【韓国】キムチ冷蔵庫が進化[電機] 高い保存能力から多用途へ変身

サムスン電子が10月に発売したキムチ冷蔵庫「ビスポーク・キムチプラス」(同社提供)

韓国人の生活に欠かせない「キムチ」。それを長期間、状態良く保存するために生まれた韓国特有の家電「キムチ冷蔵庫」が進化している。単純にキムチを保管するだけでなく、果物や肉類など多種多様な用途を備えた製品が相次ぎ登場。単身世帯向けの小型モデルも発売され、各社が幅広い消費者層の攻略に力を入れている。一方、業界トップのウィニアの経営難により市場構造にも変化が起きそうだ。【清水岳志】

キムチ冷蔵庫は1995年にウィニア万都(現・ウィニア)が発売した韓国特有の家電で、サムスン電子など大手家電メーカーが参入したこともあって普及が急速に進んだ。韓国の家庭では、普通の冷蔵庫とは別にキムチ冷蔵庫を保有しているのが一般的だ。

その名の通り、キムチを保存・熟成させることに適した冷蔵庫だが、近年は新鮮な状態を長期間保つ保存力の高さから生鮮食品用に使用する消費者が増加。こうしたトレンドの変化に対応するため、メーカーも多彩な機能を搭載したキムチ冷蔵庫の開発に力を入れている。

■さまざまな保管能力

サムスン電子が今年10月に発売したキムチ冷蔵庫「ビスポーク・キムチプラス」の新モデルは、さまざまな食材を保存するための新機能が追加された。キムチだけでなく、果物や穀物、ワインなど23種に対応する。それに加え、冷蔵庫全体とは個別に温度を調整できるスペースを追加。これにより、すぐに食べる分の少量のキムチだけの熟成のほか、フルーツの熟成、冷凍した肉類の解凍、パン生地の発酵などもキムチ冷蔵庫で行えるようになった。

LG電子も同月、キムチ冷蔵庫「LGディオス・オブジェコレクション・キムチトクトク」の新モデルを発売した。上段は中央に壁を設置して保管スペースを左右別々にすることで、最大4つの用途に分けて使用できるようにした。通常のキムチ向けのほか、◇牛乳やヨーグルトなどの乳製品◇ビールや焼酎などの酒類◇ソースなどの調味料類——など計13のモードを備える。

■小型モデルも登場

キムチ冷蔵庫の機能の多様化は、韓国人の住宅環境の変化も影響している。かつては、一般の冷蔵庫とは別にキムチ冷蔵庫を所有するケースが大半だったが、冷蔵庫を2台設置するとその分スペースが必要になるため、オールインワンのキムチ冷蔵庫1台で済まそうと考える消費者も少なくないようだ。

今年2月に結婚したキム・ウンソンさん(30代・女性)は「当初は普通の冷蔵庫とキムチ冷蔵庫の2台を買いたかったが、置き場がないので結局はキムチ冷蔵庫だけを購入した。1台にしたため、多機能なモデルを選んだ」と話す。

また単身世帯の増加を受け、小型のキムチ冷蔵庫も注目を集めている。家庭用品の製造・販売を手がけるロック&ロックはこのほど、容量32リットルのボックス型の「ミニキムチ冷蔵庫」を発売した。小型ながら、最近のトレンドに合わせてキムチ用以外に「果物」「飲料」「冷凍」の3モードを備えている。

ロック&ロックの広報担当者は「単身などの小規模世帯が増えている点に着目し、コンパクトなサイズのキムチ冷蔵庫を発売した。一般の家庭でも2台目の冷蔵庫として活用することもできる」と説明した。

ロック&ロックの「ミニキムチ冷蔵庫」(同社提供)

■業界の構図に変化も

韓国のキムチ冷蔵庫市場は、老舗のウィニアが40%前後でトップを走り、サムスン電子とLG電子が追いかける様相が続いてきた。しかし、長らく続いたこの構図が変わる可能性も出ている。

最大手のウィニアは10月に会社更生法の適用を申請。ウィニアの資産総額は22年末時点で5,160億ウォン(約570億円)だったが、負債規模が4,833億ウォンに膨らんでいた。そんな中、22年に736億ウォン、今年上半期には479億ウォンの純損失を計上するなど、苦しい経営環境が続く。

これに伴い、会社更生法の適用申請から11月20日まで一時的にキムチ冷蔵庫工場の稼働も停止しているが、経営状況が好転しなければ倒産の可能性も否定できない状況となっている。

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