【角田裕毅を海外F1ライターが斬る】マネージャーの存在が変えた3年目。恩師トストの期待に応えた

 F1での3年目を迎えた角田裕毅がどう成長し、あるいはどこに課題があるのかを、F1ライター、エディ・エディントン氏が忌憚なく指摘していく。今回は、第22戦ラスベガスGP、第23戦アブダビGPに焦点を当てた。

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「若い裕毅に必要なのは、常に彼のそばにいて、F1という厄介な迷路の中を導いてくれる、経験豊富なメンターだ」と私は何度も主張してきたが、そのとおりだった。フランツ・トストには、若手ドライバーの指導をし、優勝したりタイトルを獲得できるドライバーをレッドブルに提供してきた実績がある。ただ、彼はチーム運営を行いながら、子どもたちをヘルムート・マルコの気まぐれから守ることに大きな労力を割かなければならず、ジュニアチームのレースドライバーとテストドライバーが最善の行動をとるように常に見守る余裕はなかった。

 もちろん、私も求められれば角田の面倒をみることはできただろうが、マリオ宮川氏がこの役割に適任だったことは間違いない。彼は日本人でもありイタリア人でもあるため、その点でも、アルファタウリに所属する角田の良いマネージャーになる要素は揃っていたし、過去にジャン・アレジと緊密に仕事をした経験から、怒りやすくて、感情の起伏の激しいドライバーとうまく付き合うことができたのだ。

2023年F1第23戦アブダビGP 角田裕毅(アルファタウリ)

 マリオ宮川氏がマネージャーに就任してからの一年で、角田は驚くべき進歩を遂げた。彼は、より速くなり、重要なときにすべてをうまくまとめることができるようになり、レースをコントロールして走り、タイヤマネジメントも強みのひとつになった。アブダビで1ストップで入賞したのは角田だけだった。他に1ストップで走ったエステバン・オコンやバルテリ・ボッタスより上位でフィニッシュしたのだ。

 アブダビで角田はすべてを正しくやってのけた。序盤でフェルナンド・アロンソを抑えきり(それは誰にでもできることではない)、タイヤをうまく管理しながら、ひとつもミスを犯すことなく走り続け、長いスティントになることを考慮して決して無理をせずに、AT04よりもはるかに速く、より新しいタイヤを装着していたマシンとは戦わずに、とにかくチームがコンストラクターズ選手権でウイリアムズに勝つことを目標に、全力を尽くした。

 終盤、後ろから迫るルイス・ハミルトンとのバトルになった際は、伝説のドライバーのアクションに対して反撃してみせた。角田は非常に速いだけでなく、頭を使って走ることができるドライバーであることを示したのだ。

2023年F1第23戦アブダビGP 角田裕毅(アルファタウリ)

 今シーズン終盤の走りを見て、角田が2025年にセルジオ・ペレスの後任候補の資格を持つドライバーであると確信した。クリスチャン・ホーナーは、ダニエル・リカルドへの思い入れが強く、彼を戻したいと考えている。ヘルムート・マルコは、ランド・ノリスをマクラーレンから引き抜くことを望んでいる。だが、ふたりとも、今シーズン、角田が成し遂げたことに目を向けるべきだろう。トストは常に、ルーキーを育て上げるには3年が必要だと言っていた。角田は3年を経て、トストが満足する成長を遂げたのは間違いないだろう。

2023年F1第23戦アブダビGP 角田裕毅(アルファタウリ)が退任するフランツ・トスト代表へのメッセージを記したスペシャルヘルメットを着用

 角田がレッドブルに行って、マックス・フェルスタッペンに勝てるかといえば、それを期待するのは難しい。ハミルトンとアロンソなら、同じマシンに乗ればフェルスタッペンと同等の成績を残せるだろうし、シャルル・ルクレールは予選ではフェルスタッペンより速いかもしれない。だが、それ以外には、フェルスタッペンのチームメイトになって彼と競えるようなドライバーは存在しない。

 角田はF1で3年走ったといっても、デビューイヤーの2021年にはF1への準備は整っていなかった。当時、若手ドライバーが不足していたために、マルコはFIA F3とF2で1年ずつしか走っていない角田を強引にステップアップさせたからだ。それでも角田はその後、驚異的な進歩を遂げたし、まだ限界に達してもいない。角田が2024年にやるべきことは、今シーズンと同様に前進し続け、リカルドを何度か倒し、チームリーダーにふさわしい存在まで成長し、とにかく結果を出すことだ。角田は2025年のレッドブルドライバーに、あるいは2026年のアストンマーティンのドライバーにふさわしい力を身につけると、私は確信している。

2023年F1第22戦ラスベガスGP 角田裕毅(アルファタウリ)

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筆者エディ・エディントンについて

 エディ・エディントン(仮名)は、ドライバーからチームオーナーに転向、その後、ドライバーマネージメント業務(他チームに押し込んでライバルからも手数料を取ることもしばしばあり)、テレビコメンテーター、スポンサーシップ業務、講演活動など、ありとあらゆる仕事に携わった。そのため彼はパドックにいる全員を知っており、パドックで働く人々もエディのことを知っている。

 ただ、互いの認識は大きく異なっている。エディは、過去に会ったことがある誰かが成功を収めれば、それがすれ違った程度の人間であっても、その成功は自分のおかげであると思っている。皆が自分に大きな恩義があるというわけだ。だが人々はそんな風には考えてはいない。彼らのなかでエディは、昔貸した金をいまだに返さない男として記憶されているのだ。

 しかしどういうわけか、エディを心から憎んでいる者はいない。態度が大きく、何か言った次の瞬間には反対のことを言う。とんでもない噂を広めたと思えば、自分が発信源であることを忘れて、すぐさまそれを全否定するような人間なのだが。

 ある意味、彼は現代F1に向けて過去から放たれた爆風であり、1980年代、1990年代に引き戻すような存在だ。借金で借金を返し、契約はそれが書かれた紙ほどの価値もなく、値打ちがあるのはバーニーの握手だけ、そういう時代を生きた男なのである。

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