人喰いジーンズがブラックなアパレル業界で大虐殺!『キラー・ジーンズ』は社会派?スプラッターコメディ映画

『キラージーンズ』©10619248 CANADA INC./EMAFILMS 2019

ホラー映画界のファッションリーダー誕生

殺人トマト、殺人ソファー、殺人ドーナツ……。この世には、わけのわからないものが人類に牙をむくホラー映画が山ほどある。もはや世界中のありとあらゆるものが人殺しを企んでいるとしか思えないホラー映画界に、数年前、また新たなキラーナントカ映画が誕生した。

今度の主役は衣類。殺人ジーンズが猛威を振るうホラー映画、その名も『キラー・ジーンズ』だ。

……さてこの映画、実は意外と面白い。少なくとも「奇抜なタイトルと出オチだけで中身は退屈」みたいな凡作とは一線を画している。ウソではない。

というわけで今回は、ホラー映画界のファッションリーダー『キラー・ジーンズ』を紹介していこう。ちなみに原題は『Slaxx』である。

大手アパレル企業で起こった連続殺人の犯人は…?

とある日曜日の夜。大手アパレルメーカー<カナディアン・コットン・クロージャーズ>ことCCC社の一店舗は、売り場作りの真っ最中。新作ジーンズの発売に向け、てんやわんやの大騒ぎが繰り広げられていた。この日、CCC社への憧れが高じて入社したばかりの新人リビーもまた、必ずしも華やかではないアパレル業界の裏側に翻弄されることとなる。

そんな猫の手も借りたい状況下で、店舗スタッフが一人、また一人と現場から姿を消す出来事が発生。捜索に回ったリビーは、トイレで謎の惨死を遂げた先輩社員を発見する。

明らかな異常事態。しかし、現場にはCCC社のカリスマCEOや、PR用の大物ファッション系インフルエンサーが訪れており、新作プロジェクトの失敗は許されない……。上からの圧力に押し負け、リビーは翌朝まで通報を先延ばしにするという形で、事件の隠ぺい工作に加担することに。

そのまま何食わぬ顔で進行するセールス準備。だが、店舗スタッフを殺害した犯人の正体は、生き物のようにバックヤードを徘徊する新作ジーンズそのものだった。誰にも気取られることなく、いよいよ売り場に現れた殺人ジーンズは、<ある目的>を遂行すべく、壮絶なアパレル大虐殺を開始する……。

というのが、本作の概要である。

おもしろアイデアとシリアスな物語を見事に両立

「殺人ジーンズが人を襲う」という、一見おバカな内容の本作。が、その実態は案外しっかりしたテーマを持ち、アイデアの面白おかしさと物語のシリアスさを、見事に両立させたホラー映画である。

のっけから意識高い系の社風を痛烈に風刺するのみならず、そのギスギスギラギラした風土が異常事態への対応の遅れを招き、状況が悪化してしまうという構成の巧みさ。そして大企業の欺瞞と搾取構造、下請けへの無責任な丸投げが織り成す<殺人ジーンズ誕生秘話>など、思いのほか真面目で内容の詰まった作品になっている。「どうせ、おバカ全振りの低予算ホラーだろう」なんて高をくくっていると、意表を突かれること請け合いだ。

一方で、ただただお堅い社会派映画というわけではなく、むしろスプラッター演出のバリエーションは豊富な部類。ジップフライ(いわゆる股間のチャック)で獲物の指を食いちぎったり、愚かな試着者を腰からガブガブ丸かじりしたり、2本の足で器用に首をへし折ったり、マネキン人形と合体して上半身を獲得したり……と、なかなか凝った作りになっている。

随所に見え隠れするおバカ・ホラー的なギミックの数々も、本作の立派な魅力の一つだろう。くすっと笑いを誘うようなネタも多く、中盤に見られる殺人ジーンズのダンスシーンは必見だ。

約76分という短めの尺ながらも、テンポ良く進行するストーリーに見所が満載。主要人物がそれぞれの判断ミスにより、じわじわ窮地に追い込まれていくまでの描写・導入も非常に丁寧。そしてエンドロール中の愉快なメイキング映像などなど、鑑賞後の満足度は高い。オチはいわゆる“B級”然としているが、特に悪いものでもないだろう。

とっつきやすいコメディ・ホラー映画であり、個人的には非常に高く評価している。イロモノ系の低予算ホラー映画がお好きな方は、ぜひ一度鑑賞しておくべきだろう。

文:知的風ハット

『キラージーンズ』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2023年12月放送

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