社説:こども未来戦略 財源も効果も見えない

 持続可能な政策なのか。極めて疑わしい。

 政府が少子化対策の強化を目指す「こども未来戦略」の具体案をまとめた。

 児童手当の所得制限を撤廃し支給対象も18歳までに拡大するほか、3人以上の子どもを扶養する多子世帯の大学授業料の無償化、ひとり親世帯が対象の児童扶養手当の支給要件緩和、育児休業給付の給付率引き上げなどを盛り込んだ。

 岸田文雄首相は「前例のない規模の具体案」と自賛する。しかし、その裏付けは極めて不十分といわざるを得ない。

 政府が必要とした追加財源は年3.6兆円。既定予算の活用と医療・介護分野の歳出抑制に加え、新たに創設する「支援金」制度で賄うとした。

 支援金制度は公的医療保険料に上乗せして徴収する仕組みで、2026年度から段階的に年1兆円まで引き上げる。75歳以上が加入する後期高齢者医療制度からも上乗せ徴収する。

 その一方で岸田首相は「実質負担ゼロ」と強調する。その前提は賃上げと社会保障の改革という。

 賃金が上がれば保険料など国民の負担割合が下がり、健康保険組合などの収入も好転する。医療介護制度の改革で支出も保険料率も抑えられる。そんな理屈である。

 しかし、賃上げは企業の決めることで、何の保証もない。医療や介護の給付抑制や負担増は利用者へのしわ寄せが大きい。曖昧な「既定予算の活用」も含め、持続可能な財源になるとは思えない。

 そもそも医療保険は医療費を社会で支える制度で、子育て支援への「流用」は筋が通らない。必要なら税金で賄い、政権はその是非を国民に問うべきではないか。

 ごまかしの説明で、その場をしのごうとする政権の姿勢こそ、若者や子育て世帯の将来不安をかき立てていると自覚すべきだ。

 多子世帯の大学授業料無償化は目玉施策に掲げられるが、対象は子育て世帯の13%にとどまる上、3人きょうだいの1人目が扶養を外れれば、2、3人目は支援対象外となり、効果は限定的だ。他形態の家庭や未婚者との間で分断を深めかねない。

 少子化の最大の要因は、若い世代が結婚や出産をためらう社会環境にあろう。安定した雇用と賃金、働き方改革や女性に負担が偏らない子育て環境など、総合的な取り組みが欠かせない。若い世代に安心感を持ってもらう。それが最大の少子化対策になるはずだ。

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