社説:陸自性被害判決 組織のうみを出し切れ

 ハラスメントをはびこらせてきた閉鎖的な組織体質を、根本から変えねばならない。

 陸上自衛隊郡山駐屯地(福島県)に所属していた五ノ井里奈さんへの強制わいせつ罪に問われた当時上司の元3等陸曹の男3人=懲戒免職=に、福島地裁はそれぞれ懲役2年、執行猶予4年の有罪判決を言い渡した。

 きのう記者会見した五ノ井さんは、争点だった強制わいせつが認定され、「日本社会にハラスメントは犯罪だと知らせることができて良かった」と語った。同様の被害を繰り返すことは許されない。

 判決によると、3人は2021年8月、他の隊員らと飲食中、それぞれ格闘技を使って五ノ井さんに覆いかぶさり、着衣越しに下腹部を押しつけた。

 被告側は「笑いを取ろうとした。性的意図がなかった」などと否定したが、判決では性行為を容易に連想させる、わいせつ行為と断じ「被害者の人格を無視し、卑劣で悪質」と厳しく非難した。

 裁判では、3人が免職前に五ノ井さんに直接行った謝罪を一転させた。自衛隊に「謝罪要領」を示され、指示されたと供述した。事なかれ主義で収めようとした組織の在り方も問われたといえよう。

 事件後、五ノ井さんの訴えを「黙殺」した自衛隊、防衛省は判決を重く受け止めるべきだ。

 五ノ井さんは退職後、被害を実名で告発した。誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)に苦しみ、今でも事件当時の光景を思い出すという。それでも闘ってきたのは「同じ被害者を生み出したくない」との思いにほかならない。

 対して、防衛省の対応は鈍い。五ノ井さんの告発以降、全自衛隊員を対象に特別防衛監察を実施。被害申告は1325件に上った。

 監察中にも海自でセクハラが問題化し、女性隊員が退職を余儀なくされている。自浄作用が働いているようには見えない。ハラスメントを許さぬ組織体制と隊員教育に向け、抜本改革を求めたい。

 自衛隊の不祥事は絶えない。

 先日は京都市東山区で82歳男性を刺殺した疑いで、陸自祝園分屯地(京都府精華町)の3等陸曹が逮捕された。「人を殺したかった」との供述には戦慄(せんりつ)するばかりだ。6月には岐阜市の陸自射撃場で、自衛官候補生が隊員3人を自動小銃で死傷させた。

 五ノ井さんは小学生で東日本大震災に遭い、避難生活を支えた女性自衛官に憧れ、入隊したという。そんな若者の夢を奪った組織のうみを、自衛隊は出し切る時だ。

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