「愛しているからするんだよ」次第に“洗脳”されていき…10年続いた塾講師からの性被害 「最初のところで止められたら」女性が抱える苦悩 専門家は「『自分が悪い』と思わないで」

児童にわいせつな行為をしたとして教員が逮捕されるなど、教育現場で子どもへの性犯罪が相次いでいます。塾講師からおよそ10年間にわたり性被害を受けたという女性がRCCの取材に応じました。

「脱がされそうになって渋っていると、『いいから早くしろよ』って言われ、性的なことされてたり、怒鳴られたり、いつも嫌だなと思っていた」

広島県内に住む20代のさやかさん(仮名・20代)です。性被害が始まったのは小学校の高学年のときでした。通っていた塾の男性講師から「うちに来て勉強しよう」と声をかけられたといいます。両親に相談したところ、塾の講師なら信頼できると送り出され、当時は、特に怪しいと感じることもありませんでした。

さやかさん(仮名・20代)
「勉強すると言ってるし親にはいい顔していて。『今日はこんなことができた、できなかった』など、まめに報告して親の信頼を勝ち取っているような感じでした」

性暴力は次第にエスカレートしていき…

講師の家で勉強をしていたある日のこと…。2人きりでテレビに向かって座っていたときでした。

さやかさん
「後ろからズボンに手を入れられて、でも私はその時は意味が分からなかったので、なんでそんなことするんだろうと」
講師の行動に違和感は感じたものの、すぐに抵抗することはありませんでした。

すると次第に性暴力はエスカレート…。服を脱がされ、裸の写真を撮られることもありました。

さやかさん
「私がちょっと嫌がると『早くしろよ』と怒鳴ったり、逆に『これは愛してるからするんだよ』みたいな感じで説得されたり、しつこく迫られて根負けしたり」

「嫌だ…」「もうやめたい…」。そう感じる一方で、講師からの「自分以上に愛してくれる人はいない」という言葉に、本当にそうなのかもと洗脳され支配されていったといいます。

さやかさん(仮名・20代)
「『逆らえない人』みたいな感じで、逃げようとも思ったことがあんまりないです」

両親に打ち明けたら悲しませてしまうかもしれない─。誰にも相談する勇気が出ないまま、性被害はおよそ10年間続き、大学生になっていました。

さやかさん(仮名・20代)
「大事になればなるほど、もう全然言えなくなって。だから最初のところで止められたら1番よかった」

性暴力から解放されても、涙をこぼしながら数日間、布団から出られないこともありました。それから数年後。さやかさんの思いを変える出来事がありました。

「テレビとやネットニュースで、フラワーデモや裁判しましたとかニュースを見て『自分だけじゃないんだ』と思って勇気をもらった」

自分が立ち上がることで、今被害を受けている人を救えるかもしれないー。そんな思いで、初めて相談窓口に被害を告白しました。ことし、講師への損害賠償を求める裁判を起こし、和解が成立しました。

さやかさんの弁護士は、こうした教育現場での性被害は少なくないと話します。

寺西環江弁護士
「学校の先生やスポーツクラブなど、権限を持ってる人が言うことを聞かせやすい、支配関係も作りやすい構造が潜在的にあると思います」

子どもが助けを求められるように “日本版DBS”の議論も続き

国では現在、『日本版DBS』という新しい制度の議論が進められています。『日本版DBS』とは子どもに接する仕事に就く人に性犯罪歴がないことを確認するシステムです。学校や保育所などの教育機関がこれから採用をする人に性犯罪歴がないかを確認することができる制度です。

制度の議論を進めている子ども家庭庁の有識者会議の報告書によりますと、『日本版DBS』の内容について、様々な議論が進められています。

主なものは、「対象の職種」と「対象の犯罪」です。
・対象の職種
小学校や保育所などの公的な機関は「義務」そして、学習塾やスイミングスクールなどの民間の事業者は「任意」としています。
・対象の犯罪
裁判所による有罪判決が確定した「前科」としています。

それぞれ、対象の職種の義務化の範囲や対象となる犯罪の範囲については現在も慎重に議論が進められています。

この『日本版DBS』について、被害にあったさやかさん(仮名・20代)は、犯罪を防ぐ新たな第1歩と期待を感じています。その一方で、新たな被害者を生まないために子どもの性教育が必要だとも感じています。

さやかさん
「(子どもの時)私は性知識が乏しくて、性的なことされていると気付くのにも、『この人はおかしい』と思うにも時間かかった」

そして、子どもに知ってもらいたいこととして次の2点を挙げます。
・他人が勝手にプライベートゾーン(水着で隠れる部分)を触ってはいけないこと
・嫌なことをされたときは相手が大人でも信頼できる誰かに相談してよいこと

さらに、さやかさんの弁護士は子どもが被害を告白することの難しさを、周りの大人が認識しておくことも大切だと指摘します。

寺西環江弁護士
「『私がちゃんと断れなかったからいけないんだ』『すぐ警察に行かなかったからいけないんだ』と自分を悪く思ってしまう人がいるが、そうではない。(被害に遭ったとき)声が出ないのが普通で、逃げるのはとても難しい」

さやかさんも「もし傷つくようなことがあっても『自分は悪くないよ』とわかっていてほしい」と話します。

子どもが犯罪を認識して助けを求められるように。そして、周りの大人がそれに気づけるような社会であってほしい。さやかさんの願いです。

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