【どうする家康】茶々からの現代批判「つまらない国になる」

松本潤主演で、徳川家康の人生を描きだす大河ドラマ『どうする家康』(NHK)。12月17日放送の最終回『神の君へ』では、家康が「戦なき世」を作るためのラストバトルとなった、豊臣家との戦いがついに決着。特に茶々の最期の言葉と壮絶な散りざまには、大きな反響が寄せられた(以下、ネタバレあり)。

『どうする家康』第48回より、紅蓮の炎のなかで日の本への思いを語る茶々(北川景子)(C)NHK

■ どうする家康、千から秀頼らの命乞い

1615年に家康の最後の戦『大坂夏の陣』が開戦。家康は乱世の亡霊をもろともに連れて行く覚悟で前線に出て、真田信繁(日向亘)に討たれそうになるが、すんでのところで免れた。信繁をはじめとする大坂方の兵はほとんど戦死。秀頼(作間龍斗)に嫁いだ家康の孫・千(原菜乃華)は、城を脱出して秀頼たちの命乞いをするが、家康と千の父・秀忠(森崎ウィン)から拒否され、「父上もおじじさまも鬼じゃ! 」と、涙ながらに2人を責めた。

『どうする家康』第48回より、涙ながらに家康(松本潤)と秀忠(森崎ウィン)を責める千(原菜乃華)(C)NHK

秀頼や大野治長(玉山鉄二)らの武将たちは、燃え盛る大坂城のなかで、次々に切腹。茶々(北川景子)は秀頼に、自分の首を手土産に生き延びるよう乞われたが、息子や家臣たちの死を見届けたうえで、「日の本か・・・つまらぬ国になるであろう。やさしくて卑屈なか弱き者たちの国に」と怒りの言葉を吐く。そして「茶々は、ようやりました」と微笑みながら、炎のなかで自害。焼け落ちていく大坂城に向かって、家康は手を合わせるのだった。

■ 「乱世の亡霊」真田信繁の暴れっぷり

平和を望む者にとっては最後の関門、戦乱を望む者にとっては最後の一花となった『大坂夏の陣』が描かれた最終回。家康が倒すべき「乱世の亡霊」が、ここで一掃されたわけだが、豊臣一族と並んで注目されたのは、この戦で「日本一の兵(つわもの)」として歴史に名を刻んだ真田信繁だろう。一般的には「真田幸村」の名で知られているが、『真田丸』(2016年)から本来の「信繁」がメインで使われるように。そして大河で「幸村」とは一言も出てこなかったのは、おそらく本作が初めてではないだろうか。

『どうする家康』第48回より、身ひとつで家康の陣中に斬り込む真田信繁(日向亘)(C)NHK

従来のイメージだった「騎馬&銃で家康を追い詰める」ではなく、身ひとつで家康の陣中に斬り込むという、捨て身の暴れっぷりを見せた信繁に、SNSは「(『真田丸』の)堺雅人さんの信繁とはまったく違って野性味あふれてます」「まがうことなき乱世の亡霊だ・・・狂気じみている」「武田ブートキャンプの流れをくむ真田昌幸が作り上げた最凶の戦闘マシーン」などの声に混じって、演じた日向にも「良い意味で19歳に見えないから凄い」「数年後の大河が楽しみになって来る逸材」など、期待の声が多く上がった。

しかしそんな信繁らの奮闘虚しく大坂方は徐々に崩れ、千が家康に家族の命乞いをするまでに。しかしここで千が、秀頼を擁護するのに「あのお方は夢を与えてくださいます。力を与えてくださいます」と言ったのがまずかった。この「夢」と「力」の前に、もれなく「乱世の」が付いてしまうのが、家康を「秀頼絶対倒すマン」にしてしまった要因なのだから。

SNSでも、「千姫が秀頼を生かしたい理由が、そのまま家康が秀頼を殺さねばならない理由になってるツラさよね」「それは余計処さないといけない。秀頼のその力は乱世への力だから」と辛さを訴える声と同時に、家康の代わりに死の命令を下した秀忠にも、「最後の決断は将軍として責任を背負う。やはり彼も徳川幕府トップの人物なのだ」「秀忠も業を背負う覚悟を決めたのだなぁ」「凡人だが、やはり父に似た努力の人」などの感嘆の声があった。

■ 戦国から投げかけられた現代批判の言葉

しかし視聴者の目をもっとも引き付けたのは、紅蓮の炎のなかで壮絶に果てるという、まるで本能寺で散った伯父・織田信長の女版とも言えるような最期を遂げた茶々だろう。しかも「武力で雌雄を決さなくなった国は、つまらない国になる」という、呪詛のような長台詞を遺すという、まさに乱世のラスボス、乱世の花とも呼びたくなるようなラストは圧巻だった。

『どうする家康』第48回より、燃え盛る大坂城のなかで切腹する秀頼(作間龍斗)と茶々(北川景子)(C)NHK

SNSでも、「北川景子の狂気の捨て台詞すげぇ!!」「『万事長きものに巻かれ、人目ばかりを気にし・・・』今の日本のこと言ってるみたい」「家康が天下を取ったことで、世の価値観が大きく変わる。良くも悪くも。茶々さまからの現代へのメッセージか」「茶々の口を借りて言わせた。令和の今を」「淀殿(茶々)おやめくだされ、その呪詛は現代日本人によく効く」という、戦国から思わず投げかけられた現代批判の言葉に、背筋を伸ばすような声が。

その阿修羅のような姿から一転、天を仰いで微笑みながら自害する姿にも「茶々の最期、それまでの禍々しさや怨めしさとは対照的で、お市さまを彷彿とさせるようなやさしいお声で逝くのが何とも」「織田の血だ・・・火のなかで命尽きていくこの画は、皮肉にも織田の血が流れる人間の生き方とも言える」「最後に褒めて欲しかった人は誰だったのか。母か、秀吉か、それとも・・・本当に美しい素晴らしい淀殿でした」などの、北川の演技も込みで絶賛する声があふれた。

『どうする家康』の特徴のひとつとして、戦国時代を生きた女性たちが、ただ男たちの思惑に振り回されたり従ったりするのではなく、逆に振り回したり、実は精神的には支配しているなど、対等かそれ以上の人間関係で存在していた点にある。

そのなかでも茶々(そういえば『淀殿』という通称は一度も使われなかった)は、息子可愛さで家康に逆らうような愚かな女ではなく、秀頼とともに乱世の業を背負ってしまい、それゆえに家康に滅ぼされなければならなかったという、誰よりも大きな「どうする」を担う稀有なキャラクターとなった。「お市との2役には大きな不安があった」と言っていた北川だが、間違いなく後半最大のキーパーソンを演じきったことに、大きな拍手を送りたい。

『どうする家康』総集編が、12月29日・昼1時5分からNHK総合・BSP4Kで放送。また、次の大河『光る君へ』は2024年1月7日より、NHK総合では毎週日曜・夜8時から、BSプレミアム・BS4Kでは夜6時からスタート。BSP4Kは昼12時15分に先行放送あり。第1回『約束の月』は通常より15分拡大され、のちに『源氏物語』を発表する女流作家・紫式部となるまひろ(吉高由里子)の、少女時代(落井実結子)と運命の出会いが描かれる。

文/吉永美和子

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