SPEARMEN - 結成40周年を"時の断片"と捉え、バンドの持つ新たな何かを常に思い求める飽くなき姿勢

どこかにあるような曲も過去に作ったような曲も絶対やりたくない

──新作『Fragment Of Time』がリリースされました! 遂にというかやっとというか。前作のミニアルバム『Parallel Wind』が2018年、フルアルバムにいたっては1995年の『Ⅲ』以来ですからね(笑)。

KOHJI MIZUSAWA:ですね(笑)。

──新作『Fragment Of Time』、凄いアグレッシブです。前作『Parallel Wind』はしなやかさもあり新たな面を感じたけど、今作はそれを踏まえて、ある意味スピアメンの王道な面をバーンと。

MIZUSAWA:前作は若干名刺代わり的なとこがあって。なんせもう20年以上単独作を出してなかったんで(笑)。自分たちが持ってるいろんなもの…、キャッチーな面やポップな面も程よく出そうという意図があったんで。

──前作はバラエティありましたよね。

MIZUSAWA:だからミニアルバムでちょうど良かった。

──まずスピアメンのサウンドを言っとかないとね。特にライブではぶっとく硬質で緊迫感があり。ジャンクでハードコアでオルタナでサイケと様々なジャンルを含みつつ、ロックとしての王道感がある。

3人:ほぉ。

KOHJI MIZUSAWA(G,Vo)

──で、新作『Fragment Of Time』は前作以降の曲?

RYUTA YANAGIHARA:断片とかは以前からのものもあったけど、まとめたのは前作以降で。

MIZUSAWA:うちは1年に2、3曲しか曲ができないんで(笑)。

YANAGIHARA:調子が良くてそのぺース(笑)。

MIZUSAWA:スタジオは毎週ずっと常に入ってるんだけど。

──そりゃ、音源もなかなか出ないわけだ(笑)。

MIZUSAWA:自分たちが納得できる曲じゃなきゃ出したくないもんね。スタジオでも納得できるまでやりたいっていうのが当たり前でしょ。だから時間がかかる。そのぶん今回は全部の曲が納得できるし、アルバム全体としても納得してる。自信はあります。

JUNICHI SHINOHARA:ま、40周年だしタイミング的にもバッチリで。40周年じゃなかったらCD作ろうってならなかったかもしれない(笑)。いろんな意味で全てにおいてタイミングがよかった。

──放っておいたらずっとスタジオに入ってて(笑)。

MIZUSAWA:あり得る(笑)。

──曲作りはどんなふうに?

MIZUSAWA:スタジオでセッション。以前はリフとかを俺がまず作ってきて、そこからセッションが多かったんだけど、今はもう最初から3人でセッション。3人でグルーヴを作って、フレーズが出てきて、繰り返して、進んでいく。新しいものを見つけるっていうのが第一で。既にどこかにあるような曲は絶対やりたくない。自分たちが過去に作ったような曲もやりたくない。そうすると新しいパターンの曲っていうのは難しくなってくるじゃん、さすがに40年もやってると(笑)。でもスピアメンとはなんなのか、自分たち自身でわからないとこがあるし、スピアメンが持つ新しい何かを探してる感じ。まだまだ見つかると思う。

自分では思いつかないようなものが出てきたほうが面白い

──あぁ、私はスピアメンを初期の頃から見ていて、当時はループする曲が多かったじゃん。ループしてグングン上がっていく感じだったり、ループする中でパッと景色を変えていく感じだったり。それって今言ったようなスタジオでの音作りからきてるんだね。

MIZUSAWA:かもしれない。スタジオでも繰り返し繰り返しやってるしね。

──そうやって何度も試すことで、自分たちの身体から出てくる音になっていくんだろうね。

MIZUSAWA:そうだね。何度やっても飽きないしね。

YANAGIHARA:でもやっぱり、KOちゃん(MIZUSAWA)が言うように既にどこかにある曲はやりたくないし、何々っぽい音になったら途端につまんなくなってテンション下がるんだよね。頭で考えることじゃなく、身体が反応しちゃう。

SHINOHARA:だから道なき道を行く、みたいな感じで。

MIZUSAWA:それが楽しいのさ。昔は俺がこんな感じでって言って始めるパターンが多かったけど、今は何も言わないで、むしろ俺が2人の音に合わせていく。自分が作ってきた曲をやりたいんじゃなくて、新しい刺激があるものをやりたいんだからね。自分の頭の中で作ったものなんかたかが知れてるじゃん。それより自分の頭では思いつかないようなものが出てきたほうが面白いじゃん。

──じゃ、スピアメンは東京ロッカーズから影響は受けてるだろうけど、どういうふうな影響の受け方?

