[社説]官房長官に裏金疑惑 説明拒むなら辞任せよ

 自民党派閥でパーティー券収入の一部を政治資金収支報告書に記載せず「裏金」としていた疑惑が、政権中枢を直撃している。

 最大派閥の安倍派(清和政策研究会)に所属する松野博一官房長官側が、最近5年間で政治資金パーティー券の売り上げ1千万円超のキックバック(還流)を受けていたと報じられた。

 松野氏は派閥の運営を取り仕切る事務総長を2019年秋から約2年務めていた。還流の事実があったとしたら、知らないことはないはずだ。

 しかし、衆参予算委員会の集中審議で松野氏は、自らの政治資金について「適正に処理してきたと考えている」と答弁したが、還流に関しては「私の政治団体について精査して適切に対応していきたい」「政府の立場として答えを差し控える」などと同じ答弁を何度も繰り返した。

 テレビ中継を見た国民はあきれたのではないか。

 事実ならば、なぜ派閥と議員側双方の政治団体の収支報告書に記載しなかったのか、そのカネを何に使ったのか、明確な説明が必要だ。

 疑惑を否定もせず、説明責任を全く果たそうとしない姿勢は、何かを隠していると思われても仕方がない。

 官房長官は「内閣の要」で、政府のスポークスマンだ。自らに降りかかった「政治とカネ」に関する説明を拒むなら、信頼は失われ、職務の遂行は難しい。疑惑について「答えられない」のなら、速やかに辞任すべきだ。

 当然、岸田文雄首相の任命責任も問われる。

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 自民党総裁でもある岸田首相の裏金疑惑への対処も後手後手でグダグダだ。

 予算委員会で質問に立った立憲民主党の枝野幸男氏は「議員側へのキックバック分の不記載は違法かどうか」「裏金の不記載は脱税になるのではないか」などと追及したが、岸田首相は「捜査への影響」を理由に明確な説明を避け続けた。

 疑惑に対し「先頭に立って政治の信頼回復のため努力する」としている岸田首相だが、最近になって「対応の第一歩」としてパーティーの自粛を示しただけだ。

 各派閥のトップに対して説明するよう指示も出していない。政権の判断は甘く遅く、実態解明に積極的には見えない。

 内閣支持率は20%台に下落し、「政治とカネ」問題でさらに落ち込む可能性すらある。政権は土俵際に立たされている。

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 安倍派では18~22年に1億円超が裏金になり、少なくとも10人以上が還流を受けていたという。この間、パーティーの実務を担う派閥の事務総長は松野氏の他にもいる。

 官房長官だけが辞任して済む問題でもない。

 東京地検特捜部は、政治資金規正法違反容疑で安倍派を重点的に捜査している。

 自民党の自浄作用が期待できない以上、捜査機関による徹底した実態解明が求められる。派閥の解体を含め、「ザル法」と揶揄(やゆ)される政治資金規正法の改正に向けた議論も進めるべきだ。

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