【連載コラム】第43回:33年ぶりの最下位に沈んだカージナルス 名捕手モリーナを呼び戻した狙いは?

写真:ヤディアー・モリーナ

少し前の話になりますが、日本時間12月7日にヤディアー・モリーナがカージナルスのジョン・モゼリアック編成本部長付特別補佐に就任することが発表されました。モリーナといえば、2004年のデビューから2022年の現役引退まで、19年間のメジャー生活をカージナルス一筋で過ごし、オールスター・ゲーム選出10度、シルバースラッガー賞1度、ゴールドグラブ賞9度、プラチナグラブ賞4度、ワールドシリーズ制覇2度などの輝かしい実績を残した名捕手です。「ヤディ」の愛称で親しまれ、今年のレギュラーシーズン最終日、長年の相棒であるアダム・ウェインライトの引退セレモニーに登場した際もセントルイスの野球ファンから大歓声を浴びていました。

モリーナが昨季限りで引退したことを受け、カージナルスは新たな正捕手としてウィルソン・コントレラスを5年8750万ドルの大型契約で獲得。コントレラスは打率.264、20本塁打、67打点、OPS.826と及第点の成績を残し、カージナルスの捕手陣が記録したWARを見ると、昨季の0.3(メジャー20位)から今季は3.7(同2位)と大きく上昇しました(WARの数値はベースボール・リファレンス版)。ところが、カージナルスは71勝91敗と低迷し、1990年以来33年ぶりとなる地区最下位に低迷。5月には5年契約で獲得したばかりのコントレラスから正捕手の座を剥奪するというドタバタ劇もありました。WARの数字上ではコントレラスが十二分にモリーナの穴を埋めていたにもかかわらず、チーム成績の向上にはつながらなかったわけです。

モゼリアック編成本部長は、テネシー州ナッシュビルで行われたウィンター・ミーティングにおいて「何でもこなす捕手として、モリーナがチームにもたらしていたものを過小評価していた」と語りました。ゲームプランの作成から投手陣とのコミュニケーション、試合前の準備まで、カージナルスはモリーナに頼り切りとなり、10年以上にわたってそれが当たり前となっていたのです。「モリーナがいるのが当たり前」となっていたカージナルスは、モリーナにフルタイムのコーチ就任を打診したようですが、家庭の事情もあってそれは叶わず、アドバイザー的な役割で話がまとまりました。これについて、モゼリアック編成本部長は「ヤディが少しいてくれるだけでもいないよりはマシだ」と話しています。それだけカージナルスにおけるモリーナの存在が大きいということでしょう。

では、カージナルスはアドバイザーとしてのモリーナに何を期待しているのでしょうか。モゼリアック編成本部長は「彼はオリバー・マーモル監督を助けてくれるだろうし、マイナーの指導をすることもあるだろう。キャッチングに特化するつもりはないが、それは彼の得意分野だ。投手陣の助けにもなるだろうし、コーチ陣と時間を過ごして知恵を分け与えてほしい。そうしたことに今回の人事の意義がある」と話しています。要するに、知識や経験をチームに還元し、チームのためになることなら何でもやってほしい、ということですね。

「彼のスキルが簡単に教えられるものなのかはわからない。彼にとっては自然にこなしていたことだから。でも、彼はたくさん勉強し、たくさん練習してそうしたスキルを身につけた。彼の習慣や取り組み方を学ぶだけでも多くの選手にとってプラスになると思う」とモゼリアック編成本部長。なお、今は家族を優先しているものの、モリーナは将来的にはメジャーの監督を目指しており、今回の編成本部長付特別補佐就任は、将来のモリーナ監督誕生への第一歩ということになりそうです。

文=MLB.jp 編集長 村田洋輔

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