「どうしてお金持ちは寄付をするの?」認定ファンドレイザーに聞いてみました

寄付文化が根づいていないと言われる日本。

2022年に発表された「世界人助け指数」を国ごとに調べた「World Giving Index」では、日本は119カ国中118位と世界ワースト2位という結果に。これは、過去一ヶ月の間に「寄付をしたか?」「ボランティア活動をしたか?」「見知らぬ人を助けたか?」などの質問に対する回答から導き出された順位です。「慈善団体に寄付をした」という項目だけでも119カ国中103位でした。

最近では国立科学博物館のクラウドファンディングが5万6000人あまりからおよそ9億2000万円を集め、国内最高額に達したことなどが話題になりましたが、日本ではまだまだ寄付に馴染みのない方も多いかもしれません。

寄付を受け取る「NPO法人」という立場から、日頃、多くの寄付者と話す機会のある認定ファンドレイザーの太田智子(認定NPO法人フローレンス)に、なぜお金持ちは寄付をするのか、寄付者さんが感じている寄付のメリットなどについて聞いてみました。


──早速ですが「ファンドレイザー」とはなんですか?聞き慣れない言葉です。

「ファンドレイザー」は、NPOの活動に必要な資金調達(ファンドレイジング)を行なう人のことです。社会課題を解決するために活動するNPOや社会起業家と、社会貢献に関心のある人々をつなぎ、資金を必要とするプロジェクトや組織が持つ価値を広く伝えることで、資金調達活動を行なっています。日本ではあまり知られていませんが、アメリカでは人気職業ランキングに入るほどなんですよ。

その中でも、「認定ファンドレイザー」は、ファンドレイジングの基本的な要素をおさえるとともに、3年以上の有償実務経験も踏まえて、包括的なファンドレイジング力が認められて得られる日本ファンドレイジング協会の資格です。

──ファンドレイザーは、社会課題解決に向けた活動に必要な資金を集める仕事なんですね。日本では寄付は広がっていないのでしょうか。

日本ファンドレイジング協会がまとめた「寄付白書2021」によると、2011年の東日本大震災が起きた年に、日本の人口の7割弱の7000万人以上が寄付を行ない、個人寄付総額が1兆円を超えたことがあったのですが、2012年、2014年、2016年は寄付者数4000万人台、個人寄付総額も6000~7000億円台にとどまっていました。しかし、2020年になると、寄付者数は4352万人なのですが、個人寄付総額が1兆2126億円に大きく伸びています。実はこのうち、6725億円がふるさと納税です。ふるさと納税を通じた寄付が、個人寄付総額の増加に大きく影響したことがわかります。

──ふるさと納税は「納税」という名前がついていますけど「寄付」なんですね。

そう、ふるさと納税も「寄付」なんですよ。ふるさと納税を通じた寄付は行なったことがある人も多いのではないでしょうか。

──日本の寄付市場も拡大しているということなのでしょうか。

確かに、日本ではふるさと納税によって大きく個人寄付が増加していますが、海外に目を向けると、例えばアメリカは2020年に個人寄付総額34兆5948億円、名目GDP比1.55%もあります。日本の2020年の個人寄付総額1兆2126億円は、名目GDP比0.23%。それと比べると寄付大国と言われるアメリカの寄付市場のスケールの大きさがよく分かると思います。

──個人寄付だけでもそんなに差があるのですね。そう考えると日本はまだまだ寄付市場の伸びしろがありそうです。

投資家、起業家が寄付をする理由

──日頃からフローレンスのファンドレイザーとして多くの寄付者と面談などでコミュニケーションを取られていますが、その中には資産家や企業経営者など、お金持ちの方々もいらっしゃいますよね。そんな方々はどうして寄付をするのでしょうか?

