社説:柏崎刈羽原発 東電への不信が拭えぬ

 不信と疑念を拭えぬまま、なし崩し的な再稼働は認められない。

 東京電力の柏崎刈羽原発(新潟県)が事実上の運転禁止命令を受けた問題で、原子力規制委員会の山中伸介委員長らが現地調査し、東電の取り組みを「かなり改善が見られた」と評価した。年内にも命令解除を判断するとの見方が強い。

 異例の命令が出たのは2021年4月だった。運転員のIDカード不正利用や故障した侵入検知設備の放置などが相次いで発覚。事態を重く見た規制委が核燃料の移動を禁じた。11年に過酷事故を起こした東電に対し、改めて核物質管理の責任を厳しくただした。

 命令解除は、テロ対策の追加検査と原発事業者としての適格性の再確認が条件とされた。

 命令から2年半。東電はハード、ソフト両面の改善を強調する。規制委事務局の原子力規制庁が追加検査を進め、課題は全て改善されたとする報告をまとめた。

 規制委もこの報告をおおむね了承した。ただ、原発推進へかじを切った政府方針への忖度(そんたく)が否めない。

 とりわけ気がかりなのは追加検査の期間中にも、お粗末な事案が後を絶たなかった点である。

 不審者の侵入を感知できる照明が半年以上も不点灯だったり、無許可でスマートフォンが持ち込まれたりした。さらに抜き打ち薬物検査で社員の陽性反応を見落として防護区域に入れるなど、安全管理の不徹底が相次いでいる。

 規制庁は軽微な問題と見るが、原発の安全性を考えれば看過できない。積み重なれば、重大事故を招きかねないからこその運転禁止命令だったはずだ。

 同原発は全7基が停止中だ。東電は新しくて出力も大きい6、7号機の再稼働を優先する。事故を起こした福島第1原発(福島県)と同じ沸騰水型炉では初の再稼働となり、東電としても事故以来の原発利用となる。東電が再稼働に前のめりなのは、首都圏管内の電力供給の積み増しと併せ、火力発電の燃料代を節約できて収益改善が見込めるためとみられる。

 だが、過酷事故を防げなかった東電に原発を運転する資格が本当にあるのかと問いたい。まして経営再建や廃炉・賠償費用を捻出するために原発を再稼働するというのは理解し難い。

 仮に運転禁止命令が解除されたとしても、再稼働には地元同意という大きな壁がある。規制委は地元住民の強い懸念にも耳を傾け、慎重に判断すべきである。

© 株式会社京都新聞社