ガザ中南部で続く激しい攻撃で医療に深刻な影響——ガザに安全な場所はない

紛争が激化して2カ月あまり。イスラエル軍によるパレスチナ・ガザ地区に対する容赦のない無差別攻撃は、ガザ北部をがれきの山に変え、今度は中部と南部をますます激しく破壊している。ガザに閉じ込められたパレスチナ人の苦しみは、言葉では言い表せない。

患者のベッドが廊下にもあふれるガザのアル・アクサ病院=11月29日 © Mohammed ABED

ガザに住む220万人のほぼ全員が南部に追い詰められ、南部を「安全地帯」と言ったはずのイスラエル軍の攻撃が続く。これは、ガザに安全な場所はどこにもないことを改めて証明している。パレスチナ保健省によれば、ガザでの死者数は2万人を超え、5万人以上が負傷しており、いまも続く攻撃によって何百人、何千人という新たな死傷者が毎日、出ている。

遺体の脇で治療する厳しい現実

国境なき医師団(MSF)が活動するガザ南部ハンユニスのナセル病院では、12月1日に一時休戦が終わってからほぼ毎日、死傷者が続々と運び込まれている。世界保健機関(WHO)によると、ガザ北部の医療システムは崩壊し、現在も一部機能している病院は1つだけだという。負傷の深刻さと患者の多さによって、ガザの医療システムは北部に続き、南部でも限界に達している。

「ナセル病院の救急部門はいっぱいで、新しい患者が床で治療を受けています。医師たちは亡くなった子どもたちの遺体の脇で、生死の境にある子どもたちの治療にあたっています」と、MSFのガザにおける医療チームリーダー、クリス・フックは言う。

「仮設の建物がどんどん建てられ、テントが病棟や診療室として使われています。空いている建物はすべて、患者のためのベッドで埋め尽くされています。もっと多くの病床が、今すぐ必要です」

ただでさえ困難な治療がガザでは更に難しく

紛争で傷ついた人びとの治療は複雑だ。爆発や建物の倒壊によって、身体のあちこちに複数の傷を同時に負うからだ。ガザでは、イスラエルの完全な包囲により、外科手術に不可欠な鎮痛剤を含む必要不可欠な医薬品や、骨が砕けてやけどを負った身体を治療するのに必要な医療器具を手に入れることができない。

「幸運にも生き残った人びとは、その後の人生が変ってしまうような大きな怪我をしています。多くの負傷者は極度のやけどを負い、大きな骨折はうまく治らず、切断を余儀なくされることもあります」とフックは言う。

「このような患者の多くは、たとえ普通の生活に戻ることができたとしても、重度の慢性疼痛を抱え、かなりの疼痛管理が必要になります。最も機能的な医療システムがある場所でも治療は大変で、大きな負担となります。ましてや、ガザのように強いプレッシャーにさらされている場所では……」

ナセル病院の周辺に並ぶ、避難してきた人びとの仮設テント=11月24日 © Mohammed ABED

病院に着いた時点で亡くなっている人が負傷者数を上回る惨状

ガザ中央部にあるアル・アクサ病院では、MSFのチームが緊急手術と外来診療を行っている。12月1日から11日にかけて、患者の約3人に1人(2058人中640人)が到着時に死亡を宣告された。12月6日には、アル・アクサ病院に亡くなった状態で到着した人の数が負傷者の数を上回った。

病院スタッフは、必需物資や設備の不足に直面しながらも、効果的な衛生プロトコルを維持し、患者の感染リスクを下げようと努力している。感染症が急増すれば、患者にとっても疲弊した医療従事者にとっても、たちまち新たな医療上の課題になりかねないため、これは極めて困難で、かつ重要なことでもある。

南部でも北部と同じ徹底的な破壊が

ガザ南部でいま起きていることは、イスラエル軍がガザ北部で行ったやり方と同じだ。 人びとに安全な場所を与えない焦土作戦。 絶え間ない攻撃。 住宅地全体への度重なる避難要求。 そしてガザ地区全体の完全な封鎖により、人びとが医療を受けることも、医療スタッフが医療を提供することも、極めて困難になっている。 MSFは12月1日から、南部の3つの診療所への支援を停止し、ナセル病院での活動も縮小せざるを得なくなった。 病人や負傷者が緊急に必要とする治療を受けられるようにするためには、人びとの避難生活を終わらせることが不可欠だ。

医療システムが限界に達し、感染症がピークに

ガザの市民が暴力的な攻撃にさらされ続ける一方、傷の手当てが十分にできないために起こる感染症が急速に増加し、人命が危険にさらされている。

「感染症のリスクは恐ろしいほど高いのです。人びとが暮らさなければならない環境や、患者に必要な長期的な院内ケアを提供する能力がないためです」とフックは言う。

ハンユニスのヨーロッパ病院ではMSFのチームが最近、今回の紛争の初期に負傷し、医療が行き届かないために傷が感染を起こしてしまった患者の治療を始めた。

MSFが支援するアル・シャボウラ・クリニックを含め、南部で運営を続ける一次医療施設は数えるほどしかない。これにより呼吸器感染症、下痢、水ぼうそう、シラミ、疥癬などの感染症に対応できる医療資源がほとんどない状態となり、過密な避難所で制御不能なほど蔓延。避難生活を余儀なくされる人びとのリスクに拍車をかけている。

ナセル病院の手術室で続く治療=11月24日 © Mohammed ABED

ひどい生活環境と広がる飢え

避難所では、すでに絶望的な状況で生活している多くの人びとに新たな避難者が加わり続けているため、今すぐ新たな避難所が必要となっている。「ハンユニスの南やラファ近郊の通りを通ると、仮設シェルターがどんどん拡大しているのがわかる。

土やコンクリートの地面からの断熱材もなく、何本かの木材を組み合わせてビニールシートで覆った仮設の小屋で人びとが暮らしている。衛生上必要な水を確保するのにも苦労している。薄っぺらな小屋が、強風と大雨に襲われてバタバタと揺らいでいる。

次々と人びとが南部に到着しているため、食料を手に入れることは難しくなっており、わずかに手に入る食料も、高すぎて買うことができない。

慢性疾患の患者はどこへ

11月の7日間の一時休戦中、ナセル病院は重傷患者の受け入れから一時的に解放された。

代わりに、戦闘中に必要な医療を受けられなかった糖尿病をはじめとする慢性疾患の患者であふれた。12月1日に攻撃が再開されると、状況は再び変わった。病院に、さらに大量の負傷者が同時に運び込まれるようになり、慢性疾患の対応ができなくなった。慢性疾患の患者がどうなったのか、どのように生き延びることができるのか、分からない状態だ。

12月17日にはナセル病院の産科病棟が攻撃を受けた。患者1人が死亡し、他の患者も負傷した。

医療への攻撃を、今すぐ止めなければならない。

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