寄付者の皆さんにも色々な方がいらっしゃるので、一概にこうだと言えるわけではありませんが、例えば動かせるお金が大きい方として、とある投資家の方は「寄付も投資である」とおっしゃっていました。社会課題の解決にはビジネスを通じて解消する営利のアプローチと、非営利のアプローチが有効な分野があります。投資家としては、世の中の社会課題を理解することがお仕事にも繋がるそうで、寄付で非営利アプローチに関わることで、社会課題についてより深く学ぶことができるのだとおっしゃっていました。「社会課題解決のために営利アプローチが必要ならファンドなどを通じて投資をし、非営利アプローチが有効なら寄付をする。どちらが課題解決のためにスマートなのかという違いでしかない」というお話でした。

また、別の方も似たお話をされていました。その方は起業家で、課題を見つけるとどうやったら本質的にそれを解消できるかを考えるのがお好きなんだそうです。自分がリーダーシップを取って解決できる場合は事業を作ることで解決を目指すが、自分だけでできない場合は、その大きな課題を解決しようとしているリーダーとなる人や団体に寄付をすることで、課題の解消を目指している。課題解決を実行するリーダーは極めて貴重な社会資源と捉え、その活動を寄付でサポートすることが、自分が課題を解消する一つのアプローチだと考えているそうです。

──ビジネス領域で扱えない非営利分野の社会課題の解決を、寄付をすることで実現させようとしているのですね。社会課題に対する理解を深められるというのは、さすが投資家や起業家の視点です。たしかに、寄付というのは環境問題やこども支援、災害支援など、支援者から対価が得られないため、ビジネスでは扱いづらく、非営利分野としての社会課題解決を目指して行なわれることが多いですね。

そうですね、NPOもそういう分野で活動されている団体が多いので、経済界で活躍されている方々が寄付の形でご支援くださることは本当に心強いです。寄付は個人に直接的なリターンはないのですが、「社会が変わる」ことがリターンになるんですよね。そういう意味で投資に近い感覚で寄付を考えていただいているのかなと思います。

意見表明としての寄付、自分のための寄付

──投資家や起業家など、社会課題に対して事業を作り解決することをお仕事にしているスケールの大きな方々の発想という感じです。寄付や投資の形で社会を変えていくことに積極的に参画できるのが醍醐味なのかもしれないですね。

そうですね。社会に対するアプローチ、という意味では、寄付は税金の使い道に対する「小さな反逆」なんだ!と仰る方もいました。

──小さな反逆!?攻めた表現が出てきました。

面白い表現ですよね。その方が言うには、普通に働いて税金を納めたらその税金の使い道は政府や行政にゆだねることになりますが、例えばその一部をふるさと納税による寄付に使うことで、税金の使い道に対する意見表明にもなりうる。「ここにお金を使ってくださいよ!」というメッセージになるんだと仰っていました。

また、これと似たようなイメージかもしれませんが、寄付は「投票」という意味があるよね、というお話をしてくださった方もいました。自分の関心のある分野に向けて寄付をすることで「こういう世界を支持する」という表明になると。金額の大きさに関係なく、100万円寄付する人も100円寄付する人も、大事な「一票」を投じていると考えていると仰っていました。

──意見表明としての寄付という考え方も面白いですね。やはり、寄付をされる方は、社会全体のことを考えている意識の高い方が多いのでしょうか。

そういう方も多いかもしれませんが、もっと個人的な理由を挙げる方もいらっしゃいますよ。

例えば、継続的にフローレンスに寄付をしてくださっている方は、こんな風に寄付する理由をお話してくださいました。

その方は、ピーター・ドラッカーの『プロフェッショナルの条件 いかに成果をあげ、成長するか』(2000年 ダイヤモンド社刊)を読んで影響を受けたそうなんですが、そこにはプロフェッショナルの心得として、自分は何によって人に憶えられたいのか、自分の死後どういう形で他の人の記憶に残りたいか、それを考えて人生や仕事の目的を設定することが大切だ、と書いてあるそうなんです。そこから、「人にプラスの影響を与えて生きよう」と思うようになったことが、寄付をする大きなきっかけになったそうです。

