高度医療支える臨床工学技士 青森県今後10年で100人必要 「育成拠点を」

エクモの調整をする後藤会長。医療の進歩に伴い、機器の操作や管理を担う臨床工学技士の必要性が年々高まっている

 新型コロナウイルス禍で注目された体外式膜型人工肺「ECMO(エクモ)」など、医療現場で使うさまざまな機器を一手に操作・管理する「臨床工学技士」。近年の医学の進歩に伴って機器を使った先進医療が急増しており、青森県臨床工学技士会の後藤武会長(弘前大学付属病院臨床工学部技士長)は「本県では今後10年間で約100人の技士が新たに必要」と話す。人材育成を担う高等教育機関がないのが青森県の課題で、後藤会長は「県内に育成拠点を」と訴える。

 臨床工学技士は、同会が設立された1994年当時は人工透析などの機器管理・操作が主な役割だったが、近年はエクモのほかロボット遠隔手術や高気圧酸素治療の支援など業務が急拡大。「縁の下の力持ち」から「医療チームの主要プレーヤーの一人」となっている。

 不整脈治療「カテーテルアブレーション」では、医師が心臓に入れたカテーテルを操作し、技士が心臓の電気信号を立体画像に描き起こす。後藤会長は「医師と『二人羽織状態』。あうんの呼吸が必要」と話す。

 また、弘大病院では、技士の技術向上により、エクモ使用時の合併症の発症リスクが低下。コロナ患者の病状が重篤になる前から積極的に使用できるようになり、患者生存率が向上した。

 同会会員は会設立時の72人から30年で194人に増加。将来は人工知能(AI)による医療も増え、機器を扱う技士がますます必要とされるという。

 現在、同技士養成を掲げる大学は全国で50校前後とみられ、北東北にはない。

 弘大病院でエクモ治療に携わる橋場英二准教授は「医療機器についての技士の知識や運用経験は医師以上。高度医療になくてはならない存在」と強調。後藤会長は「医師不足が深刻な青森県では、技士が医師の仕事を行う『タスクシフト』を進めるためにも技士の増員が必要」と語った。

 同会は10日、弘前市内で創立30周年記念式典を開く。

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臨床工学技士 医学と工学を兼ね備えた専門医療職で、医師の指示の下で生命維持装置や心臓カテーテル、高気圧酸素治療機器などを操作するほか、医療機器の保守管理を一手に担う。医療の急速な進歩を受け、専門的な医学知識と先進医療機器への対応が求められている。国家資格は1987年に定められた。弘大病院では現在、24人の臨床工学技士が約4千台の機器を管理し、24時間365日、交代制で業務に当たっている。

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