【早産児】アンケート結果から見える“現実”と専門家に聞いた家族のサポート&ケア

子どもが予定より早く生まれてしまう「早産」。そうして産まれた赤ちゃんのことを「早産児」といいます。

2008年に、世界の早産における課題や負担に対する意識を高めるために、ヨーロッパNICU家族会によって11月17日が「世界早産デー」として制定されました。

今年の世界早産デーには、池袋・サンシャインシティにて「#ちいさな産声サポートプロジェクト展 ~知ってほしい、小さく早く生まれた赤ちゃん家族の物語~」が行われ、早産の赤ちゃんと家族の成長をたどる写真展や、NICUを模した環境で小さな赤ちゃん人形を用いたお世話体験などのさまざまな参加型のコンテンツが展開されました。

「世界早産デー」に行われた「#ちいさな産声サポートプロジェクト展」の様子

その中で行われたメディアセミナーにて、小児科医の有光威志先生と臨床心理士の橋本洋子先生より、早産児を取り巻く課題についての講演がありました。

現場をよく知るお二人の講演内容から、早産児の定義や必要な治療と課題について、早産児に関するアンケート調査の結果を交えながらご紹介します。

【画像】早産児に関するアンケート結果から見える現実

早産児の定義

妊娠10カ月(在胎37週~41週6日)で赤ちゃんを産むことを「正期産」と言いますが、それより早い段階の妊娠6~9カ月(在胎22週~36週6日)で赤ちゃんを産むことを「早産」と言います。

日本の早産児の出生数は、厚生労働省の2022年の人口動態調査によると年間約4.3万人とのこと。これは、生まれてくる赤ちゃんのうちの約5.6%にあたります。

つまり、日本では約20人に1人が早産児で生まれているということ。

世界では、10人に1人が早産で出生しており、早産の合併症で死亡する赤ちゃんの人数は毎年約90万人にのぼるそう。

ただ、早産児に必要なケアについて、また早産児の成長の過程で家族が抱える悩みについては、当事者家族以外にはあまり知られていないという現状があります。

早産で産まれたことで、不安や悩みを抱えている家族は9割

早産児に関するアンケート

早産児を経験した家族249名、そして経験していない家族(妊婦を含む)82名を対象に、ピジョン株式会社が行ったWEBアンケートによると、子どもが早産で産まれたことで不安や悩みを抱えている家族は9割を超えていました。

早産児のママからは、「色々な危険性や後遺症などの可能性も説明を受けて、不安ばかりだった」「こんなに小さく産んでしまったのは自分のせいだとかなり気落ちした」など、子どもの未来への不安や自責の念が多く語られました。

周囲の理解や配慮不足を感じる早産児の家族は約6割

早産児に関するアンケート

そして約6割の早産児家族は、悪気がないことはわかっていても、周囲の理解や配慮不足を感じ、何気ない言葉に傷ついた経験があると回答しました。

「年齢や月齢を聞かれたときに平均的な1歳児との体格の違いで驚かれる」「赤ちゃん小さい!と言われて傷ついた」などの声から、正期産児の発育・発達を前提とした発言に不安を覚え、傷ついていることが伺えました。

また、早産児のいない家族の7割弱は早産児家族がどんなことに悩んでいるかを知らず、当事者と接する機会がほとんどないために声かけに戸惑う場面もあると回答しています。

なお、早産児や低出生体重児の発達や成長については、実際に生まれた日ではなく出産予定日を基準にして考えるのが一般的。

早産児の家族に「成長の目安を測る際、修正月齢を基準に確認をすることがあるか」という質問をしたところ、84%が「ある」と答えています。

早産児に関するアンケート

一方で、早産児のいない家族は、早産児が修正月齢によって成長や発達を確認することを「知らない」と答えている人が半数近くにのぼりました。

早産児を含めた赤ちゃんの多様な成長について、もっと広く認知される必要があるでしょう。

早産児で出生した子どもが抱えるリスク

「世界早産デー」に行われた「#ちいさな産声サポートプロジェクト展」の様子

では実際に、早産で出生した子どもには、どのようなリスクがあるのでしょうか。

小児科医の有光威志先生によると、在胎28週未満または1,000g未満の早産児は、幼児期には重度の認知運動障害が10~15%、中等度の障害が20%、軽度の障害が30%あると報告されているのだとか。