また、別の寄付者の方は「寄付は合理的なお金の使い道なんだ」と仰っていました。

その方は、例えば服やアクセサリーなどを購入して自分の物欲を満たすことも大切だが、それと同様に、たまには自分の中にある貢献欲も満たすことが必要だ、と考えているそうです。物欲はわかりやすいので満たそうとする人が多いが、実は人間には「貢献欲」もあって、それを満たすことが幸福感に繋がると。寄付をして、自分は社会の役に立っている、他者に貢献できていると思ったときに、自分は幸福感を得られる上に、寄付された側のつらい状況も少しは取り除くことができる。こんな最高のお金の使い道はないよ、と仰っていました。

寄付と幸福度との関係

──寄付をして人にプラスの影響を与えている、社会に貢献していると感じることが自分の幸福度も向上させるんですね。「貢献欲を満たす」という観点はあまり考えたことがなかったかも。
実は他の人のためにお金を使う行為が幸福度に繋がるという話はエビデンスもあるんですよ。贈与や寄付などの行動が幸福度に与える影響の因果関係を調べたブリティッシュ・コロンビア大学とハーバード大学の研究です。
この実験では、参加者に朝、5ドルもしくは20ドルを与え、午後5時までに使うように指示しました。5ドルグループと20ドルグループはそれぞれさらに2つに分けられ、一つのグループは自分のために、もう一方はほかの人のために使うように指示されました。すると、5ドルもらったグループも20ドルもらったグループも、ほかの人のためにお金を使ったほうが、幸福度が有意に上昇したそうです。

5ドルか20ドルかという金額の違いは、幸福度の上昇に有意な影響を与えなかった。金額の大小にかかわらず、人のために使った方が幸福感を得られるという結果になったのです。
──面白い研究結果ですね。寄付という行為は人のためにお金を使っているように見えて、本当は自分の幸福感に繋がっているんですね。
そうなんですよ。だから「なぜ寄付をするのか?」という問いにはいろんな答えがあると思いますが、そのひとつとしては、ある一定の収入以上になると幸福感は頭打ちになるという研究もありますし、身の回りで必要なものも揃っている中で、もっと自分が幸せになるため、自分の人生を豊かにするためのお金の使い方として「寄付」を選択しているのかなと思います。

そう考えると、皆さんお馴染みの「ふるさと納税」も寄付なんですが、返礼品で何がお得にもらえるか、といったような自分のための軸で選ぶのではなく、その寄付金がどんな人のためになるか、どんな社会の実現に貢献できるか、ということをイメージして選べると、さらに有効なふるさと納税ができるのではないでしょうか。
例えば、私の所属しているフローレンスは、こども・子育て領域の社会課題を解決するために活動しているのですが、東京都渋谷区のふるさと納税の仕組みを使って、2023年12月末まで「こどもの体験格差解消プラットフォーム」構築にむけたふるさと納税型クラウドファンディングを行なっています。一般の方々や企業からふるさと納税を通じて寄付を募り、「こどもの体験格差」という社会課題を解消しようというプロジェクトです。

フローレンスは、経済的に厳しいご家庭や医療的ケア児・障害児家庭の支援を行なっているのですが、そうしたご家庭から、家族で映画を見に行ったり、外食に行ったり、といった普通のご家庭でできている体験の機会がないという声が多く寄せられています。いくつかの調査で、こども時代の体験の格差が、学力の格差や貧困の連鎖に繋がる可能性があるという指摘もあり、新たな社会課題として注目されているのが「こどもの体験格差」です。この社会課題解決のためにフローレンスを支援しようと、ふるさと納税の寄付先として選んでもらえたら嬉しいです。ふるさと納税なので、実質自己負担額2000円で寄付ができます(控除が受けられる金額には上限があります)。

──確かに、ふるさと納税は寄付の第一歩として良い手段かもしれないですね。

寄付を始めてみようと思ったら

──ふるさと納税以外の形で、寄付を始めようと思った方が気をつけることやポイントはありますか?