MIZUSAWA:東京ロッカーズが始まったのが1978年頃だとして、俺たちは80年代前半に見て。うちらも周りのバンドも何らかの影響は東京ロッカーズから受けてたて思う。俺は日本のバンドで最も影響受けたのはLIZARDだし。でも当たり前だけどLIZARDになりたいわけじゃないから。あんなふうになりたいっていう影響の受け方は、どのバンドにも全くしてない。そうこうしてるうちに、海外のいわゆるジャンクとかノーウェイヴとかを知って影響受けて。

SHINOHARA:俺はじゃがたらも好きだったな。

MIZUSAWA:あとE・D・P・S。新宿ロフトでE・D・P・S見た時、ドーンって凄い気持ちいい音しててさ。立ち姿も惚れぼれするほどカッコよくてさ。ツネマツさん、バニラ、ボーイ。ルックス的には一番カッコイイと思ってた。

──その頃のE・D・P・S、見てない。羨ましい!

MIZUSAWA:東京ロッカーズのバンドを見られて良かったと思うのは、ライブハウスという自分にとって身近な場所にいる、身近な場所で見るができる。そこに凄く感動してさ。

──うんうん。自分と同じ場所にいるって、なんか凄いことだよね。

MIZUSAWA:そうそう。

RYUTA YANAGIHARA(B)

──1stアルバム『LOST』はLIZARDのモモヨさんプロデュース。

MIZUSAWA:レコーディングはライブと同じことをやらなくていい、何やってもいいんだって教わった。ライブに縛られなくていいっていう。口にして言われたわけじゃないけど。

──そして1992年にミニアルバム『MOONFLOWS』をリリース。

MIZUSAWA:『MOONFLOWS』は『LOST』でできなかったことをコンパクトにまとめた感じ。『Parallel Wind』と同様、当時の自己紹介的な。

──表題曲の「MOONFLOWS」はメロディアスで展開も多い。それまでなかったタイプの曲だよね。

SHINOHARA:「MOONFLOWS」はKOちゃんがソロでやって曲だよね。RYUちゃん(YANAGIHARA)が一時期スピアメンを抜けた時期があって。KOちゃんはソロで弾き語り的なことをやってた。

MIZUSAWA:あぁ、そうだ。

SHINOHARA:それをバンドとしてやって。

──そしたら新しいパターンができた。

SHINOHARA:そうそう。

今は自分を追い込まずに自然体でライブに臨める

──ライブのスタイルもだんだん変化していって。初期は緊迫感が凄くて。最初の挨拶もMCもなし、拍手もするな、喋るなって感じで(笑)。

MIZUSAWA:見に来てくれた人が、「挨拶はしない、喋らない、アンコールはしない、笑わないバンドですね」って言ってた(笑)。

YANAGIHARA:KOちゃん、お客さんにかなり圧かけてたよね(笑)。

──ホントそうだったよ(笑)。ま、あの緊迫感はゾクゾクしたけど。音だけでコミュニケーションしたかったから?

