なぜ秋春制に移行したロシアで「春秋制の復活」が叫ばれているのか…その理由とは

Jリーグは2026年シーズンから開催時期が秋~春に変更される可能性が高くなった。

これまでは2~11月ごろに開催する春秋制だったが、欧州主要リーグに合わせて、秋から来春にかけてのシーズンに変更する見込み。

2010年から秋春制に変更したロシアでは、氷点下になる12月中旬から3月まで長期の冬休みに入る。ただ、先日には中断前の試合が大雪のなかで強行されたことが大きな問題になった。

雪と同じ白いユニフォームのチームもあり、テレビ視聴者も何がなにやら分からなかったとか。

首都モスクワが大雪になりそうなことは1週間前から分かっていたにも関わらず、試合日程の変更を行わなかったことにロストフのヴァレリー・カルピン監督は大激怒。

「秋春制に切り替えた目的は何だ?いまは(来春に)延期する余地がある。この混乱の意味は何だ?なぜ秋春制に変えたんだ?こんなクソを見るためか。

今日起きたことはサッカーを殺すこと。こんなもの誰が必要とする?外国人はこんな天候でプレーするのを好むと思うか?

なにがサッカーなのか。どんなバカがプレーする決断をしたのか、どんなバカ野郎なんだ?やつらは何をしてるんだ?サッカーを殺すのか?」

この発言によって、ロシアサッカー連盟から罰金20万ルーブル(30万円)とベンチ入り禁止処分を受けた。

『Ведомости』や『СПОРТ-ЭКСПРЕСС』などによれば、ロシアではサッカー関係者たちが春秋制の復活を提案し出しているという。

「春秋制」当時のロシアリーグは3月から11月まで休みなしに行われていた。「秋春制」移行後は、6月下旬から12月上旬までと、休み明けの3月から6月初旬までプレーする。冬に3か月も休むため、そもそも欧州主要リーグと同期されていないという指摘もある。

ロシアで秋春制への移行が叫ばれ出したのは、2005年頃。

UEFAカップで優勝したCSKAモスクワのヴァレリー・ガザエフ監督が、国内リーグのカレンダーを欧州主要リーグに合わせれば、ロシアのクラブは大きな成功を収められずはずだと発言。それで機運が高まると、2010年にロシアサッカー連合の委員会の多数決で移行が決まった。

当時、唯一の反対票を投じたのは、下部リーグの会長。下部リーグの意見が加味されていないと批判しつつ、下部には気候条件の厳しい都市のチームも多いため、移行による観客数の激減を不安視していた。

また、トミ・トムスク(2022年に解体)の監督もこう危惧していた。

「なぜ良いピッチと好天に恵まれた夏にもっと頻繁に試合をしないのか?観戦する条件が良くなれば観客動員数は増えるはずであり、それはクラブの利益にもつながる。たしかに夏には多くの人が別荘にいるが、それでも凍えるような天気よりは多くの人がスタンドに足を運ぶだろう。さらに、我々のリーグがまだ注目されていることを忘れてはならない。雪の中で試合を見てロシアに行きたいと思う強い外国人がいるだろうか?」

サポーターの観戦環境の問題は、スタジアムの屋根設置で解決されるはずだった。

2010年12月にロシアは、2018年FIFAワールドカップの開催権を獲得。それに向けて近代的なスタジアムを建設する予定だった。

だが、2018年W杯が開催され、現在もロシア1部リーグの試合が行っているのは、サンクトペテルブルクのガスプロム・アリーナだけだそう。その建設には日本円で800億円もの予算が市から投入された。

また、ロシアのスタジアムでは、観客が退出する際に冷たい外気に晒されることなく温かい室内にいられるような設計になっていないところもあるという。

さらに、2010年時点では多くのドーム型スタジアムもできるとされていたが、2023年現在でドーム型スタジアムでプレーする1部クラブはひとつもない。2部でも1チームだけだそう。

しかも、ロシアクラブの欧州コンペティションでの成績が向上したとは言い難い。春秋制では前述の通り優勝したこともあったが、秋春制移行以後はEL準々決勝進出が最高なのだ。

では、秋春制で得られたものは何か。現地ではこう伝えられている。

サッカー関係者が1年に二度の休暇をとれるようになったこと。

そして、CSKAなどのクラブが主戦力としてきたブラジル代表選手を夏に開催されるコパ・アメリカ期間中で失わずに済むようになったこと。だが、これはロシアのウクライナ侵攻で状況が変わってしまった。

一方、失われたものは何か。

2部リーグのクラブは3月~11月までの給与支払いが、ほぼ1年になり経営的な厳しさが増した。

昇格チームのプレシーズンが短いことも問題。予算は1月~12月で組まれるが、シーズンは7月から翌年6月のために財政的なギャップが生まれる。シーズン終了時に来年の予算が分からないチームもある。

これらの面から春秋制に回帰するように訴える声も出ている。ディナモ・モスクワのロシア人MFデニス・マカロフもそのひとりで、「カルピンの言葉を聞いた。雪の中を走るのではなく、いい状態でプレーしたい。コンディションが良ければ、より高いレベルのサッカーを見せることができる」と発言。

また、トミ・トムスクを監督として指揮したヴァレリー・ペトラコフも「移行の成果はなかった。状況を考慮して以前に戻す必要がある。 なぜなら、どんな天候でも快適な環境のスタジアムでプレーできるゼニトや、南部でそのようなアリーナでプレーできるクラスノダールのようなクラブはほとんどないからだ」と述べている。

一方で、いまさら戻すことは望まないという声もある。実際、ガザエフは春秋制への回帰に関する騒ぎは「貧乏人のための話」と言い放ったそうで、クラブ間の貧富の格差も問題のひとつになっている。

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現地では「問題は一年で最も良い時期にプレーし、悪い時期にプレーしないようにするにはどうすればよいか」とも伝えられているが、果たして。

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