社説:マイナ総点検 保険証の廃止は延期を

 これで本当に健康保険証を廃止するというのか。改めて延期を求めたい。

 トラブルが相次いでいるマイナンバーカードを巡り、政府が個人情報のひも付けについて行っていた総点検の結果を公表した。

 総点検の対象8208万件のうち、ひもづけの誤りが計8351件で確率は0.01%だった。このうち健康保険証は1571万件中、誤りが1142件で0.007%とした。

 河野太郎デジタル相は「わずか0.01%」と胸を張ったが、果たして本当にそうなのか。

 総点検に先行して健康保険組合が実施した点検では、健康保険証のひも付け誤りが7553件見つかっている。障害者手帳でも5600超のひも付け誤りがあった。

 一方、国税関連など、マイナンバーとひも付けられている他の情報については総点検の対象外だ。今回の点検結果が実態を正確に表しているとは言い難い。

 ひも付け誤りの主な原因について政府は手作業ミスと説明するが、自治体の負担を考慮せずに普及を急いだ政府の責任こそが問われよう。

 公表に合わせて岸田文雄首相は改めて2024年秋の健康保険証廃止とマイナンバーカードへの一本化実施を表明した。

 本来なら点検結果について国会で議論するのが筋だろう。政治とカネの問題を世論が注視する中、「廃止ありき」で進める姿勢は、どさくさ紛れといわざるを得ない。

 マイナ保険証の登録は増えていない。実際に病院で使う人も4.5%(10月)に過ぎない。

 マイナ保険証を使うためのシステムの普及が遅れ、設置されても機器トラブルや煩雑さが目立っている。医療関係者からは「このまま来年秋に保険証を廃止すれば医療窓口が混乱する」との声が上がる。

 医療分野のデジタル化がいずれ必要としても、現場の混乱を承知で拙速にマイナカードへの一本化を強行する必要はない。

 そもそもマイナカードの取得は任意だったはずだ。誰もが必要とする医療を盾に、事実上、取得を強制する手法に国民は疑念を抱いている。

 河野氏は会見で「日本はゼロリスク神話があったが、そうはならないと認識してもらいたい」と述べたが、こうした高飛車な姿勢が制度への不信を招いていることも自覚すべきだ。

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