2023年の「訪問介護事業者」倒産が 60件に急増  ヘルパー不足や物価高、競合で過去最多を更新

~ 2023年12月15日現在 「訪問介護事業者」の倒産動向調査 ~

2023年の「訪問介護事業者」の倒産が12月15日までに60件に達し、これまで年間最多だった2019年の58件を抜き、年間最多を更新したことがわかった。調査を開始した2000年以降、最多を更新したのは4年ぶり。訪問介護事業は、小・零細事業者が多いが、ヘルパー不足や物価高、大手企業との競合の影響も大きく、業歴20年以上の事業者の倒産も目立った。

2023年1月から12月15日までの「訪問介護事業者」倒産は60件に達し、前年を20.0%上回るペースをたどっている。このうち、資本金1千万円未満が9割超(構成比95.0%、57件)、従業員数10人未満が8割超(同83.3%、50件)を占め、小・零細事業者の倒産が目立つ。また、業歴20年以上も9件発生し、前年(5件)の約2倍に増えた。ヘルパーが高齢化するなか、若返りが遅れた影響も出ているようだ。

倒産が増加した背景は、ヘルパー不足と物価高、競争が重なったことがある。コロナ禍前からヘルパー不足は深刻だったが、コロナ禍が落ち着くと介護業界と他業界との賃金格差が広がり、人手不足倒産が10件と年間最多を記録した。
また、介護報酬は公定価格のため、物価高騰に伴う燃料代や介護用品などの価格上昇分の価格転嫁が難しい。加えて、日本生命が介護最大手のニチイHDの買収を発表するなど、大手や異業種参入との競争も激化している。

2023年1-11月の訪問介護やデイサービスなどを含む「老人福祉・介護事業者」の倒産は110件で、前年同期から18.5%減少した。前年はデイサービスグループの30社超の連鎖倒産が発生した反動が出た格好だが、その分だけ訪問介護事業者の増加が際立っている。
国は、2024年2月から介護職員に月額6,000円の賃上げを実施する方針で、2024年度の介護報酬もプラス改定される見通しだが、ヘルパー不足の解消は容易ではない。2025年に団塊の世代が75歳以上となり、高齢者人口は2040年頃にピークを迎える。2024年度の基本報酬の改定次第では、訪問介護にとどまらず、介護業界の倒産や廃業が加速する事態も懸念される。

※ 本調査は、日本産業分類(小分類)の「訪問介護事業」を抽出し、2023年12月15日までの倒産を集計、分析した。


原因別 「販売不振」が8割

原因別では、最多が「販売不振(売上不振)」の48件(前年比26.3%増)。
次いで、「その他(偶発的原因)」が4件(同100.0%増)、「運転資金の欠乏」が3件(前年ゼロ)と続く。
売上不振が全体の8割を占め、利用者の減少が倒産の引き金になった事業者が目立つ。

資本金別 「1千万円未満」が9割超

資本金別では、「1百万円以上5百万円未満」の36件(前年比33.3%増)が最多。
次いで、「5百万円以上1千万円未満」が11件(同57.1%増)、「1百万円未満」が7件(前年同数)と続く。
個人企業を含む資本金1千万円未満が57件(構成比95.0%)と9割超を占めた。

業歴別 20年以上が急上昇

業歴別(判明分)では、コロナ禍の2020年は業歴1~5年未満の経験の浅い事業者の倒産が全体の32.7%を占め、業歴20年以上は9.0%にとどまっていた。しかし、コロナ禍の影響が徐々に薄れた2022年は、業歴1~5年未満が26.0%に低下し、10~20年未満が34.0%と上昇した。
2023年は、業歴1~5年未満が18.3%と過去5年で最低になった一方、10~20年未満が36.6%と増加。過去10%前後で推移していた業歴20年以上も15.0%に急上昇し、事業基盤を築いていた事業者の倒産が目立った。
人手不足と賃金上昇で若いヘルパー採用が難しく、業歴を重ねた事業者では高齢化が進むヘルパーへの負担が増している。さらに、介護現場の移動に伴う負担やサービス提供時間の低下などの影響も大きいとみられる。

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