[社説]非行少年の逆境体験 「心の傷」癒やす支援を

 少年院在院者の9割近くが、子ども期に虐待や家族の機能不全といった「逆境」を体験している。

 法務省が公表した「2023年版犯罪白書」で明らかになった。非行少年らの背景にある厳しい生育環境をうかがわせるものだ。「心の傷」を考慮した支援につなげなければならない。 

 調査は少年の特性に応じた処遇を充実させるため、法務省法務総合研究所が21年、在院する男女591人を対象に実施。その後の人生でトラウマ(心的外傷)になり得る12項目の「小児期逆境体験」について有無を聞いた。

 逆境体験で最も多かったのは「身体的虐待」で61.0%。「親の死亡や離婚」が60.6%、「心理的虐待」が43.8%と続いた。

 家庭内の「アルコール問題」や「違法薬物使用」もそれぞれ10%を超えた。 

 1項目以上該当する人は全体で87.6%に上り、女子に限れば虐待の割合の高さもあって94.6%に達した。ほぼ全員といっていい。

 逆境を重複して経験しているケースもある。在院者の中には自傷行為を繰り返す少年もおり、その行動はトラウマから逃れるためともみられている。

 小児期逆境体験が心的苦痛を引き起こし、生きづらさに悩んだり、健康問題につながることも少なくない。将来にわたって長く心身へ影響を及ぼすことが指摘されている。

 9割近い数字は深刻だが、見えにくかった問題を可視化したという点では重要な調査である。

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 白書では、心の傷への無理解が少年の失望や怒りを招くとして、少年院における「トラウマインフォームドケア」の充実について提起している。

 日本ではあまり広がっていないが、トラウマの影響を理解し、兆候や症状を認識した上で、再トラウマ化を防ぐ、適切なケアやサポートのことである。

 全国の少年院において19年度から職員を対象に必要な知識・技能を学ぶ研修が始まっている。

 20年度からはNPO法人の協力を得て、傷つき体験やトラウマとの向き合い方について在院者への講話も実施している。

 「トラウマそのものに対して必要なのは矯正教育による対応ではなく、基本的には治療である」との言葉に同意する。

 幾つもの逆境を背負った少年たちだ。心の傷を理解した上で、信頼関係を構築し、丁寧に向き合う必要がある。

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 少年院在院者の保護者への調査も実施している。

 要望する支援で最も多かったのが「保護観察終了後も継続的に支援をしてくれる仕組み」だった。

 家族の機能不全といった困難が背景にあることを考えれば、保護者も含めた家族全体の問題として捉える必要がある。

 非行少年の地域における居場所づくりや修学・就労支援はもちろん、児童虐待防止や子どもの貧困対策の強化など重層的な取り組みが求められる。

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