高校、Jクラブアカデミーの強豪チームが集うリーグを制覇した東西王者が対戦して2種世代最強を決める高円宮杯JFA U-18サッカープレミアリーグファイナルが今月10日(午後1時、埼玉スタジアム2002)に開催される。
この決戦前に今季J1昇格、J2優勝へと導いたFC町田ゼルビア黒田剛監督からバトンを託された青森山田高正木昌宣監督に、Qolyが単独インタビューを敢行。
2004年から青森山田高サッカー部コーチを始め、長きに渡って黒田監督の参謀役を務めた。昨季から監督に就任し、今季は高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグEASTを優勝へと導いた名将にキャリアの目標、理想のサッカー、高校選手権挑戦について聞いた。
決戦への意気込み
これまで青森山田高はプレミアリーグファイナルを2度制覇(2021年はEAST制覇も新型コロナウイルス感染拡大によりファイナルは開催されず)した。3度目の優勝を目指す同校は、WEST王者サンフレッチェ広島ユースと激突する。両者は2016年にも激突しており、その際は延長戦も0-0で決着がつかず、PK戦(4-2)の末に青森山田高が初栄冠を勝ち取った。因縁の対決に正木監督は闘志を燃やす。
――今季を振り返っていかがでしたか。
初めて1年間自分自身で指揮を取ったので、いままでのコーチ時代とまったく違う形でスタートしました。いろいろな意味で不安とか、そういったものも多々ありました。ただ始まってみたら選手たちが自分たちの目標に向かって妥協することなく取り組んでくれたので、逆に助けられた1年でしたね。
――今季プレミアリーグEASTを尚志高(福島)とのデッドヒートを繰り広げて優勝したことについて率直に思ったことを教えてください。
開幕からずっと勝ち星を重ねられて首位に立つことが多かったので、最後の最後まで分からない状況の中で、ずっと追われた1年だった印象はありました(苦笑)。
――ファイナルの相手は広島ユースになります。2016年の再現になりましたけど、プレミアファイナルに向けての意気込みをお聞かせください。
2016年は0-0からPKで勝って優勝。2021年はWESTがサンフレッチェで、EASTがウチだったので、非公式でやってそこも2-2の引き分けと90分では決着がついていないゲームが続いていました。
そういった意味ではしっかりと90分以内で勝ち切って優勝したいという強い思いがあります。ただWESTというレベルが高いリーグで優勝しているチームなので、そんなに簡単にいかないと思います。きっちり準備をしてやりたいと思います。
偉大な前任者から託されたバトン
これまで同校は黒田剛監督指揮の下で高円宮杯3回、全国高校選手権3回、全国高校総体2回優勝と青森県の中堅校を全国屈指のチームへと育て上げた。ただ黒田監督は28年間務めた青森山田高を離れ、今季から町田の指揮官に就任した。名将からバトンを引き受けた正木監督に胸中を聞いた。
――2004年から19年山田で指導されていますけど、監督とコーチの違いを教えてください。
簡単にいえば「責任がすべて私になった」という点です。コーチと監督の違いは責任だと思っています。責任がすべて自分にのしかかってくる。いままでの19年間は黒田前監督がいて、自分でも責任があるぐらいの気持ちでやってはいましたけど、ただどこか黒田監督が全責任を背負う形になっていました。
監督になって1番は誰に頼ることなく、自分で責任をしっかり背負ってやることが1番変わったことです。大変なことは、ずっとコーチ時代からも選手が毎年変わりますし、いろんな生徒もいます。そこはそんなに大きく変わっていません。
ただサッカー以外のところで若干仕事が増えました(苦笑)。そこはこれからもきちっとこなしていかないと駄目だと思っています。
――黒田前監督が偉大な歴史を築いてきました。引き継ぐ際にをのプレッシャーはありましたか。
もちろん(高校サッカー)日本一の組織を引き継ぐということで、相当なプレッシャーがありました。
ただ、プレッシャーを感じている暇もないぐらい生徒たちと、どんどん次から次へといろんなことを経験しました。じっくりプレッシャーを感じたというよりは、逆にやりがいのほうが大きかったという気はしています。
理想のサッカー
