中学受験シーズン到来、鉄道ファンには実はチャンス問題が多い?(後編) トンネルが造られた年代の見分け方、さらに今年予想されるテーマは…「鉄道なにコレ!?」【第54回】

By 大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)

「学問の神様」として知られる湯島天神に奉納された絵馬=2019年1月、東京都文京区

 中学受験シーズン到来を控え、前編では鉄道が教科を問わずテーマとなりやすい背景や、過去の出題例と解答などをお届けした。後編ではさらなる出題例のほか、2024年入試において鉄道関連で予想されるテーマについて取り上げる。東京の難関私立中学校の入学試験では2022年、地図に書き込まれた3つの鉄道トンネルが造られた年代順を尋ねる問題が出された。「どうして分かるのか?」と首をひねる向きもあるかもしれない。だが、問題文には見分けるヒントが隠されていた。(共同通信=大塚圭一郎)

※筆者が「共同通信Podcast」で音声でも解説しています。【きくリポ・鉄道なにコレ!?特別編9】中学受験、鉄道ファンには実はチャンス問題が多い?

 ▽土木水準で変わる上越線のトンネルのルート
 後編でまず取り上げるのは、渋谷教育学園渋谷中学校が2022年の社会科入試で出した問題だ。卒業生には将棋の棋士として活躍していたフジテレビジョン(東京)の竹俣紅(たけまた・べに)アナウンサーらがいる。

渋谷教育学園渋谷中学校が出題したものと同様の地図(地図画像は国土地理院による)

 【問題6】鉄道のルート選びには、その時代の土木水準が影響しています。次の地図は、群馬県と新潟県の県境付近のルートを示したものです。地図中の鉄道のルートA~Cを、建設された時期の古い順に並べたものを、下のア~カの中から1つ選び、記号で答えなさい。
ア:A→B→C
イ:A→C→B
ウ:B→A→C
エ:B→C→A
オ:C→A→B
カ:C→B→A

JR東日本上越線を走る電車「211系」=2018年3月21日、群馬県渋川市(筆者撮影)

 ▽「国境の長いトンネル」は?
 この設問に絡み、筆者からもう1問出題する。

 【問題7】ノーベル賞作家の川端康成の小説『雪国』の有名な書き出しの「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」の「国境の長いトンネル」はA、B、Cのどれか?

プロ野球ソフトバンク王貞治球団会長=2023年10月

 ▽京急川崎駅のダイヤから出題
 「早実」の略称で知られる早稲田大学系属早稲田実業学校の中等部は、2018年入試の社会科で首都圏大手私鉄、京浜急行電鉄の京急川崎駅(川崎市)のダイヤを受験生に読み解かせるというユニークな問題を出した。
 高等部の卒業生にはプロ野球パ・リーグ「福岡ソフトバンクホークス」会長で、同球団と読売ジャイアンツの監督を歴任した王貞治氏、日本の民間人として初めて国際宇宙ステーション(ISS)に滞在した衣料品通信販売大手ZOZO(千葉市)の創業者で前社長の前沢友作氏らがいる。

京急川崎駅の時刻表
国際宇宙ステーションから帰還し、記者会見した前沢友作さん=2022年1月

 【問題8】ヨシオ君は京急川崎駅の近くに住んでいます。学校へは、京急川崎駅から品川駅へ行き、JR線に乗り換えて、品川駅~新宿駅という経路で通います。右ページの時刻表は京急川崎駅のもので、平日の品川方面行き、平日の横浜方面行き、休日の品川方面行き、休日の横浜方面行きのいずれかを示しています。ヨシオ君が平日朝の通学に利用する時刻表はどれですが、A~Dの中から1つ選び、記号で答えなさい。

 【問題9】【問題8】の答えを選んだ理由を30字以内で説明しなさい。

 ▽新幹線の路線数は
 最後に筆者がもう1問出題する。

 【問題10】日本の新幹線は全部で何路線あるか。ただし在来線扱いの路線は含まない。

 ▽解答編:渋谷教育学園渋谷中学校
 【問題6の解答】
 出題された地図に記されている3つのルートは群馬、新潟県境の近くにあるJR東日本の上越線の上り線と下り線、上越新幹線だ。建設された年代順をつかむヒントとなるのが、問題文の「鉄道のルート選びには、その時代の土木技術の水準が影響しています」という記述だ。
 列車の到達時刻を短縮するにはできるだけ短い距離で結んだ方が良いものの、土木技術が進んでいなかった時代には高低差が大きい山岳地帯に直線的なトンネルを掘るのが難しかった。
 つまり直線的なトンネルが最も短い距離でつないでいる「A」は土木技術の水準が向上した後に建設されており、最も新しいと類推できる。
 一方、「C」は線路がループ状に一周するトンネルになっている。勾配が大きい直線的なトンネルを掘ることが技術的に難しかったためループ式を採用しており、直線的な残る2つのトンネルより昔に建設された最も古いトンネルだと推察できる。
 よって「カ」のC→B→Aの順番となる。

JR東日本が上越新幹線で運行していたオール2階建て新幹線「E4系Max(マックス)」=2018年5月14日、さいたま市(筆者撮影)

