苦戦が続いたメルセデスF1。パフォーマンス改善のプレッシャーにより各部門が「分断した」とTDアリソンが分析

 メルセデスF1のテクニカルディレクターを務めるジェームズ・アリソンは、過去2シーズンにわたるチームの苦戦について語り、その理由はチーム内に“方向性の喪失”と“分断”の期間がある程度あったことだと述べた。

 2022年、F1が新レギュレーションを導入したことで、グラウンドエフェクトの重要性が大幅に高まった。しかしメルセデスは、新ルールにチームのマシンを適応させるのに苦戦した。2022年型マシン『W13』は、高速走行時にマシンが上下に跳ねるポーパシングに苦しめられた。この難しい状況のなかでマシンはダウンフォースを生み出すことが困難になり、パフォーマンスは低下した。

 メルセデスは2022年シーズン後半にW13にいくつかの変更を加え、最後から2番目のラウンドであるサンパウロGPでジョージ・ラッセルが圧倒的勝利を収めたものの、マシンは先頭集団のペースに追いつくことができなかった。不運にもメルセデスは、ラッセルの結果によって急進的なゼロサイドポッドのコンセプトを2023年も継続することに納得してしまった。ポーパシングは緩和されたものの、ラッセルとチームメイトのルイス・ハミルトンは一貫性のあるパフォーマンスを発揮できなかった。

2023年F1第1戦バーレーンGP ルイス・ハミルトンとジョージ・ラッセル(メルセデス)
2023年F1第7戦モナコGP メルセデスW14の新サイドポッド

 メルセデスは2023年のコンストラクターズ選手権をレッドブルに次ぐ2位で終えたが、チームは一度も優勝していない。タイトルを獲得するほどの圧倒的な立場が、突然期待外れのシーズンに変化したことにメルセデスは驚き、“混乱”したまま衰退の現実に取り組むことになった。

「我々がそうだったように、チームがかなり長い期間非常に高いレベルを維持した後で落ち込むと、大変混乱するものだ」とアリソンはポッドキャスト『Performance People』に語った。

「ストップウォッチの現実と、他チームから打ち負かされることによって、グループとして以前感じていたこととその基盤が緩んでしまったと思い知らされるのは非常に不快なことだ」

「組織の自信が揺らぐだけでなく、さらに先を見据えることに慣れていた企業に短期的で膨大なプレッシャーがかかる」

 アリソンは、こうしたプレッシャーが、チーム内の異なる部門間のコミュニケーションとコラボレーションの断絶につながったと語った。

「短期的なプレッシャーは、マシンが遅くて結果が悪いので改善しなければならない、というものだ。そうした要求の声は非常に大きい。まったく当然のことではあるが、それでもなお非常に大きいので、人々を行動へ駆り立てる」

「しかし、マシンに改善が必要だという非常に大きな呼びかけによって、優れたマシンを創り出すために協力する必要があるエアロダイナミクス、ビークルダイナミクス、設計オフィスといった社内のすべての専門分野で行動が取られるが、それぞれが4つや5つ、6つの方向に散らばってしまう。そして、それぞれが彼らの場所でできることや、彼らが最善だと考える方法で貢献しようとする」

「注意していないと、こうしたグループは互いに話し合うのをやめてしまう。なぜなら、彼らは状況をよくするために、自分の役割だとみなしていることを修正しようと突き進んでいるからだ。王冠が我々の手から滑り落ちてからのあの難しい時期に、我々がグループとして陥った最も破壊的なパターンは、おそらく本来あるべき状態以上に分断してしまったことだ」

2023年F1第12戦ハンガリーGP ジェームズ・アリソン(メルセデス テクニカルディレクター)&アンドリュー・ショブリン(メルセデス トラックサイドエンジニアリングディレクター)

 今年4月、メルセデスはアリソンをテクニカルディレクターに復帰させた。この役職は2年前にマイク・エリオットがアリソンから引き継いだものだが、この決断は、チームが現状の大きな課題に対処する決意を固めたという明らかなメッセージとなった。2023年型マシン『W14』は前シーズンのマシンと非常によく似ており、期待されたパフォーマンスの向上を実現できなかったため、戦略変更の必要性が浮き彫りになった。またシーズン後半にエリオットが離脱したことで、新たなアプローチへのチームの取り組みがさらに強調された。

 アリソンは、彼の役割はシャシー設計の陣頭指揮だけではなく、幅広い組織的責任を網羅していると認めた。アリソンはチームの総合的な専門知識を刺激し、2024年にメルセデスを手ごわい勢力として確実に浮上させることに焦点を置いている。

「ポジティブな影響があったとすれば、自分たちの仕事の調整に集中できるように、一緒に前向きなことを取り戻そうとしたり、社内の主要部門の主要エンジニアたちがもっと話し合いをするようにしたり、差し迫ったプレッシャーを彼らから取り除くようにしたり、マシンから聞こえる叫びを和らげたりしていることだ」とアリソンは語った。

「重要なメンバーを集めて、彼らに質問をしてみる。その答えは、彼らが互いに少し時間をかけて話し合うことでのみ得られるものだ。そして彼らが互いに時間を費やして話し合いをしているということは、答えを得るためにともに同意した活動プログラムを中心に、ひとつにまとまるということを意味する」

「個々に仕事をするよりも、お互いを頼り合う習慣にみんなが戻るまでにそれほど時間はかからない。その方がずっと楽しいからだ。そして答えが必要な質問だからという理由で、誰かが許可をくれるということが起こる」

「我々が勝利の道に戻れるように叫びながら、十分な作業プログラムを実施してきたと願っている。それはレースに勝つことを意味するのだろうか? それはチャンピオンシップを制することを意味するのだろうか? 私の頭のなかでは、チャンピオンシップだけが重要だ。それがF1というものだ。コンストラクターズとドライバーズ選手権ということだ。だから両方の選手権でタイトル争いができるということを自分たちに知らせるために、十分なことができるよう願っている」

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