辞任不可避か

 〈…実際のところ「料亭に行ったことがありますか」と聞かれれば「ある。でも、ほとんど無い」という答えになる。…「今の政治家は余裕が無い。特に僕のような陣笠は、ものすごく余裕が無い」ということだ〉▲駆け出し議員の時分に書いたものだろうか、懐事情の厳しさをつぶやくエッセーを見つけた。大学時代に通った〈千円を握りしめて行くと倒れるまで飲めた店〉のことや、低カロリーの発泡酒を愛飲する自宅のこともリズミカルに綴(つづ)られている▲自民党には「パッとしない中堅議員の会」と称する議員仲間の集まりがあるらしい。〈地味ながら叩(たた)き上げで人間味のある者が多い〉〈庶民感覚を忘れないように会合はおでん屋で…〉とメンバーの1人。自虐とユーモアあふれる会の名付け親は先ほどのエッセーの筆者▲今や内閣の“顔”であり、司令塔である。「パッとしない」の形容はもはや当たるまい。その人、松野博一官房長官を所属派閥の裏金疑惑が直撃している▲会見や国会答弁で連発した「差し控える」は〈遠慮してやめる〉こと。言葉の誤用はともかく、持ち味の庶民感覚はどこに置き忘れてしまったのだろう▲年初めのSNSに〈ピョンピョンと小さな飛躍を重ねて〉…「辞任不可避」の声に包まれる年の瀬をどれほど想像していたか。(智)

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