これらは、27%の子どもは10歳までに改善されているそうです。

また、脳性麻痺も5~10%の割合であるといいます。診断されていなくても、32%がバランス、手先の器用さ、狙いを定めることやキャッチすることなどが困難なのだそう。

学童期には、読解や数学に困難を抱える可能性が高く、支援が必要になります。

成人期には45~60%に認知機能や視覚運動能力に1つ以上障害を抱えます。低身長、低体重、肥満、喘息、慢性腎臓病、高血圧、糖尿病、虚血性心疾患のリスクがあります。

在胎34~37週未満の後期早産児については、小児期に認知障害や運動障害、精神行動障害、感覚障害など、正期産児と比べてリスクが高いという報告があります。

成人期においても、正期産児と比べて2型糖尿病および脳卒中のリスクが増加すること、教育や就職に課題を抱える可能性がやや高いことが示されています。

赤ちゃんが予定より早く産まれたことで、これだけのリスクがあることを医師から説明されたら、早産児家族の不安はどれほどか想像にかたくありません。

できるだけ合併症を減らし、適切な発達を促せるよう、小児医療の現場では救命とその先を見据えた新生児医療を行っています。

早産児の救命治療とは

「世界早産デー」に行われた「#ちいさな産声サポートプロジェクト展」の様子

有光先生は、「まだお腹の中にいるような小さい赤ちゃんが、子宮という環境の外で受けるストレスは赤ちゃんの発育・発達に悪影響を及ぼします。

あたたかい心を育む医療には、そのストレスを最小限とし家族が安心して愛着を育めるよう配慮をすることが重要」と話します。

早産児の新生児医療で行われている3つのケア

そんな考えのもと、早産児の新生児医療で行われているのが「ミニマルハンドリング」と「痛みのケア」、そして「ファミリーセンタードケア」です。

ミニマルハンドリングと痛みのケア

「ミニマルハンドリング」は、赤ちゃんのストレスを最小限にするために治療・検査・処置をできるだけ減らすこと。

赤ちゃんの状態に配慮しながら必要な処置の頻度を減らし、短時間で優しく行うことで合併症を軽減し、予後が改善する可能性が高くなるのだそう。

また、痛みによって新生児の脳の構造が変化し、赤ちゃんの将来の発達スコアが下がるという報告があるため、赤ちゃんの痛みを軽減することも重要。

産まれたばかり赤ちゃんを母親(または父親)の胸元に肌に触れた状態で抱っこさせる「カンガルーケア」によって、家族のストレスと赤ちゃんの痛みを減らすことができると言われています。

ファミリーセンタードケア

「ファミリーセンタードケア」とは、NICUや新生児病棟において家族が赤ちゃんと一緒の時間を過ごし、赤ちゃんの治療やお世話に積極的にかかわること。家族の触れ合いを重視し、面会時間の制限もなく赤ちゃんと家族が一緒に長く過ごせる環境を目指しているそうです。

両親による語り掛けや赤ちゃんの口腔内への母乳塗布といった関わりで、子どもの成長発達や母子の愛着形成に好ましい影響があるとされています。

早産児の家族への支援と必要なサポート

「世界早産デー」に行われた「#ちいさな産声サポートプロジェクト展」の様子

世間の早産児への理解がまだまだ不足している中、子どもの将来に大きな不安を抱える早産児家族に対し、どのような支援があるのでしょうか。

橋本先生は、コロナ禍により、NICUの面会状況は危機的なことになってしまったといいます。

感染者数に関わらず、病院それぞれに方針が違います。「家族面会も治療の一環」だとして極力面会を維持した施設もあれば、未だ制限の強い施設もあります。

橋本先生は「面会が十分にできなかった親子には、より丁寧なケア、サポートが必要」だと話します。

行政の相談支援事業として療育支援指導や巡回相談指導、自立に向けた育成相談なども行っていますが、十分に届いていないという現状があるそう。

行政だけでは不足する家族支援として、同じ体験をした家族同士で感情を共有し、情報を交換する患者家族会があります。

2020年には、全国の子ども(特にNICUに入院した子ども)と家族、 および家族会の全国ネットワーク「日本NICU家族会機構(JOIN)」も設立されました。

1つの家族会からの支援では不足する部分を、他の家族会からの支援で補うことはもちろん、学会やメディアなどを通じて家族の声を社会に届ける役割を果たしています。

健診や子育て支援センターなどで、医療従事者や保健師、役所の職員から配慮が不足したような声をかけられて傷ついた早産児家族の声もあり、今後は一般家庭に限らず周囲の理解を広めていくことも重要です。

医療機関や家族会、行政で継続的な支援を行いつつ、より多くの人に早産児とその家族を知ってもらい、理解を得ることが求められています。

「(当事者家族に)かける言葉も大切だけれど、大変な思いをしながらここまで育ってきた・育ててきたことへの想像力とリスペクトが大切。そこから生まれる温かいまなざしが、親子を支えます」(橋本先生)

筆者自身、第1子の出産時に切迫早産(早産の可能性が高い状態)になったことがあるため、早産についてはなんとなく知識がありましたが、では実際に早産で子どもが産まれた場合にどういうリスクがあるか、どういう支援が得られるのかということは詳しく知りませんでした。

正産児にもいろいろな子どもがいるように、早産児にもいろいろな子どもたちがいて、子どもに必要な治療も、家族に必要な支援もすべて同じではありません。

今後、早産児についての世間の理解が深まり、早産児への適切な支援が行われるよう、私たち一人一人が“知る”ことから始めることが大切なのではないでしょうか。

お話を伺ったのは…

有光威志先生

慶應義塾大学医学部小児科 有光威志先生

2002年、慶應義塾大学医学部卒業。2021年から慶應義塾大学医学部小児科学の専任講師に。日本新生児看護学会「NICUに入院している新生児の痛みのケアガイドライン」委員会委員。

橋本洋子先生

一般社団法人産能教育研究所 臨床心理士・公認心理士 橋本洋子先生

1972年、上智大学文学部教育学科心理学専攻卒業。1994年から山王教育研究所にて周産期領域を含む心理療法に取り組む。子ども園2園で嘱託にて勤務。

(ハピママ*/ Mami Azuma)

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