事件当日のパジャマが法廷に…犯人だとする4つの“根拠”に「検察庁が小さく見えるほどの反論」袴田さん再審“年内最後”の審理【袴田事件再審公判ドキュメント⑤】

死刑が確定している袴田巖さん(87)の再審=やり直しの裁判の年内最後となる審理が12月20日、静岡地方裁判所で開かれ、袴田さんの逮捕直後、犯行着衣とされていたパジャマが法廷で示されました。

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<袴田巖さんの姉・ひで子さん(90)>
「来年もすぐに始まるから、裁判が終わるまで、まあ、頑張っていこうと思ってる。そんなにいつまでもだらだらやってられないと思う。裁判所も」

<滝澤悠希キャスター>
「半世紀前の事件について争う、袴田事件の再審公判。第5回公判は年内最後の公判となります」

48年に及ぶ収監で精神的に不安定な状態が続く袴田巌さんは出廷が免除され、被告人不在という異例の展開で5回目も公判は進みました。

袴田さんの有罪を主張する検察が設定した論点は、3つです。
①犯人はみそ工場関係者で、犯人の事件当時の行動を袴田さんが取ることが可能だった
②いわゆる「5点の衣類」は袴田さんの犯行着衣であり、事件後に隠されたもの
③袴田さんが犯人であることを裏付ける事情が他にもある

今回から審理の対象は③に。検察が主張する「袴田さんが犯人であるその他の事情」とは何だったのでしょうか。

<滝澤悠希キャスター>
「午後4時頃、弁護団が法廷内でパジャマを出しました。裁判官にパジャマをかざしまして、どの部分で血液型鑑定が行われたのかを説明しました。姉のひで子さんがそれを間近で眺める姿も見られました」

弁護団の請求により、法廷で公開された袴田さんが事件当日に着ていたパジャマ。検察はもともと血の付いたパジャマを押収し、袴田さんの「犯行着衣」と主張していました。袴田さんも取り調べ段階でそれに沿った自白をしています。

<取調官>
「どういう格好して行ったんだ?」
<袴田さん>
「寝てるパジャマをそのまま着て、そのまま下へ降りて」(※録音テープより)

しかし、「自白は強要された」として静岡地裁の初公判で袴田さんが一転、否認に転じると、初公判から9か月後、事件現場のみそタンクの中からパジャマとは別の犯行着衣が見つかります。これが「5点の衣類」です。

検察は袴田さんは「5点の衣類」から犯行後にパジャマに着替え、そのパジャマからは犯人が放火する際に使ったとされる油や袴田さん以外の血液型の血が検出されていると主張しました。

これに対して弁護団は、パジャマに残る血液は肉眼でも確認できないほど微量で、血液型の判定はできないはずだとして鑑定結果は信用できないと反論しました。

検察はパジャマ以外にも当時、袴田さんは被害者の一人から借金をしていたことから金品を目的に犯行に及んだと考えられるなど、あわせて4つの“根拠”を挙げ、袴田さんが犯人であると改めて主張しました。

【検察が挙げた4つの根拠】
①袴田さんは被害者から借金があり、金の余裕がなく金品を目的とした犯行に及ぶ動機があったこと
②事件の凶器とされる「くり小刀」と同じものを販売していた刃物店の店員の「袴田さんを見た」という証言があること
③袴田さんの左手中指には鋭利なもので切ったとみられる傷があり、犯行時に抵抗された際のけがであること
④袴田さんのパジャマから、犯人が放火する際に使ったとされる混合油と複数の血液型の血痕が検出されていて、犯行後に着替えたものであること。また、付着する血痕からは、袴田さんの血液型(B型)以外も検出されていて、鑑定結果にも示されていること

一方、弁護団は、検察が根拠とした4つに対する反論に加え、袴田さんのアリバイについて証言があると主張しました。

【弁護団が挙げた5つの反論】
①袴田さんの左手中指の傷は、消火活動中に負ったものであること
②パジャマについての検察側の鑑定結果は、信用できないこと
③刃物店の店員の証言は、捜査機関により歪められ悪用されたものであること
④売上げ金の所在を袴田さんが知っているのは、犯人性を裏付けるとは言えないこと
⑤袴田さんに「アリバイがある」と証言する人がいること

年内最後の審理で、検察の主張が出そろいました。今回の公判で、検察は、袴田さんが犯人でなければ不自然とする細かな事情をいくつも並べました。一方で弁護団は前回の「5点の衣類」に続き、証拠の“実物”を法廷で示して反論する構図でした。

<袴田さんの姉・ひで子さん(90)>
「きょうの反論は素晴らしかった。検察庁が小さく見えた。もう絶対勝つ」

<西嶋勝彦弁護団長>
「弁護人としては逐一反論して、ことごとく反論したと思っている」

公判の終了後、弁護団が会見を開き、袴田さんの姉・ひで子さんは弁護団の反論を評価し、感謝を延べました。

次回の公判は2024年1月16日に開かれ、判決は、夏ごろと見られています。

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