12月は寄付月間ですし、多くの団体が寄付を募集していると思います。寄付先を選ぶ際のポイントとしては、もしNPO法人に寄付をするなら、「認定」がついているNPO法人から選んでみるのはいかがでしょうか。

認定・特例認定NPO法人というのは、運営組織、事業活動が適正で、公益の増進に寄与する団体として一定の要件を満たし、国の所轄庁や都道府県、市区町村などから認定を受けたNPO法人のことです。認定されるには実態確認などを経て、一定の基準を満たしていると認められる必要がありますので、公的なお墨付きを得ている団体ということができると思います。

さらに、認定・特例認定NPO法人に対して寄付をすると、個人の方の場合、寄付額が2,000円以上であれば、確定申告を行なうことで寄付金控除が受けられます。所得控除または税額控除のいずれかが選択適用できます。また、お住まいの都道府県または市区町村が条例で指定した認定NPO法人等に寄付した場合は、個人住民税(地方税)に寄付金税額控除が適用されます。税制優遇も受けられるということですね。

そうした認定NPO法人の中から、ご自身が関心のある分野で活動されている団体を選んでみると良いのではないかと思います。ちなみに、私が所属しているフローレンスも「認定NPO法人」です。

──金額としては、初心者はどのくらいから寄付をはじめてみるといいでしょうか。

それぞれの収入に応じて無理のない範囲で寄付をするのがいいと思いますが、例えば収入の1%を毎月寄付してみるというのはいかがでしょうか。よくファイナンシャルプランナーさんは、手取りのうち何割を貯蓄に、何割を自己投資に、といった形で全てを消費で使い切らないようにしましょう、とアドバイスされると思うのですが、そこに1%の寄付という使い道を一つ組み込んでしまう考え方です。手取り20万円の方だったら毎月2000円くらいです。

多くの団体では、寄付者の皆さんに対して定期的に活動報告を行ない、皆さんから寄せられた寄付を使ってどんな事業ができたかという情報を発信しています。 そうした活動報告などの情報から、信用できる団体だと思えば、もっと寄付を継続したり増額を検討したりしてもいいかもしれません。もちろん途中で寄付先を変えても大丈夫ですので、気軽に始めてみていただけたらと思います。今は銀行振込以外にも、クレジットカードやオンライン決済システムなど寄付の手段も増えています。

寄付者の皆さんのお話を聞いていると、社会との繋がりが希薄になっていると言われる現代に、寄付を通じてそれぞれの方が社会とのつながりを感じられているのだなと実感します。社会貢献にもなり、自身の幸福感も得られる「寄付」というお金の使い道の素晴らしさがもっと広まってほしいなと思っています。

太田 智子(おおた・ともこ)

認定NPO法人フローレンス

みんなで社会変革事業部 寄付チーム

フローレンスのファンドレイザーとして法人寄付・個人寄付営業を担当、チームのサブマネージャーも務める。

新卒で大手印刷会社にてマーケティングに従事。その後、転職支援業界でキャリアアドバイザーを経験。2009年に第一子を妊娠し、リーマンショックの影響で退職し、専業主婦に。出産後、NPO法人でのボランティアからスタッフとして再就職。2020年、フローレンスに業務委託として参画、2021年より正社員として寄付営業・チーム管理に携わっている。

<認定NPO法人フローレンスについて>

こどもたちのために、日本を変える。フローレンスは未来を担うこどもたちを社会で育むために、事業開発、政策提言、文化創造の3つの軸で社会課題の解決や価値創造の構造に働きかけ、たくさんの仲間と共に「新しいあたりまえ」をつくる、国内有数の認定NPO法人です。

日本初の訪問型・共済型病児保育事業団体として2004年に設立され、待機児童問題解決のための「おうち保育園」モデルが、2015年度に「小規模認可保育所」として国策化されたほか、障害児に専門的に長時間保育を提供する日本初の「障害児保育事業」や、こどもの虐待問題解決のため「赤ちゃん縁組事業」、こどもの貧困を解決する「こども宅食事業」などの取り組みを加速しています。

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