ヤギでイノシシ撃退!? 農地に体臭染みつかせ「獣よけ」 雑草食べ見通しも良く、効果は…

実証実験で飼育され、草を食べるヤギ=加東市森(加東市提供)

 農地を荒らすイノシシにはヤギが効く!? 獣害対策にヤギを用いる検証実験が兵庫県加東市で行われている。農地周辺で飼って体臭を染みつかせ、獣よけとしての効果を確かめる。同時に雑草を食べさせて隠れる場所をなくし、草刈りの手間も減らす-という寸法だ。まだ実効性は判然としないが、ユニークな手法に一定の効果を感じる地元農家も。同市は実験結果の分析を進めつつ、2024年度の取り組み継続を視野に入れる。(岩崎昂志)

 イノシシは本来は臆病な性格で嗅覚に優れるが、慣れると大胆に山を出て人里に現れる。同市農地整備課によると、市内では主に8、9月など稲の収穫期前に田んぼや農道に入って荒らし、稲穂や畑の作物を食べることがある。市内の農業被害額は20年度が約542万円、21年度は約736万円。豚熱(CSF)の影響で個体数が減ったとみられる22年度でも約306万円だった。

 実験は今年7月下旬~11月上旬に、同市秋津の西戸地区と、同市森地区でそれぞれ2カ月ほど実施。ヤギは専門業者から同市がレンタルし、飼育は柵で囲う方法や、くいを打ってワイヤとリードでつなぐ方法などを試した。

 同市によると、ヤギは1日当たり約6平方メートルの草を食べるといい、飼育範囲をあらかた除草できたら隣へ移動することを繰り返した。人間の草刈りに比べればおおざっぱだが、周囲の見通しは良くなったという。栄養補給の岩塩を用意し、飲み水の交換や日々の状況確認は、各地区の住民らが担った。

 森地区では、イノシシの出没の通り道とみられていた、ため池の堤防や斜面で飼育。区長の田尻孝普さん(63)によると、飼育中、イノシシは池周辺には現れなかった一方で、少し離れた場所に出没した。「ヤギはおとなしく、体感としては効果を感じられた。飼育場所を固定せず散歩して体臭を広げる方法もあるかも」と前向きに受け止めた。

 山から少し離れた草地で飼った西戸地区では、今年はイノシシの出没自体が少なく効果測定が難しかったという。ヤギの世話を主に担った区長の石田浩之さん(66)は「飼育を続ける大変さは課題だが、被害対策の効果があるなら地域にとって意味は大きい」と望みを託す。

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 同市は防護用の金網を張り巡らせる補助事業などを柱に展開しつつ、試験的な有害鳥獣対策として、ヒトデの粉末を用いた忌避剤などさまざまな手法を検証している。ヤギの活用もその一環だ。

 ヤギのレンタル費や資材費など、23年度の事業費は計約70万円。飼育終了後もセンサー付きカメラを設置してイノシシの出没状況を観察し、ヤギの体臭による効果が続くかどうかを調べる。年度内にいったん分析結果をまとめ、より効果的な飼育場所を探るなど、24年度の実験継続を見据える。同市農地整備課は「被害が出ている以上、少しでも減らすために打てる対策を探りたい。とりあえずやってみて、効果が出れば補助事業化も考えたい」と話す。

 イノシシなどによる農林業被害は、農家が営農意欲を奪われるなど影響が大きい。兵庫県などによると、公的機関がヤギで獣害対策を行う事例は把握されておらず、各自治体や生産者が独自に試行錯誤しているのが実情のようだ。一方で、専門家は「まずは防護柵や狩猟による捕獲など、基本的な技術を普及させるのが第一」と強調する。

 県自然鳥獣共生課によると、県内の2022年度の野生鳥獣による農林業被害額は4億6850万円に上る。特にイノシシやシカは広範囲で被害が出ている。

### ■県内被害4億6850万円、対策手探り

 県森林動物研究センター(丹波市)でイノシシ担当の森林動物専門員、大田康之さんは基本的な対策として、防護柵の設置▽適切な捕獲▽隠れ場所となる草を刈るなどの環境整備▽餌となるごみや果樹を処理する-などを挙げる。

 ヤギの活用について尋ねると、「放牧のウシがイノシシ防除に役立ったという話は聞いたことがある」と大田さん。「ただし、新しい手法はイノシシ側が慣れてしまえば効果が一時的に終わる恐れもある」と指摘し、「収穫直前に農作物を守る目的で導入してみる手段はあるかもしれないが、前提として効果が確立された防護柵などを進めてほしい」と呼びかける。

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