社説:改正旅館業法 不当な宿泊拒否は許されぬ

 国内外から多くの観光客が訪れる京都にとっても、重要な課題となろう。

 旅館やホテルが客の宿泊を拒否できる要件を広げる改正旅館業法が、13日に施行される。

 改正法は、他の宿泊客へのサービス提供を「著しく阻害するおそれのある要求」を繰り返した場合、拒否できるとした。

 旅館業法は、原則として事業者が宿泊を拒んではならないとしている。例外となる運用の拡大につながる法改正に対しては、宿泊拒否の差別に遭ったハンセン病の元患者や障害者の団体、日弁連から強い懸念が示されてきた。現場での不当な対応や混乱が起きないよう、適正な運用と環境づくりを求めたい。

 不安が払拭(しょく)できないのは、法改正の議論の経過にある。きっかけは新型コロナウイルスの感染防止で、当初案では感染対策の要請に「客が正当な理由なく応じない場合」も拒否できるとの内容を盛り込んでいた。

 感染疑いでも拒否できるような案に、ハンセン病元患者の団体などが「差別を助長する」と反対し、この規定を削除した改正法が今年6月に成立した。

 一方で、不当な要求を拒否の理由にできる規定に対しては、基準が明確でなく、事業者の判断によって、介助や配慮を求める障害者らが拒否される懸念が拭えない。

 旅館やホテルの業界は迷惑行為を重ねる「カスタマーハラスメント」に苦慮しており、一定の対策は必要だろう。しかし、障害や病気を理由に排除されることはあってはならない。

 厚生労働省は先月になって、宿泊拒否に関する指針をまとめた。拒む理由に該当しない例として、障害者が「合理的配慮」を求める場合を挙げ、車いす利用者への介助や精神障害のある人が静かな環境の部屋を要望するといった行為を示している。

 拒否できる例としては、従業員に土下座での謝罪や宿泊料の不当な割引を求める「迷惑客」を挙げている。

 課題となるのは、こうした指針が現場で徹底できるかどうかである。

 社会の障壁を取り除く「合理的配慮の提供」は障害者差別解消法に定められており、来年4月には、あらゆる事業者が義務化の対象となる。

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会による今夏の調査では、回答した施設の4割が義務化を知らなかった。宿泊施設は人手不足や限られた設備で対応に苦慮している面もある。制度の徹底に加えて、改修や研修といった物心両面の支援、相談の体制も充実すべきだろう。

 京都でも障害者らが安心して宿泊できる環境を整え、事業者の負担を軽減するため、行政や業界団体の連携が欠かせない。関連する事業に京都市の宿泊税を充てることも検討に値するのではないか。

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