12月21日は“遠距離カップルを応援する記念日”だった 「遠距離恋愛は一つの美学」提唱したのはオヤジアナウンサー

2023年のクリスマス、さらに年末年始は、コロナ5類移行後初の長期休暇シーズンとなります。行動が制限されないため、大勢の人が国内を移動することが見込まれます。中でも、普段は離れて暮らす「遠距離カップル」にとって、今年のクリスマスは久しぶりに幸せな時間になりそうです。

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学校や勤務地の都合などで自由に会えないもどかしさを抱える「遠距離恋愛」カップル。いまをさかのぼること約1300年前、奈良時代の男女が残した歌にもその辛さが吐露されています。

奈良時代の切ない遠距離恋愛「相聞歌」

中臣宅守(なかとみのやかもり)と狭野弟上娘子(さののおとかみのおとめ)の2人は、宅守が罰を受け、地方に流されることになり、遠距離恋愛を強いられてしまいます。宅守の旅立ちに際して、弟上娘子は次のような激しい想いを歌にしています。

「君が行く 道の長手を繰り畳ね 焼き滅ぼさむ 天の火もがも」

あなたが行く長い道のりを、畳み重ねて焼き滅ぼしてしまうような、天の激しい炎があったらいいのに(万葉集 巻十五より)

これに対し、宅守は…

「畏みと 告らずありしをみ越路の 手向けに立ちて 妹が名告りつ」

神を畏れて口に出さなかったが、越前へと向かうこの道の頂上に立ち、がまんできずに愛しい人の名(弟上娘子)を口に出してしまった(万葉集 巻十五より ※当時は人の名前をみだりに口にだすと、災がもたらされると信じられていました)

という歌で別れの辛さと寂しさを表現しています。

宅守と弟上娘子のように、恋愛関係にある男女のほかに、親子など親しい者の間で互いの思いを伝えるために詠んだ歌のことを「相聞歌」といいます。当時は、自分の気持ちを込めた歌をしたためた手紙を送り合うことで、互いの気持ちを確認していたということです。宅守は流刑に際して、弟上娘子への想いをつづった計4つの歌を残しました。

「相聞歌」で知名度全国区に

香川県宇多津町は2006年に恋人の聖地に認定されたことをきっかけに、2007年度から「恋」をお題に「平成相聞歌」を募集し、優秀作品を表彰しています。現在は「令和相聞歌」と名称が変更されています。実行委員会によると、これまでに例年3,000~3,500作品の応募がありましたが、「令和相聞歌」になって、毎回約15,500作品が寄せられているそうです。

「あるだけの 好きを詰め込む 雪つぶて」
(作:クラウド坂の上) 第4回令和相聞歌最優秀賞

メールで応募できる手軽さから、全国各地から作品が集まっていて、「令和相聞歌」となって5回目を迎える今回は、香川県(493作品)、静岡県(402作品)、東京都(295作品)からの応募がトップ3。以前はハワイに賞品を送ったこともあったそうです。

「相聞歌」を始めてから宇多津町の認知度が全国的に上がり、さらに授賞式に県外から多くの受賞者に参加してもらうことで、町の魅力を直接発信できるようになったと実行委員会は、その開催メリットを説明しています。

今回の応募作品については、2023年12月14日から2024年1月4日まで、ホームページ上で投票が行われ、1月19日に結果が発表されるということです。

ロマンチックな記念日 提唱したのは オヤジアナウンサー⁉

奈良時代の「相聞歌」によるやり取りに比べれば、現代の連絡・交通手段は格段に便利ですが、離れて暮らしながら、関係を保つのは大変です。

実はこうした遠距離恋愛を続ける2人のための記念日があります。12月21日の「遠距離恋愛の日」です。提唱したのは、ラジオアナウンサーの大岩堅一さん(65)です。

「以前、FM長野で放送作家の加瀬清志さんと週に一回、記念日について話すコーナーを放送していました。やがて記念日をテーマに講演を頼まれるようになり、ある日会場に向かう電車の中で『クリスマスに久しぶりに会えるようになるカップルのための記念日はどうだろう』とアイディアが生まれました」(大岩さん)

離れて「1人」だったのが「2人」になる日、ということで「1」「2」「2」「1」、12月21日を選んだということです。ロマンチックな響きの「遠距離恋愛の日」。実は、2人の“オヤジ”の会話から生まれました。

やがて加瀬さんは、日本記念日協会を設立。代表理事として、さまざまな記念日を取りまとめる活動を始めます。しかし「遠距離恋愛の日」の提唱は、約20年前のこと。ネットはいまと比べて浸透しておらず、大岩さんによると、当初はそれほど認知されていなかったそうです。

「あの時代は、なかなか一緒になれない関係をテーマにしたドラマが多く、また新幹線のホームで彼氏を見送る女性のCMが大ヒットするなど遠距離恋愛は大きなテーマでした。でも、スマホでビデオ通話ができる今はがらっと様子が変わってしまいましたね」(大岩さん)

ネットの検索が一般化してくると、遠距離恋愛の日があることが広まり、大岩さんのもとに「時間差」で問い合わせが寄せられるようになりました。また、ラジオでこの日を話題にすると、かつて遠距離恋愛を経験した人たちから当時を懐かしむエピソードが数多く集まるとのこと。

大岩さんは「相手のことを思う時間を大切にする日本人の『美学』のようなものが遠距離恋愛にはあるのかもしれませんね」と話し、自らが提唱した記念日の広がりを振り返りました。

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