京アニ事件・青葉被告「歯止めなかった」関わり断ち、のめり込んだ掲示板 獄中の姿とは

強盗を犯す直前、青葉被告が出て行ったアパートの室内の写真。破損したノートパソコンやノートのようなものも見える(提供)

 2023年9月に始まった京都アニメーション放火殺人事件の裁判員裁判は第16回まで進んだ。平成以降で最多の36人を殺害し、32人に重軽傷を負わせた青葉真司被告。一体何が被告を極悪の犯罪に走らせたのか。公判での被告の発言や関係者への取材を基に、被告の実相に迫りたい。 

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 「おまえ、部屋でいつも何してんの」

 2014年、栃木県さくら市の刑務所。コンビニ強盗を犯して収監されていた、当時30代半ばの青葉真司被告(45)は、隣室の受刑者に声をかけられ、言葉少なに返した。

 「小説を書いています」

 隣室だった関東地方の50代男性が取材に応じた。「『どんな小説』って聞いても教えてくれなかった」と思い返す。「運動の時間などにこっちから話しかけることはあっても、向こうから話してくることはなかった」。人との関わりを意識的に避けようとする姿が印象に残った。

 「人と関わるメリットが見いだせなかった」(第7回公判での被告の言葉)

 青葉被告が7年間働いた、さいたま市東部の岩槻区のコンビニは、そば店に変わっていた。

 被告は真面目に働こうとする一方、同僚や店長が自分に仕事を押し付けてくると感じ、不満をため込んだ。気に入らない後輩を無視したり、パイプ椅子を蹴って威圧したりすることもあった。いら立ちは他者への諦めに変わる。

 「強気な態度で出て改善ができなければ、関係を切るという考え方」(第5回公判)

 バイト先での人間関係に嫌気がさし、非正規雇用の職を転々とした。期間は次第に短くなり、31歳で無職に。生活保護を受給し、社会とつながる糸は細くなっていく。そんなとき、テレビで見た京都アニメーション作の「涼宮ハルヒの憂鬱(ゆううつ)」に感動し、小説の執筆を始めた。自室にこもり、「本音が書き込まれている場所」と被告が信じるネット掲示板にのめり込む。

 「上手いネタ考えたなw」「素人の作品を読んでもらえるのはありがたい事」。作家志望が集まる掲示板には被告のものとされる、自己主張を織り交ぜた書き込みが今も残っている。昼夜を問わず投稿されていた。

 「私には友人もいないし、仕事場の結びつきがあるわけでもない」(第8回公判)

 孤立を深める青葉被告に手を差し伸べたのは、被告が9歳の時に家を出た実母だった。初犯で逮捕されて執行猶予となり、行き場のない息子と、約20年の時を経て接点を持った。

 茨城県で再婚相手と暮らす家に被告を同居させた。小説を書くためのノートパソコンを買い与え、被告が家を出た後も、約15キロ離れた集合住宅に生活費や食べ物を頻繁に届けた。しかし12年、被告が34歳の時にコンビニ強盗を起こしたことで関係は終わる。被告宅の捜索に立ち会った母親の視線の先には、怒りをぶつけるかのように壊されたノートパソコンがあった。

 「家族とは縁を切っていますし、家族からも縁を切られてます。(中略)最終的に歯止めになるものがなかった」(第9回公判)

 今年10月、母親が住む茨城県西部の街を訪れた。利根川と鬼怒川に挟まれた平野部にある一軒家の玄関から顔を出した母親は言った。「もう関係ないですから」

京アニ事件連載「理由」

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