青森山田は個の力を生かしたサイドアタック、優れた身体能力を生かしたセットプレー攻勢、激しいプレッシングをかけて高い位置からボールを奪って攻めるショートカウンターなどが目立つが、時折ボールを保持しながら緻密な連係で崩すポゼッションフットボールを見せることもある。変幻自在の青森山田サッカーの神髄を尋ねた。
――今季のチームを拝見して、ときには縦に速く、ときには丁寧につなぎ、これらを両立する場面もありました。正木監督が青森山田で実現したい理想のサッカーを教えてください。
ずっと前から黒田監督と一緒に掲げていたことが、「なんでもできるサッカー」、「なんでもできる選手」。
チームが掲げている目標が日本一なので、日本一になるチームはどういうチームかと考えたときに、相手に応じてやれるかどうかというところが本当に大事になってくると思います。
また選手としてもここがゴールじゃなく、この先大学、プロ、アマチュアでやる選手といろいろいると思います。どのステージに行ったとしても、なにか一つしかできないのであれば勝負をできないと思っています。
自分の武器を磨きつつもさまざまなことに適応できる選手を育てたいと思っています。総合的に言うと、なんでもできるチーム・選手を育成したいと考えてやっています。
――ポゼッションだと戦術として仕込むのに時間がかかるといわれます。逆にカウンターだと完成は早いけど、戦術としての劣化が早いと聞きます。両立する難しさを教えてください。
結局判断だと思っています。どの相手であろうが、どんな状況であろうが。結局サッカーはゴールを奪う競技であって、1番シンプルにゴールを目指す方法があるのであれば、それを徹底的にやればいいと思います。
それがロングボールなのか、サイドからのドリブルなのか、クロスなのか、もしくはポゼッションなのか。相手の状況、ゲームの状況で分かれてくると思います。
ポゼッションも、結局ボールを動かすことが目的ではなくてゴールを奪うことが目的です。それが理解されていればそんなに(準備する)時間がかかることでもないと思います。両立するには必ず判断、相手の状況を見ること、判断することがベースにあればそんなに難しいことではないかなという気がしています。
個性の強い選手たちをまとめる難しさ
これまで多くのプロ選手を輩出してきた青森山田高。選手たちは優れた技術を持つ一方で強烈な個性を持つ選手たちも数多くいる。そのためマネジメントは簡単ではない。
――青森山田は優れた選手が多く集まりますが、その分個性が強い選手も多い傾向があります。個性的な選手たちをまとめることは大変そうですね。
部員が200人いますから、200人の部員がいれば200人の個性があります。我が強いもの・弱いもの、協調性があるもの・ないものと多々います。ただウチにくる子たちはみんな目標にしていることにブレがありません。
そういった意味では選手たちの高いモチベーション、志があって、それをベースにみんなに落とし込んでいます。だから(まとめることは)当然難しいです。いまでも完璧にみんながまとめ上がっているというわけではないですし、発展途上のところもいっぱいあります。
ただちょっとズレたときに軌道修正して、さきほどいったように一人、一人にどれだけ目を向けられるかという点が指導者としてのスキルにもなってくるのかなという気がします。
でも難しいですよ。200人いる部員をまとめ上げることは(笑)。
我々であれば他にスタッフがいて、トレーナーがいて、学校の先生がいて、色々な形でやってくれています。一人でまとめることは無理なので、まず根幹となるスタッフや、チームであればキャプテンや学年の代表がいます。
そういう方々ときっちりと共通理解をしていけばやれるんじゃないかなと思います。一人の力では絶対無理だと思っています。
――指導した教え子の皆さまは卒業後にさまざまなシーンで活躍されています。どのように選手たちを成長させて世に送り出したいですか。
社会に出て1番変わることは、導いてくれる人がいなくなることです。自立しなきゃいけないので、ここでも自立ということはかなりテーマとして掲げています。だからなんでもかんでもゆったりやらせれば自立しない子供になってしまいます。
ある程度自由を与えるところは与えながら、その中でちょっとずれたなというところを修正する。それを繰り返しています。やはり自立というところは一つありますね。自立した生徒(を送り出すこと)ですかね。というのは案外思っていますね。
――嵯峨理久選手(J2いわきFC)、髙橋壱晟選手(J2ジェフユナイテッド千葉)らOBが人生の師に正木監督の名前を挙げることがあります。人間教育で心がけていることを教えてください。
