「それ詐欺ですよ」新人タクシー運転手、客乗せたまま交番へ ピンときた! 会話で確信

コンビニ店へ電子マネーカードを買いに行こうとする女性客に詐欺だと気付かせ、被害を防いだ阪急タクシーの西田恵人さん=尼崎市潮江5、尼崎東署(撮影・吉田敦史)

 車内での会話から女性客(81)が特殊詐欺に遭いそうになっていると気付き、被害を未然に防いだとして、兵庫県警尼崎東署は21日、阪急タクシー伊丹営業所のタクシー運転手西田恵人さん(51)=伊丹市=に署長感謝状を贈った。同署であった贈呈式には被害を免れた女性も訪れ、「パニックになっていたけど、良い方に巡り会えて難から逃れられた。本当に本当に、ありがとうございました」としみじみ感謝を伝えた。(地道優樹)

 12月8日午前、西田さんは配車センターから予約の連絡を受け、尼崎市に住む女性を自宅まで迎えにいった。乗り込んできた女性は「コンビニまでお願いします」と行き先を告げた後、焦った様子で「忙しいのにパソコンが壊れた」「(電子マネー)カードを買ったら直るらしい」と西田さんに話し始めた。

 ピンときた西田さんはすぐに「それ詐欺ですよ」と言い切った。詳しく事情を尋ねると、パソコンの画面に「ウイルスに感染した」という警告が突然表示され、画面にあった番号に電話したところ、マイクロソフトの社員を名乗る男が出たという。修理するには料金の先払いが必要だとして、女性は男から4万円分の電子マネーカードを買うよう指示されていた。

 タクシーを発進させる前に、西田さんは「ご家族か警察に相談した方がいいと思います」と助言。女性が「家族は仕事中で連絡が取れない」と話したため、「先に交番に行きましょう」と提案した。女性は半信半疑だったが、「マイクロソフトがそんな決済をするはずがない」などと説得して女性を最寄りの交番へ連れていき、警察官に事情を説明。女性は警察官に諭され、詐欺と確信したという。

 西田さんはタクシー運転手になって約3カ月の新人。乗客の行き先に口出しすることに多少のためらいはあったが、「それ以上に詐欺だという確信が勝った」という。というのも、今年4月に80代の父親が同じ手口で実際に電子マネーカードの番号を伝え、結局10万円分をだまし取られる被害に遭っていた。悔しがる父の姿に「先に言ってくれたら防げたのに」とやるせない気持ちを募らせていた。

 「引き留められるまで詐欺だとは全然気づかなかった。やっぱり会話って大事ですね」。贈呈式で西田さんと約2週間ぶりに再会した女性は、深々と感謝を伝えた。同署によると、今年に入ってタクシー運転手が特殊詐欺被害を未然に防いだのは県内で5例目という。西田さんは「車内でしゃべりたがらないお客さんもいるので難しいところだが、会話から気付けることもある。少しでもおかしいと思ったら今後も声をかけていきたい」と話した。

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