【連載コラム】第42回:何よりもチームの勝利を優先した大谷翔平 エンゼルス時代の苦い経験も影響か

写真:移籍にあたり、何よりも勝利を優先した大谷 ©Getty Images

今オフ最大の注目ポイントだった大谷翔平の争奪戦がついに決着しました。日本時間12月10日に大谷自身がインスタグラムを更新してドジャースへの移籍を決めたことを公表し、同12日にはドジャースが大谷との10年契約を正式発表。前例のない大規模な後払いを含め、大谷が得る総額は7億ドルであることが報じられています。契約には全球団に対するトレード拒否権が盛り込まれている一方で、オプトアウト条項はなく、大谷が39歳となる2033年シーズンまでドジャースの一員としてプレーすることがほぼ確定しました。

ブルージェイズやジャイアンツなど、他球団もドジャースに匹敵する好条件のオファーを提示していたようですが、大谷は11年連続でポストシーズンに進んでいる強豪ドジャースへの移籍を選択。その理由については様々な考察がなされ、慣れ親しんだ南カリフォルニアを離れる必要がないことや、2度にわたって右ヒジの手術を担当したニール・エラトラシュ医師がドジャースのチームドクターであることなど、いくつもの理由が挙げられていますが、最大の理由はやはり、ワールドシリーズ制覇を成し遂げる可能性が最も高い球団であるということに尽きるでしょう。

ドジャースは2013年から11年連続でポストシーズンに進出。ジャイアンツに1勝差で地区2位となった2021年を除く10シーズンは地区優勝を成し遂げています。その期間中、ワールドシリーズ制覇は2020年の1度だけですが、短期決戦のポストシーズンは運に左右される部分も大きく、ワールドシリーズ制覇を成し遂げるためには試行回数(ポストシーズン進出回数)が多いに越したことはありません。ワールドシリーズ制覇を目標とする大谷にとって、ドジャース移籍は当然の選択だったのではないでしょうか。

総額7億ドルのうち6億8000万ドルを後払いにするという異例の契約の目的は、球団のペイロールやキャッシュフローに余裕を作り、強いチームを作るための柔軟性を確保することだったと言われています。米誌『スポーツ・イラストレイテッド』のトム・バーデュッチ記者が関係者から得た情報によると、大谷は後払いによって生まれた資金的余裕をチーム強化のために使うことを確約するような文言を契約書に含めることを要求したようです(代理人のネズ・バレロ氏は実際にそのような文言が含まれたかどうかを明言せず)。

強豪ドジャースに入団したにもかかわらず、さらなるチーム強化を要求する。この大谷の姿勢にはエンゼルス時代の苦い経験が影響しているのではないでしょうか。投打二刀流の歴史的な活躍でチームを牽引し、MVP投票で1位→2位→1位となった直近3年間、エンゼルスはポストシーズン進出どころか、シーズン80勝にすら届きませんでした。自分だけがどんなに活躍してもチームは勝てない。ワールドシリーズ制覇のためには自分以外にも多くの優秀な選手が必要。大谷はエンゼルス時代の経験からそのように考え、チームを強くするためには何がベストかを考えたのだと思います。

今年3月に開催されたワールド・ベースボール・クラシックでは、誰よりも貪欲に勝利を追い求め、侍ジャパンを頂点へと導いた大谷。ユニフォームを赤から青に変え、今度はもう1つの世界一(ワールドシリーズ制覇)を目指す、新たな挑戦がスタートします。

文=MLB.jp 編集長 村田洋輔

© 株式会社SPOTV JAPAN