南半球から北米に上陸。Gen3規定カマロZL1とマスタングがウインドシア風洞施設で初テスト/RSC

 南半球オーストラリア大陸を代表するツーリングカー選手権、RSCレプコ・スーパーカー・チャンピオンシップは、2023年の導入初年度を終えたGen3規定シボレー・カマロZL1とフォード・マスタングの両モデル間で同等性をさらに向上させる取り組みの一環として、さらなるテストを目的に北米大陸へと空輸。史上初の北半球へ向かった2台は、ノースカロライナ州コンコードで稼働する世界最大級の風洞設備『ウインドシア』で、合計3日間のテストプログラムを完了した。

 これまでは『VCAT(車両制御空気力学試験)』と呼ばれるプロセスのもと、飛行場の滑走路で速度制限下での試験を実施し、両車のダウンフォースと抗力(ドラッグ)係数を測定してきたスーパーカーだが、シリーズの技術部門は来季2024年に向け「より精密で膨大な情報量を得る」べく、世界最高峰のウインドトンネルを初訪問することを決断した。

 シリーズに参戦する両陣営からは、ホモロゲーションチームのトリプルエイト・レースエンジニアリング(GMシボレー)とディック・ジョンソン・レーシング(フォード)が車両を持ち込み、スーパーカーの技術スタッフも帯同するなか金曜から各日12時間の計測セッションが実施された。

史上初の北半球へ向かった2台は、ノースカロライナ州コンコードで稼働する世界最大級の風洞設備『ウインドシア』で、合計3日間のテストプログラムを実施した

 NASCARはもちろん、インディカーやF1でも活用されるこの風洞は、約300km/hまで計測可能な世界最先端のフルスケール設備のひとつであり、完全に密閉されたトンネル内には、その最高速に対応するローリングロードも備える。

 再現性あるデータ収集に重要な気温もプラスマイナス1度と、一定の24度に維持された空間にて、幅3m、長さ9mの「巨大なトレッドミル」に置かれた車両は、対空速度と路面速度により最大180マイル(約290km/h)、つまり毎秒80メートルまで計測が可能となる。これはスーパーカーが「バサーストのコンロッド・ストレートで到達する速度とほぼ同じ」とされ、計測には最適な環境が整えられた。

 初日は基準車としてカマロZL1からテストが開始され、マスタングもその結果に応じて調整される手順が採用された。

「初日は本当に2台のクルマを理解しようとすることになる」と、シリーズ初の風洞測定を前にシリーズ公式サイトに語ったのは、前ティックフォード・レーシング代表で新たにRSCのモータースポーツ部門ゼネラルマネージャーに就任したティム・エドワーズ。

「まずはカマロをトンネルに入れることになるが、おそらく4時間ほどそこに留まるだろう。そこでベースラインを作成し、この後に何をするべきかを確認するためいくつかの初期変更を加える。初日の目標は両方のクルマをトンネルに入れて、自分たちが現時点で『どこにいるのか』を把握することだ」と続けたエドワーズ。

「つまり、土曜がどうなるかについてはさまざまなバージョンがあり、それは金曜(初日)がどうなるかによって決まる。実際に2台のマシンを走らせてデータを取得し『近づいた』か『近づいていない』と判断するまでは、現時点では分からない」

初日は基準車としてカマロZL1からテストが開始され、マスタングもその結果に応じて調整される手順が採用された
ホモロゲーションチームのトリプルエイト・レースエンジニアリング(GMシボレー)とディック・ジョンソン・レーシング(フォード)が車両を持ち込み、スーパーカーの技術スタッフも帯同するなか金曜から各日12時間の計測セッションが実施された

■3日間の総距離は約4200km「多くの成果が得られた」

 そう語っていたエドワーズ含む技術スタッフは順調にプログラムを消化すると、2日目にはカマロのリヤウイング位置やスプリッターエッジの半径などを調整。その待ち時間に3Dスキャンを受けていたマスタングも、フロントフェイシアの調整やデッキリッドスポイラーなどを追加して、風洞での計測が続けられた。

 最終的に、この3日間を通じて両車を合わせた総走行距離は約4200kmとなり、2022年11月にトゥーンバのウェルキャンプ空港で行われたVCATで達成された合計1600kmとは大きく異なる距離を稼ぎ出した。

「まずは無事に目的の計測を終えられてホッとした。ここにクルマを運び、計測の準備をし、スキャンし、ときには時間に追われる場面もありながら3日間を過ごし、多くの成果が得られた」と安堵の言葉を漏らすのは、シリーズCEOのシェーン・ハワード。

「滑走路試験とここウインドシアの素晴らしい施設では、情報量に大きな違いがある。例えばVCATテストでは1週間で(1台あたり)700〜800kmを走行したが、ここでは4000km以上を走破した。滑走路テストではダウンフォースと抗力に関してクルマの3~4点の異なるポイントを評価したが、ここでは50以上の異なる特性について評価可能だ」

「正直に言えば、参加できて最高だった。本当にエキサイティングな内容だが、正しくやり遂げなければならないというプレッシャーはつねにあるよ」

幅3m、長さ9mの「巨大なトレッドミル」に置かれた車両は、対空速度と道路速度により最大180マイル(約290km/h)、つまり毎秒80mまで計測が可能となる

 一方、すべての行程を見守ったエドワーズも、テストで収集されたデータが2024年シーズンのスーパーカーで「選手権の均衡を図るのに役立てられる」と付け加えた。

「早い段階でカマロの計測が落ち着くところまでいけたので、最終日はマスタングとDJR次第だった」と続けたエドワーズ。

「1回で計測できるクルマは1台だけなので、誰かが先に走らなければなかった。今季(2023年)のマスタングにはかなりの変更が加えられたため、より多くの“おもちゃ”で遊べるようになり、キャビネット内の部品も増えていたからね」

 引き続きオーストラリアに戻って以降も、風洞試験とは別にエンジンの性能を評価することになり、トルクセンサーを備えた過渡動力計試験によって、異なるパワーユニットが主要な性能指標でどのように異なるかを詳細に比較することになる。

「ここから先も我々は引き続きエンジンを検証し、AVLダイナモのプログラムを継続する」と前出のハワードCEO。

「シリーズとしても、より良いツールを使用してより良い情報を入手し、より良い意思決定を行い、公平なレース状況を確保していくつもりだ」

最終日にはカマロZL1のベースラインが確立され、マスタングの最適化に集中することができたという
地元豪州では、トルクセンサーを備えた過渡動力計試験によって、異なるパワーユニットが主要な性能指標でどのように異なるかを詳細に比較することになる

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