「びっくりというか感動した」モリゾウ氏の決断。トヨタとF1の関わり方と平川、宮田への期待【中嶋一貴インタビュー/後編】

 F1アブダビGPが終わった翌週、F1が開催されたばかりのヤス・マリーナ・サーキットで3日間に渡って行われたFIA F2のシーズンオフテスト。2024年からロダン・カーリンに加わり、FIA F2に参戦することになった宮田莉朋とともに、現場を訪れた中嶋一貴TGR-E(TOYOTA GAZOO Racingヨーロッパ)副会長。今回のFIA F2参戦プロジェクトを主導する中嶋一貴副会長に、前編に続いてF1、FIA F2との関わり方、トヨタのドライバー育成とモリゾウ氏の狙いなどについて聞いた。

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──日本と文化が異なるヨーロッパでレースする上で必要なサポートのひとつに、日本人のマネージャーのような、日本人の心を理解しているスタッフを置くことがあると思います。トヨタがF1に参戦していた時代は有松義紀さんという存在がいましたが、そういう人材を充てる予定はありますか?中嶋一貴(以下、中嶋)「私自身、F1を目指してヨーロッパでレース活動していたときに有松さんにサポートしてもらっていたことを思い返しながら、これから彼らが必要だと思われるサポートをいくつか考えています。もちろん、私ができることは私がやりますが、それ以外にも人も含めて、必要だと思われるサポートをしっかりと準備していきたい。ただ、カーリンは日本人とこれまでも何度もレースして来たチームですし、つい最近まで日本人が乗っていました。またELMS(ヨーロピアン・ル・マン・シリーズ)もチーム自体の雰囲気を私自身が見たうえで決めているので、そのへんのことはあまり心配していません」

──ロダン・カーリンはイギリスのチームで、ELMSのチームはフランスですが、宮田選手はどこを拠点にする予定ですか?中嶋「まだ決まっていませんが、WEC(FIA世界耐久選手権)のリザーブドライバーでもあるので、私たちのWECの拠点があるドイツか、カーリンの拠点があるイギリスかのどちらかが選択肢になると思っています」

──今回のトヨタの決定によって『トヨタはWEC、ホンダはF1』というイメージの垣根がなくなればいいですね?中嶋「私自身、F1に参戦して、WECも参戦していたので、どちらがどうこうという思いは個人的にはありません。ただ、トヨタがWECに参戦していて、ホンダがF1に関わっているので、若手のドライバーたちが『F1を目指すならホンダ』みないな考えを持っていたのは当然だったと思います。そうではなくなるきっかけになればいいなと思っていますし、今回の決定は私自身もびっくりしています」

──豊田章男会長から、今回の一連の決断を聞いたときは、どんな気持ちでしたか。中嶋「びっくりというか、感動しました。今までもドライバーファーストという言葉は頂いていたのですが、実際にこうした決定を直接聞いたときは、『グッ』と来るものがありました」

──ということは、今回の一連の決定は豊田章男会長がいなければ、実現していなかった?中嶋「そう思います。少なくとも私にはそのような思考に達するまでには至っていなかった。ただ、タイミングも大きく関係していて、(小林)可夢偉の後、トヨタ内に海外からオファーが来るようなドライバーがいたのかというと、残念ながらいなかったと思います。その点、平川(亮)は日本で活躍した後、WECやル・マンで結果を出した。莉朋もあの年齢(24歳)でスーパーフォーミュラとスーパーGTのダブルタイトルを獲得したのですから、世界から注目されるのは当然のことだったと思います。そのような実績がなかったら、トヨタがいくら応援したくても、今回のような状況にはならなかったと思います。あくまでチャンスをつかんのは本人で、われわれがそれを後押ししたという感じです」

──マクラーレンのリザーブドライバーとなった平川選手、そしてFIA F2に参戦する宮田選手に期待することは?中嶋「私の中では、F1がとか、WECがとか、分ける必要はなくて、ブレンドン(・ハートレー)のように、WECからF1へ行くドライバーもいるし、私をはじめ多くのドライバーがF1を経験してからWECに来てレースを行っています。トヨタで育ったドライバーがF1へ挑戦した経験を、いつの日かTOYOTA GAZOO Racingの活動に還元してくれたらいいなと思っています」

ロダン・カーリンのピットガレージでシート合わせする宮田莉朋を見守る中嶋一貴TGR-E副会長
Toyota Gazoo Racingの今後のドライバー育成の鍵を握る中嶋一貴TGR-E副会長

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