天王洲を訪れている人の属性から見える新たなまちづくり

東京モノレールとりんかい線の駅が交差し、運河で囲まれた天王洲アイル(東京都品川区)は、最近、水辺とアートの街として多くのイベントが開催されています。天王洲は江戸時代の末期に築かれた埋立地、第四台場をベースに開発された東京ドーム約5個分の小さな島です。戦後は運河に面した立地を生かした倉庫街として栄え、1990年代には再開発によって東京都内では新宿に次いで高層ビルが立ち並ぶウォーターフロントのオフィス街に生まれ変わりました。そして、現在は「水辺とアートの街」として都市型文化観光拠点を目指して新たなまちづくりに挑戦しています。

天王洲運河沿いのボードウォーク## 水辺の街・天王洲

四方を運河に囲まれた天王洲は、その特性から複数の桟橋があります。そして運河沿いに島を囲むように整備された総延長800mのボードウォークには、各所に椅子やベンチが設置され散策を楽しんだり、運河を眺めながら過ごせるようになっています。また、近隣の品川浦は屋形船の集積地でもあることから、羽田と都心をつなぐ舟運の拠点として注目されています。

天王洲・キャナルサイド活性化協会(まちづくり団体)は、水辺イベントを中心に水辺のにぎわいづくりを行っています。当協会が主催する「天王洲キャナルフェス」では、クルーズ船の運航、水上アクティビティ、船上をステージにした音楽ライブなど、水辺を活かしたコンテンツを多く実施し、水辺空間のにぎわいづくりに取り組んでいます。天王洲は東京で水辺の魅力を感じながら過ごせる数少ないスポットです。

天王洲運河の台船水上ステージの様子## 倉庫街からオフィス街、そしてアートの街へ

1985年より天王洲の再開発が行われ、倉庫街だった天王洲は一気にオフィス街へと変化を遂げます。一度はにぎわいができた街でしたが、その後は時代の流れに沿って閑散としてしまいました。そこで、再びにぎわいを創るために着目したのが「水辺とアート」でした。しかし、天王洲の運河を中心としたイベントを開催しても、一時的に多くの人が集まり、にぎわいが生まれますが、イベントが終わればまた閑散としてしまいました。

当協会は、2019年から巨大なミューラル(壁画)アートや立体のアート作品などを街のいたるところに点在させ、街全体を美術館のようにするプロジェクト「天王洲アートフェスティバル」を開催しています。現在は22作品のミューラルや立体アート作品が街中に展示されています。パブリックアートは日常的に作品を楽しむことができるので、アート作品の前で家族や友人、カップル、愛犬や愛車などと一緒に写真を撮る人を多く見かけるようになりました。

天王洲にはパブリックアート以外にも、現代アートのミュージアムやギャラリーが集積したアートコンプレックスなどの施設もオープンしており、都内屈指のアートタウンへと変貌を遂げています。最近では、国内外の観光客がアート作品を鑑賞するために天王洲を訪れるようになり、「働きに行く場所」だけでなく「アートを鑑賞しに行く場所」として、訪れる人たちの目的も変わりつつあります。

巨大ミューラル(壁画)と立体アート作品
『どこまでも繋がっていく』淺井 裕介 / TENNOZ ART FESTIVAL 2019(左)
『Anonymous』 加藤 智大 / TENNOZ ART FESTIVAL 2022## 「住んでよし」のまちづくり

2005年以降、オフィス街だった天王洲の街に徐々に変化が起こりました。近隣の湾岸地域に大きな高層マンションの建設ラッシュが始まったのです。本来、東京の湾岸地域は物流拠点であり、住民はほとんどいない地域でしたが、大きな物流拠点が郊外へ移転したことで新たに住宅地として注目され、人気の居住地区となりました。この湾岸地区に位置する天王洲も大きな影響を受け、天王洲を中心とした半径2㎞圏内の住民は約5万人になりました。住民が増えたことで街に多くの近隣住民が訪れるようになり、天王洲は働く街から過ごす街へと、少しずつですが変化していきました。

そして、天王洲キャナルフェスの来場者にも年々変化が見られるようになりました。飲食ブース、音楽ライブ、映画上映などはフェス開催当初からの人気コンテンツですが、最近は子ども向けのワークショップが特に人気です。参加者の属性を見ていくと、近隣在住のリピーターがとても多いことがわかりました。特にアートや音楽のワークショップなど、芸術文化に触れられる天王洲らしいコンテンツが人気です。このような天王洲らしいコンテンツの学びの場を提供していくことが、新たに加わった住民がこの街に求めていることだと感じています。

こども大学(DJワークショップ)〈左〉/ こども大学(JAL折り紙ヒコーキ教室)## インバウンドの誘致

さらに、天王洲を行き交う人の属性に変化がありました。それはコロナ後のインバウンド需要の回復による訪日外国人の増加です。このインバウンドを天王洲に呼び込むことも、今後のまちづくりの重要なポイントだと捉えています。天王洲のホテルは宿泊客の約7割が海外、主に欧米からの旅行者です。今後さらにアジアからの旅行者の増加も見込まれます。

最近の旅行消費の動向は、「見る・買う」といった一般的な観光から、「体験する・学ぶ」といった体験型観光がトレンドになりつつあります。現在、新たにインバウンド向けにモビリティーと観光DXを組み込んだ「多言語対応体験型アートツアー」を商品化すべく、準備を進めています。また、日本文化の発信拠点として江戸文化を象徴する屋形船の運航や平船による文化体験クルーズなど、国内外の旅行者向けの観光を展開する予定です。そのほかに水辺の魅力を生かしたくつろぎの空間として、観光客のオアシスとなるような受け入れ体制を整備する予定です。

体験型天王洲アートツアー(モビリティー×DX)〈左〉/ 訪日外国人向け屋形船クルーズ## 新たな属性との共生

天王洲を行き交う人の属性に新たに加わった「住民」と「訪日外国人」。私たちはその両者が求めていることは「学び」や「体験」の場であると考えています。

働く機能が整った街で新たな属性を受け入れるためには、相互に理解する要素が必要となります。天王洲の要素「水辺」×「アート」と就業者・住民・旅行者が共生するための新たな要素「学び」を今後の天王洲の街のにぎわいづくりに必要な要素として、新たな街の進化に取り組んでいかなければなりません。

寄稿者 木村隼人(きむら・はやと)寺田倉庫㈱不動産事業グループ天王洲チームリーダー / (一社)天王洲・キャナルサイド活性化協会 副事務局長

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