 ▽解答編:国境の長いトンネル
 【問題の解答7】
 Cは1931年に開通した上越線の「清水トンネル」で、鉄道ファンには国内に現存する数少ないループ線の一つとして有名だ。ループ式を用いたのは建設技術が未熟だった以外の理由もある。電気機関車が客車や貨車を引いて勾配の大きな区間を登るのは大変なため、線路をループ状にして走る距離を長くすることで坂を緩くしたのだ。
 Bは複線化のために建設され、1967年に開通した「新清水トンネル」だ。群馬県から新潟県へ向かう下り線に使われている。単線時代は双方向の列車が行き来していた清水トンネルは複線化後、上り線に用いられるようになった。
 一方、Aは1982年に開通した上越新幹線の「大清水(だいしみず)トンネル」だ。掘削工事中に出てきた大量のわき水が美味だったことから、旧日本国有鉄道(現国鉄)が1984年に「大清水(おおしみず)」という商品名でミネラルウオーターを発売した。
 読み方がトンネル名と異なる「おおしみず」を採用したのは、「おいしい水」と似た響きがふさわしいとの判断もあった。ミネラルウオーター事業はJR東日本グループに引き継がれ、商品名は2007年に「From AQUA(フロムアクア)」に切り替わった。
 出題した小説『雪国』に登場する「国境の長いトンネル」が指すのはCだ。単行本化されたのは1937年で、AとBは開通していなかった。

京浜急行電鉄品川駅に入線する電車の新「1000形」=2020年10月18日、東京都港区(筆者撮影)

 ▽解答編:早稲田実業学校中等部
 【問題8】

 【問題9】通勤・通学客が利用する朝の電車の本数が特に多いため。

 問題9で示したのは解答例だ。Bのように東京都心へ向かう電車のダイヤは、通勤・通学客が多い平日朝の午前7~8時台のラッシュ時間帯に目立って本数が多いという主旨を30字以内で記述すれば正解になるだろう。
 一方、Aは午後5~6時台の帰宅ラッシュ時間帯の本数が特に多いため、平日の横浜方面行きのダイヤなのが分かる。
 残る2つの休日のダイヤは、ともに日中の本数が比較的平準だ。午前4時台にも電車があるCが品川方面行き、翌日午前0時台まで電車があるDが横浜方面行きと判別できる。

京浜急行電鉄京急川崎駅のプラットホームにあった「フラップ式列車発車案内表示装置」(通称パタパタ)=2020年11月15日、川崎市(筆者撮影)

 【問題10】10路線
 うち新幹線の専用軌道として整備されたフル規格は8路線ある。北海道、東北、上越、北陸、東海道、山陽、九州の各新幹線と、2022年9月23日に武雄温泉(佐賀県武雄市)―長崎間で部分開業した最も新しい新幹線の西九州新幹線だ。
 残る2路線は既存の在来線の線路幅を1067ミリから新幹線の1435ミリへ変え、新幹線路線と直通運転ができるようにしたミニ新幹線で、秋田新幹線と山形新幹線がある。
 問題文に「ただし在来線扱いの路線は含まない」と注釈を入れたのは、ともに在来線扱いの越後湯沢(新潟県湯沢町)―ガーラ湯沢間(1・8キロ)の通称ガーラ湯沢支線と、博多(福岡市)―博多南(福岡県那珂川市)間(8・5キロ)の博多南線を含まないことを明確にするためだ。
 ガーラ湯沢駅はJR東日本のグループ会社が経営するスキー場に直結しており、博多南駅の周辺には博多南線を利用して福岡市に通勤する人らが住むマンションが林立している。在来線扱いのためガーラ湯沢線の大人特急料金は100円、博多南線は130円と安く設定されている。
 一方、ミニ新幹線の秋田新幹線と山形新幹線は一部区間を在来線の電車も走っているが、在来線扱いではないため新幹線の路線としてカウントされる。

 ▽2024年入試の注目点は?
 東京の私立中の入試問題を前編と後編の2回にわたってお届けしたが、計10問のうち読者の皆様は何問答えられただろうか?あくまでも筆者の私見だが、8問以上正解できれば鉄道問題では合格点だろう。
 さて、2024年はどのような鉄道関連の問題が出そうのかが気になる向きもあるだろう。新たな路線の開業といった注目されるニュースや、開業からの節目を迎える路線が注目をされがちで、24年は新幹線に関する2つの大きなイベントが待ち受けている。
 一つは2024年3月16日の北陸新幹線金沢―敦賀(福井県敦賀市)間の延伸開業で、もう一つは24年10月1日に開業から半世紀(50年)を迎える東京―新大阪(大阪市)間の東海道新幹線だ。
 そこで本連載「鉄道なにコレ!?」の次回の第55回は、新春特別企画として2024年の鉄道のビッグイベントをご紹介するので是非お読みいただきたい。
 受験生の皆様がくれぐれもご体調に留意され、試験当日にご健闘されることをお祈りしている。

 《東京の私立中学校入試》東京都によると、2024年に入試を実施して生徒を募集する都内の私立中学校は182校と、前年と同じになる。募集人員は計2万5619人と、前年度より58人増。東京私立中学高等学校協会は24年度の入学者選抜期日を24年2月1日以降と定めており、各校は2月1日から入試を順次実施する。

 ※「鉄道なにコレ!?」とは:鉄道と旅行が好きで、鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」の執筆者でもある筆者が、鉄道に関して「なにコレ!?」と驚いた体験や、意外に思われそうな話題をご紹介する連載。2019年8月に始まり、ほぼ月に1回お届けしています。ぜひご愛読ください!

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