一人、一人個性があるので、一人、一人とできるだけ会話して、触れ合うことを心掛けています。監督になったからといって特別距離が遠くなったわけでもなく、ただメリハリをつけなきゃいけない。そこはかなり意識しています。
でも個人、個人、試合出ている、出ていない関係なく、できるだけ全部員と会話しながらやれればと思っています。
キャリアの目標
青森山田高で19年指導する正木監督。コーチから監督になっても考えや行動にブレはない。指導者として抱く大志は指導する選手たちの成長を願う言葉だった。
――今季の目標を教えてください。
目標はいろいろあります。チーム全員で掲げている目標は3冠という目標でスタートしました。選手個人で見れば、当然みんなプロサッカー選手になりたくて青森山田というチームを選んできてくれています。そして我々というか、私自身もその目標は自分の中でもまったく同じものであってブレていません。
そういった意味では、あと2つのタイトルを取れるチャンスがあるので、その目標に向かってチームとしてやっています。今年はプロへ行く選手はいないですけれど、ただプロに行けるぐらいの選手たちはいると思います。
彼らがこの次の大学というステージでもっと活躍できるようにあと残りわずかですけど、一緒にサッカーを頑張ってやりたいと思っています。
――法政大の小湊絆(つな)選手のように1年生で活躍している選手もいますしね。
そうですね。(明治大の)多久島(良紀)も出ていますし、卒業した先輩たちがかなり頑張ってくれています。さきほど言ったここ(高校)がゴールではないですし、プロになってゴールではないです。大学、プロに行って活躍できる選手がこの先出てきてほしいと考えています。
――キャリアの目標をお聞かせください。
キャリアの目標ですか…。チームであれば何回優勝しても選手が毎年変わるので、毎年その選手たちとともにチームで全国優勝という目標はブレずにやっています。キャリアとしては、ワールドカップといった世界で活躍する選手を育てたいという思いもあります。
そして山田で私が関わった生徒たちがサッカーにずっと携わっていくような卒業生を出したい。その思いでずっとやっているので、ずっとブレずに当面はやっていくと思います。
正木監督にとっての選手権
これまで黒田監督とともに選手権を19回経験した。悔しい過去、うれしい記憶などさまざまなストーリーがあった。そんな特別な舞台である選手権はどのような舞台なのか。正木監督はその答えを屈託のない笑顔で語った。
――今季のチームの仕上がりについて教えてください。
仕上がりはどうですかね。でも本当に去年の11月から県新人戦がスタートして、そのときからいまのメンバーを見ていますけど、攻守にわたって本当にバランスがいいです。
またチームだけじゃなく、個でも全国で勝負できる子たちがいると思います。
ただまだなにも成し遂げていないですし、彼らにとっては最後の目標があります。残り1カ月でもっともっと成長して、サッカーをやっていく以上「これぐらいでいいや」ということは絶対にないです。チームとしてもまだまだ成長できると考えてやっています。
――正木監督にとって高校選手権という大会はどのような舞台ですか。
私はただ指導者になりたかったわけでなくて、高校サッカーの指導者になりたかったんですよ。どのカテゴリーでもいいわけじゃなくて、自分にとっては指導者の目標としての位置付けではかなり高い位置にある気がしています。
選手でも(選手権を)3年で3回出させていただいたし、指導者でも19回。あの舞台行っていますけども、何回行っても「もういいや」という気持ちにはなりません。そういう意味では表現が難しいけど、「これのために指導者になった」ので、ここ無きにしてどうのこうというのは、いまのところ考えてはいません。
――選手権の意気込みを教えてください。
優勝したいですね。優勝するために一つ、一つ神経を使ってやっていきたいと思っています。
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決戦を控える正木監督はときには熱く、ときには優しく語りかけるように青森山田高を語った。多くのOBが心の師、恩師とさまざまな表現で敬愛する理由を垣間見えた。高円宮杯、選手権と決戦に挑む新指揮官がどのようなサッカーを見せて栄冠を掲げるのか。楽しみで仕方がない。