阪神・淡路29年、メタバースで追悼式典 「遺族交流の場にも」 被災の男性が企画

メターバスによる追悼行事の表紙ページ(大澤誠さん提供)

 阪神・淡路大震災の発生から29年にあたる来年1月17日、インターネット上の仮想空間「メタバース」を活用した追悼行事が開かれる。被災地に直接足を運びにくい人も参加できるようにと、神戸市須磨区のデザイン会社「ザ・スクール・ガール・デザイン」が企画した。大澤誠代表(36)は「遺族交流の場としても定着させたい」と話す。(津谷治英)

 須磨出身の大澤さんは、小学校3年生の時に被災した。家屋の損害は軽微で、家族や親戚も無事だったが、ライフラインが寸断されたため、約2カ月は近所の小学校などでの避難生活を送った。「水がなかなか手に入らず、タンクにくんできた水を避難所の人らと分けて使った」と振り返る。

 震災の体験者として毎年1月17日は特別な思いで過ごしてきた。学校では震災関連の授業があり、犠牲者名が刻まれた神戸・三宮の「慰霊と復興のモニュメント」にもよく足を運んだ。

 しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で、神戸ルミナリエを含め震災にまつわる多くの行事が中止に。そこで2022年1月、メタバースで追悼歌を流すイベントを試みたところ、約400人が視聴した。

 X(旧ツイッター)には海外からも反響が寄せられた。「日本人はみんなで追悼し、前向きに生きているのに感心した」「画面上で黙とうする機会を持ててよかった」。大澤さんは手応えを感じ、本格的なネット上の行事として「阪神・淡路大震災追悼歌イベント」を計画した。

 メタバースは別々の場所にいる人が、同じ場所にいるように交流できる仮想空間で、パソコンやスマートフォンから入れる。今回は追悼式の会場を仮想空間に設営。式場の大スクリーンに震災関連動画が流れる。「兵庫県震災復興研究センター」(同市長田区)の出口俊一事務局長が震災や復興の課題などを解説。参加者の分身「アバター」が森山良子さんの「君にありがとう」や、被災地で生まれた「しあわせ運べるように」を歌う。

 被災地では地域や団体ごとにさまざまな追悼行事が行われてきたが、担い手の高齢化もあり減少傾向にある。大澤さんは「神戸でも震災を知らない人が増えてきた。風化を防ぎ、多くの人が被災地とつながる機会を提供したい」と語る。

 来年1月17日午後8時から約1時半。参加は無料。アプリストアなどで「cluster」のダウンロードが必要。詳しくはosawa@schoolgirldesign.com

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