MIZUSAWA:ま、そうだね。凄いライブならバンドも観客も喋る必要ないだろって思ってた。

SHINOHARA:あと当時は一人でライブを見に来てた人が多かった気がする。俺もそう。顔見知りになっていく人はいたけど、でもライブを見るのは一人。個人で見る。そこがけっこう大きかったんじゃないかな。

MIZUSAWA:確かにそうだったね。今の人は友だちがいるから行くって感じが多そうで。それでもいいよ、全然。でも友だちと一緒だからライブが楽しいっていうのは、予定調和になりやすいでしょ。予定調和は凄く退屈だからね。

YANAGIHARA:あとさ、あの頃は前のバンドの雰囲気をどれだけ変えるかっていう。

MIZUSAWA:うん。そうだったね。

YANAGIHARA:前のバンドがどんなに盛り上がっても、俺たちはシーンとさせる(笑)。前のバンドが作った盛り上がりでなだれ込んでいくんじゃなく、拍手しなくても踊らなくてもいいから、俺たちが出す空気にガラッと変えたかった。だからああいうライブになってたのかもしれない。

JUNICHI SHINOHARA(Ds)

──それがだんだん変化していったよね。今はMCもちゃんと言うし(笑)。

MIZUSAWA:MCどころか喋ってる時間のほうが長い(笑)。ていうのはウソだけど(笑)。

YANAGIHARA:こっちからアクションしないといけないなって。空気を変えたいっていうのは今もあるんだけど、その出し方が、たとえば、スピアメンはこういうバンドです、こういうことやってきましたって、フラットに伝えていこうって。音でも言葉でもね。

MIZUSAWA:うん、フラットってことだよね。昔は、例えばライブをやる日の出かける前にさ、ストゥージーズとかドアーズをずっと聴いてさ、自分の気分をゼロじゃなくてマイナスのとこまで持ってくの。

──プラスじゃなくてマイナス!?

MIZUSAWA:そう。マイナスからライブを始めなきゃいけないんだって、強迫観念的なものがあったんだよね。なんでかっていうと、感情の振幅が大きいほうが音もダイナミックになって凄いライブができる、振幅が小さいのは良くないんじゃないかってずっと思っていて。ということは、マイナスなとこからスタートしたほうが凄いライブになるぞって思ってた。マイナスにいかに深く落とすかによって、その反動でより高いとこに行けるって。ローとハイ、その幅が大きい方が面白いって常に考えてたのね。

YANAGIHARA:つまり自分を追い込んでいたんだよね。

──あぁ、追い込む。緊迫感はそういうとこから。

MIZUSAWA:うん。昔はライブやるたびに追い込め追い込めって思ってたから。自分のライブの基準がそれで。いかに自分を追い込んでライブをやるかっていうのが最重要でさ。人の感情を動かすっていうのはそう簡単なことじゃないからね、ましてや音だけで。そのためには自分で自分の感情をいかに動かすか。ハイになるためにどこまで追い込んでいくか。感情の振幅が大きくなってハイになって、それが観客に伝わっていく。そういうつもりでやってた。でもある時、ある時っていうか、だんだんとかな。フラットなとこから始めてもいいんじゃないかって気づいた。ローになることはある意味やり尽くしたからね(笑)。みんなそうだと思うけど、歳をとっていくと、過去を全部背負って今の自分がいるわけじゃん。だからフラットなとこからスタートしても、自分の過去であったり人生であったりヘヴィな部分であったりは、全部既にあるものだから。だから敢えてマイナスからスタートなんかしなくてもいいんじゃないかなって。

──確かに経験の浅い若い頃は、自分の感情の振幅を広げるには想像するしかなかったのかもね。今はもっと自然体でできる。

MIZUSAWA:そうそう。自分を追い込まなくても、既に自分の中に持ってるものだからね。

40年を凝縮させて放つことができた最新作『Fragment of Time』

──普段はこんなに喋る人がなぜライブでは喋らなかったのか、そして今はなぜ喋るようになったのか、よくわかりました(笑)。

YANAGIHARA:ナチュラルに挑んでも、曲を始めればちゃんとやれる、ちゃんとハイになれるっていうふうに変わってきた。MCでいくら喋っても、曲を始めたら空気を変えられるって自信がついたんじゃない? おっさんになって(笑)。で、その経験を、どう音で出すかっていう。

──もちろんそういうことは音にも反映されて。

MIZUSAWA:昔は自分の内側に向かっていくような意識で音を出してたけど、インに籠る必然性がこの歳になってくるとなくなってくるので。今はこう、アウトプットを重要視してるかな。音源で言うと『Ⅲ』まではインな方向で…。昔は自分の内側を突き詰めようとしてたし、内側に向かってた。今は凄く外側に向けた音楽をやってる。

