフルエンザといわれるA型が流行していますが、A型H1とA型H3が5:5の割合。それぞれ免疫が異なるため、どちらかに感染しても、もう一方の型に感染する可能性があるのです」

専門家のなかには、今年は流行の開始が早かったので、収束も早いという楽観的な見方も。

「仮にそうだとしても、例年、A型の流行が収まると、年間を通して散見されるB型が目立ってきます。12月、1月にB型がはやりだすと1シーズンに3回も感染する危険性があるのです」

そもそもインフルエンザは、高齢者や子供にとっては高いリスクのある病気だ。

「高齢者の場合は、インフルエンザを発症することで体の抵抗力が弱まり、肺炎球菌や黄色ブドウ球菌などによる細菌性肺炎を引き起こしてしまうことがあります」

’20年には、アメリカでインフルエンザによる死者は1万人を超えたほど。甘く見るのは危険なのだ。

「子供で注意すべきはインフルエンザ脳症です。インフルエンザに罹患して脳が炎症を起こし、けいれん、異常行動、人の名前がわからなくなるなどの意識障害をもたらしてしまいます。死亡率が30%、後遺症が残る可能性が25%と高いため、要注意です」

インフルエンザに複数回感染すれば、それだけ肺炎などを起こす可能性は高まる。

「また、感染後、抵抗力や免疫力が落ちているときに、連続して別の型のインフルエンザに感染すれば、重症化するリスクは高くなると考えられます」

一度、感染したからといって安心できないのが、今シーズンのインフルエンザ。複数回感染を防ぐためにも、予防が求められる。

「もっとも重要なのは、ワクチンを接種すること。今年のワクチンは、現在、流行しているA型H1やA型H3、B型など4種類に対応しています。

その効果に関して、たとえばアメリカのCDCは、ワクチン接種で医療機関に受診するリスクを40〜80%減少させると報告しています。また’21年に発表された論文でも、ICUの入室リスクを26%、死亡リスクを31%抑制するという結果でした。重症化を防ぐ効果があるのです。

ワクチン効果は5カ月ほど続きます。今年はワクチン数が潤沢なので、まだ間に合うはずです」

費用はクリニックなどで3千500円から5千円ほど。自治体によって、65歳以上は無料となったり、子供は1千円ほどの補助金が出る場合もある。

■予防でタミフルやイナビル服用でウイルスを増やさない

「インフルエンザに感染した場合は、早めに医療機関を受診すること。タミフルやイナビルという薬がありますが、基本的にはウイルスを撃退するのではなく、ウイルスの数を増やさない効果があるもの。つまり、ウイルスが増殖する前に治療することが肝心です。

しかし、インフルエンザの検査は発症後8時間くらいたたないと陽性反応は出ません。心配な場合は、予防として服用するのも選択肢。ただし、予防の場合は自由診療(10割負担)なので、7千〜1万円と高額になってしまいます」

もちろん、コロナ禍と同様、手洗いやマスクなど、日々の感染対策も忘れてはならない。

家族に感染者がいれば、床などにウイルスが付着した飛沫が飛んでしまう場合もある。

「床に直接座る生活スタイルの人もいるかと思いますので、定期的に床掃除をすることも、感染対策につながるはずです」

とくに今冬は、全国的に咳止め薬や痰切りの薬が不足している。

「処方箋を書いても薬局から『在庫がありません』と連絡がきます。複数回感染となれば、長期間つらい症状をがまんすることに」

新型コロナの時ほどの感染対策を取っていない今、忘年会や帰省など、感染リスクが高まる年末年始に向けて、2度、3度と繰り返し感染し重症化する前に、できる対策を。

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