ホンダ/HRC渡辺康治社長が語る、2024年国内ラインアップの狙いと大湯都史樹と福住仁嶺の離脱について

 12月12日に来季2024年のスーパーGT、および全日本スーパーフォーミュラ選手権のドライバーラインアップを発表したホンダ/HRC(ホンダ・レーシング)。既報のとおり、スーパーフォーミュラにデビューすることになった木村偉織や、GT500クラスに初参戦する佐藤蓮、大草りきといった若手ドライバーの起用が注目されるなか、メディア向けブリーフィングにおいて、今回の体制を敷いた背景について渡辺康治HRC社長が説明した。

 来シーズンのスーパーGTでは5台の『ホンダ・シビック・タイプR-GT』を新たに導入しGT500デビューイヤーでのチャンピオン獲得、2020年以来の王者奪還を目指すホンダ陣営においては、同じく12日(火)に国内モータースポーツの体制発表を行なったTOYOTA GAZOO Racingに移籍した大湯都史樹と福住仁嶺の移籍の背景、そして後任ドライバーが誰になるかが焦点となっていた。

 そこでスーパーGTでは佐藤と大草を、スーパーフォーミュラでは全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権チャンピオンを獲得した木村を抜擢したことは「思い切った若手の起用も行いながら、さらなる挑戦を続けていく」と渡辺社長は説明。「若手のドライバーにチャンスを与え、経験豊富なドライバーとタッグを組んでチャンピオンを目指す」狙いとして、伊沢拓也/大草組(Modulo Nakajima Racing)、大津弘樹/佐藤組(ARTA)という新しいラインアップが実現することになった。

 また、スーパーフォーミュラでは3台のマシンがTBA(To be announced/後日発表)と表記されていたが、「まだチームといろいろお話をさせて頂いていますけど、今回未定となっている3つのシートに関してはまだチーム側の決定がされていないので、決定次第、チームの方から発表されることになります」とHRC取締役企画管理部部長の長井昌也氏が説明。先日のSF鈴鹿ルーキーテストで話題となったJujuこと野田樹潤の起用については明言を避けるかたちとなった。

 そして今回両カテゴリーのラインアップに記された療養中の山本尚貴についても、渡辺社長は「ホンダ・レーシング・サンクスデーの際に話をしました。今のところは術後の経過も非常に順調とのことで、彼としても本格的にリハビリに入り、開幕に間に合わせられると力強く言ってくれました。開幕戦に間に合うという前提で構えておりますので、今のところはご安心いただければと思います」とコメント。来季の開幕戦までには元気な姿が見られることになりそうだ。

■福住と大湯の離脱について説明するHRC渡辺社長

 一方、今回の発表で話題となったのは、ライバル陣営であるトヨタ/TGRに移籍した大湯、福住の両名についてだが、このふたりについて、渡辺社長は複雑な心境を吐露した。

「HRCとしては育成から新人、そしてベテランの各ドライバーをバランスよく配置する。そういうことを進めているため、ときにプランが各ドライバーの思惑と一致しないっていうことも当然出てくると思います。そういうなかでプロのトップアスリートであるドライバーという人たちが、いろいろと自分で考えたうえに結論を出すということに対し、我々は当然メーカーの垣根を越えて、その考え方を尊重していくということはあると思います」と渡辺社長。

「あまりにもメーカー縛りというかたちで進んでいくと、ドライバーの方々の可能性を狭めてしまうこともあると思います。ですので、状況を見ながらメーカー縛りからドライバー中心という方向に持っていこうという議論は(トヨタとも)積み重ねています」

「決して我々が冷たくしているつもりはないですし、ふたりの選手が長くホンダで戦ってくれたということに対し、旅立っていくことに多少寂しい気持ちというのもありますけれど、それは彼らが次(のキャリア)で活躍してくることを我々としても期待している、ということです」と渡辺社長は続けた。

 今回の発表ではFIA F2など来季の海外カテゴリーへの参戦については明らかにされなかったが、ライバルでもあるトヨタ/GR陣営では宮田莉朋をFIA F2に送り出し、平川亮をマクラーレンのリザーブドライバーに就任させるなど、これまでホンダがテリトリーとしてきたF2、F1への意欲を見せている。もちろん、ホンダ/HRCとしてもF1での角田裕毅が健在ではあるが、ライバルメーカーの動きをどのように感じているのだろうか。

「ホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)で育てた人たちのスカラシップをF2、F1に向けてしっかりとやっていきたい」と渡辺社長。

「ドライバーの皆さんが日本だけではなく、いろいろとチャレンジをしていきたいということも理解しています。そこについても何らかのチャンスを将来的には提供できるように、今なにか具体的にあるわけではないんですけども、そういったものを検討し実現していきたいと思っています」と続け、今後もしっかりと世界を目指すドライバーのサポートを明言した。

 今季はスーパーGT500クラス、そしてスーパーフォーミュラの両方のドライバーズタイトルをトヨタ/GR陣営に奪われ、2024年のホンダはシビック・タイプR-GTのデビューイヤーとして、タイトル奪還が至上命題となる。その中でライバルメーカーに奪われるかたちになった若手期待の福住仁嶺、大湯都史樹の抜けた穴をどのように補い、戦っていくのか。2024年はホンダ陣営としての底力が試されるシーズンになりそうだ。

2024年はVERTEX PARTNERS CERUMO・INGINGからSFに参戦する大湯都史樹
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