YANAGIHARA:メンタル的なことだけじゃなく、実際今回はレコーディングも楽しくて。レコーディングしてくれた人、エンジニアの三木君は前作もやってくれたってこともあって、凄くコミュニケーションとりやすくて。こっちのアイディアをちゃんと嚙み砕いて具現化してくれて、凄く楽しく上手くいった。そういうのは音に出てると思うし。

MIZUSAWA:レーベル(HELLO FROM THE GUTTER)の松田さんも前作から引き続きリリースしてくれて、感謝しかないよね。

──曲の内容の視線も変わってきたよね。以前の歌詞は外から自分に向かっていた。俺はどうするんだ? って自分自身に問いかけるようにね。今回は自分自身が社会や世界に問いかけてるような。どうするんだ? この社会! って感じがする。

MIZUSAWA:あぁ、なるほど。そうだね。やっぱり怒りはあるよね。昔は自分に返ってくるような歌詞だったけど、今は外に対して疑問とか怒りとか、そういう気持ちのほうが確かに強い。生きてて楽しいことなんか日常では少ないじゃん。頭にくることが多い。原発は何も解決してないのに続けようとしてる。ウクライナ、ガザ、本当に酷い状況。岸田政権で俺たちの暮らしはどんどん苦しくなってる。疑問がないほうがおかしいよね。

──疑問こそパンクロックの大きなテーマかもしれないしね。

YANAGIHARA:おぉ、そうだね。

──だからこそアグレッシブなアルバムになったんだ。

MIZUSAWA:疑問とか怒りであってもネガティブの方向には行ってないと思う。アッパーなものを作りたかったし、アッパーなアルバムになったと思う。

──1曲目「Think」からガツンと。3曲目「Luck」のギターなんか凄い。どの曲もダイナミックでアッパー。ヒリヒリしつつ堂々としてる。

MIZUSAWA:今回はニューウェイヴだったりオルタナティブだったり、外に向かうジャンクだったり。ちょっとそっちを意識して。

──5曲目「Sway」はポストパンク的な。

MIZUSAWA:そうだね。ちょっとポップで。

──曲によってキーボードが入ってる?

SHINOHARA:それ、俺です。CDはライブとは違うからね。やれることやってみようと。

──でもやっぱり3人で。

MIZUSAWA:3人でやりたいってのは常に思ってる。例えばギターもう一人入れたりさ、他の楽器、サックスとか入れたりさ。そしたらバリエーションは広がるだろうし、楽だろうけど。でもそれを3人でやりたい。ゲストでギターを入れて2本のギターでやるより、ギターとベースの絡みで作ってみようって思うし、サックスを入れるより、サックスの音を俺らの演奏で出そうって思う。ゲスト入れて4人でやることを3人でやるほうが凄いと思わない? 俺たちの発想は広がっていくはずだし、だから音も広がっていくよね。うちらにとって新しいことは、3人だからこその音なんだよ。

SHINOHARA:それで聴いた人が今までにない感覚を持ってくれればいいなって思う。今までこんな音楽聴いたことない、こんな気持ちになったことないっていう。

──それをずっと探していくのがスピアメンなんでしょうね。

MIZUSAWA:個人としてもそうだけど、バンドとしてもさ、40年もやってればそりゃいろいろあって。曲作りだったり自分のプレイに対してだったり、RYUTAとSHINOちゃんは脱退した時期もあってさ。3人ともそれなりに苦しんだりしてきたのよ。でもその先に今があって、今回の『Fragment Of Time』がある。今でも曲作りとか自分のプレイとか、やっぱり苦しんでる。いまだに苦しんでるよ。でも苦しんでいいのよ。新しいとこに行きたくて苦しんでるんだから。その時間の積み重ねの40年で、その先に行けるって知った40年っていうね。だって今までが凝縮されて放つことができたのが、今回の『Fragment Of Time』だからね。まだ苦しむんだろうけど、その先がまだまだあるからね。

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