【街を歩くと】浅野川の友禅流し復活? 正体は加賀獅子のカヤ

職人が川で反物の糊を落とす光景がよみがえった浅野川

  ●観光客らスマホ向ける

 冬晴れとなった8日、観光客でにぎわう金沢市東山を散策中、梅ノ橋の上に人だかりを見つけた。欄干からスマホを向ける先を見ると、浅野川に反物がゆらゆらとゆれている。確か浅野川での友禅流しは5年前に途絶えたはず。よもや復活のニュースではと、河川敷に下りた。(文化部・寺田展子)

  ●平木屋、仮工房で作業

 すっきり晴れ渡った冬の日差しを浴びて、川面がきらきらと輝いている。膝まで水に漬かり、反物の糊を丁寧に洗い流す職人の姿は、5年前のままだ。

 友禅流しが復活したのだろうか。思い切って声を掛けると、「残念ながら、これは着物じゃありませんよ」と、作業する染物師の平木豊男さん(68)が答えてくれた。「友禅」流しではないらしい。

 平木さんがたわしで反物をこすると、糊が流され、真っ赤な牡丹(ぼたん)柄がくっきりと浮かび上がる。大正ロマンのレトロ柄かしらと思ったが、さすがに着物の柄にしては大きすぎるだろう。それにしてもどこかで見たことがある柄である。

 「これは加賀獅子のカヤ。色止めをして、つなぎ合わせたら完成です」。平木さんの言葉で合点がいった。半円状の竹の骨組みにかぶせて使う、あの大きなカヤを染めていたのだ。布地も着物で使う絹ではなく、丈夫な麻である。

 平木さんは、創業250年以上になる老舗染物店「平木屋染物店」(金沢市片町2丁目)の職人だ。普段は近くの犀川の清流で糊落としをしているが、染物店の改修工事のため2年ほど前から浅野川沿いの仮工房に移ったという。今は5年前まで浅野川で友禅流しをしていた元地染業の荒木順一さんの工房を借りて仕事をしている。

 二つの川を知る平木さんは「川幅がある犀川はドーっと水が流れるけど、浅野川は緩やか。深くもなく、浅くもなく、流すのにちょうどいい場所を見つけるのは、おんな川もおとこ川も一緒や」と水面を見やる。

  ●今年で犀川に戻る

 浅野川で友禅流しをする職人は多くが人工の川を備えた加賀友禅染色団地(金沢市専光寺町)に移ったが、平木屋のようにカヤやのぼり旗など大物を染めるには、やはり自然の川が一番だという。

 平木屋染物店の改修も今秋で完了しており、「今年いっぱいで犀川に戻るよ」と平木さん。カヤは反物計14枚を流し、この日で作業は終わったそうだ。

 浅野川の糊落としもこれで見納め。おんな川での貴重な「冬の風物詩」をしっかり目に焼き付けた。

欄干から作業の様子を見守る住民や観光客=金沢市東山の浅野川梅ノ橋

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