認知症新薬 青森県内医療施設での使用、当面限定的か 検査体制や人員に課題「関係機関の連携不可欠」

 アルツハイマー認知症の新薬「レカネマブ(商品名レケンビ)」が保険適用となり20日、発売されたことを受け、青森県内の医療関係者や患者団体は「認知症治療が大きく前進する」と期待を寄せる。ただ、青森県では検査施設の少なさや専門医不足の現状から現段階で投与できる医療施設は限定的とみられている。専門家は「本県の課題を克服するため、関係機関同士の連携が必要」と指摘する。

 レカネマブは患者の脳内に蓄積し神経細胞を傷つけるとみられるタンパク質「アミロイドベータ」に結合し除去する抗体薬。2週間に1回、点滴で投与する。

 使用する要件として、陽電子放射断層撮影(PET)と呼ばれる特殊な装置か、脳脊髄液検査でアミロイドベータの蓄積を確認する必要がある。投与後もMRIで定期的に検査を行う。

 八戸市の精神科病院・青南病院の深澤隆院長は「PET施設は八戸地域になく、近隣では市立三沢病院か岩手医科大にある。津軽地域では弘前大や県立中央病院などで検査を行わなければならない」と医療施設不足を指摘する。

 脳神経内科や精神科、老年医学などの専門医が複数いることが治療実施の要件となっているが、深澤院長は「専門医の配置が要件だとすれば、本県は人員が少ない。地域差や医療機関格差が出ないように各医療圏内で精神科、脳神経内科、放射線科などとの連携が必要」とし、「八戸地域では厚生労働省が公表したガイドラインに従い、チーム体制を構築し、診療報酬が改定される6月ごろまでには診療体制を整備したい」と語る。

 三沢病院の遠藤恵介事務局長は「レカネマブ使用に向けた認知症判定にPETを活用することを検討中だが、病状を判定できる医師がいないなど人員の課題がある」と話す。

 弘大医学部付属病院脳神経内科の冨山誠彦教授によると、弘大病院では、レカネマブの投与開始可能時期は早くて来年1月下旬以降。約1カ月間は認知機能や脳脊髄液の検査などの準備が必要という。PET検査を実施する場合、投与は2024年度からとなる。

 冨山教授は診断施設や専門医が限られていることを受け、弘前圏域で市医師会と協力し、関係機関のネットワーク構築へ動き出きだしている現状を説明。「地域の認知症患者への支援が絶え間なく実践できるようしっかり取り組み続けることが重要」と語る。

 レカネマブの効果については「アミロイドベータを除去し、認知機能検査の数値の悪化を27%抑制するという点では画期的な薬」と説明する。ただ「対象は軽度アルツハイマー病に限られること、根本的に治すものではなく症状が改善する薬でないことを踏まえておく必要がある。副作用とみられる脳のむくみや出血の恐れもある」と、慎重な診断と診療が不可欠との見方を示す。

 認知症の人と家族の会県支部の石戸育子世話人代表(八戸市)は「患者も家族も新薬に期待している。ただ、どこの病院で治療を受けられるかなどの情報が必要。過度な期待を少なくするためにも対象となる軽度認知障害(MCI)と初期認知症についての詳細な情報提供が求められる」と話し、「県内で治療医療機関が少ないのであれば、連携はぜひ進めてほしい」と述べた。

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レカネマブ エーザイなどが開発したアルツハイマー病治療薬。記憶障害などの症状が出る10~20年以上前から脳に蓄積し、神経細胞を傷つけるきっかけになると考えられているタンパク質「アミロイドベータ」に結合、これを目印に免疫細胞が除去する。従来の薬は残った神経の働きを助けるもので、一時的に改善した後、悪化する。これに対し、レカネマブは悪化の速度を緩める働きを示した。既に失った神経は再生できないため、効果が見込めるのは早期の患者に限られる。公定価格「薬価」は、患者1人(体重50キロの場合)当たりの治療で年約298万円。

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