王者・中嶋勝彦に宮原健斗が挑む大晦日の三冠戦は遺恨勃発 大爆発必至

【柴田惣一のプロレス現在過去未来】

全日本プロレスの「最高」盛り上げ隊長・宮原健斗は今年の漢字を問われ「嫌」を選んだ。大晦日の大一番(東京・国立代々木競技場第二体育館)で挑む三冠王者・中嶋勝彦を指しているのは言うまでもない。

「言葉にするのも嫌」と告白。どんな対戦相手もけなしているようでいてリスペクトしてきたのに、中嶋だけはどうにも我慢ならないようだ。

ノアを離脱して全日本プロレスを新たな戦場に定めた中嶋に嫌悪感を隠さないが、たった1か月半で、三冠王座を獲得し、世界最強タッグリーグ戦の制覇と全日本制圧をされてはたまらない。

中嶋への反発はもはや宮原個人にとどまらない。全日本を愛してきたファンはもちろん選手、スタッフもその胸中に憤怒の炎が燃え盛っていなければウソである。

しかも、中嶋は真っ赤な闘魂マフラーを首に巻いている。「闘魂スタイル」と口にするだけでなく、出で立ちにも取り入れた。しかも、ストロングスタイル12・7東京・後楽園ホール大会を観戦するなど、かつて猪木さんの参謀だった「昭和の過激な仕掛け人」新間寿氏と会談を重ねている。これには仰天した。

中嶋の「闘魂スタイル」は、ハッタリではなかったのだ。猪木さんの魂のこもった闘魂マフラーの後継者としてお墨付きをもらったと言っても過言ではない。

大晦日には「アリ・ボンバイエ」で入場し、新間氏がセコンドにつくという。馬場さんの「王道」を旗印にする全日本プロレスへのこれ以上ない神経逆なでの挑発だ。

宮原は「プロレス中継70年史 THE日テレプロレス」(24年2月9日、後楽園ホール)の盛り上げ隊長を買って出ている。日テレといえば、馬場さんであり、全日本プロレスである。「全日新時代」をアピールし先頭に立っているとはいえ「猪木・闘魂」ではなく「馬場・王道」を大切にしているはず。

「宮原健斗と中嶋勝彦は水と油。彼の思考は理解しにくいし、理解しようとは思わない」と記す宮原。健介オフィスに入門したときから、先輩だった中嶋とは合わなかったことも公言している。

中嶋は長州力のWJから2004年には、健介オフィスに所属。宮原は07年に健介オフィスに入門する。その後、中嶋はノア、宮原は全日本プロレスを主戦場とし所属となった。この10年はほとんど絡むことはなかったが、23年になって急展開。二人の運命の糸が絡み合う、いや、こんがらがる事態となった。

どうにも気が合わない人は、誰にも一人や二人はいるだろう。宮原にとっては中嶋がその人なのだ。「とにかく口にしたくない」と吐き捨てる。

溜まりに貯めた憤激を大晦日に中嶋にぶつける。宮原の覚悟が伝わってくる。

果たして試合が成立するのか。壮絶な喧嘩マッチになり、場外乱闘にもつれ込み、PWFルールは場外10カウントと短いので両者リングアウトになってしまうのではないかという懸念もある。噛み合わなければ、ブーイングを呼ぶような凡戦になってしまうかも知れない。

だが、基本的には同じ根っこを持つ2人。手が合わないということはないだろう。激しい試合になる期待値の方が大きい。

「遺恨勃発、因縁の対決」…往年の昭和のプロレスが盛り上がった要素だ。中嶋の闘魂スタイルに賛否はあるものの、猪木さんテイストから「新日本(中嶋・新間連合軍)vs全日本(宮原)」という対立構造だという見方もある。

「面白いじゃないか、盛り上がる!」と歓迎するファン、「考えられない」と憤慨するファン。良い事も悪い事も「とにかく何でも話題になるのは良い」とする猪木さんの考えを実践しているあたりは、さすが過激な仕掛け人がブレーンについているだけのことはある。

「いつの時代だよ? 今は令和だぞ」と真っ向から反発する宮原は、挑戦者なのに防戦に回っているようで、今後の巻き返しが待たれる。

淡々としたきれいなプロレスではなくゴツゴツした魂のぶつかり合いを好むファンも多い。お互いの感情をうまく試合に反映させられれば、マット史に残る名勝負になる。

まして宮原のホームリング・全日本プロレスのリングでの闘いだ。絶対に負ける訳には行かない。

「嫌い」をどこまで昇華させられるか。除夜の鐘が鳴る前に108つの煩悩をさらけ出し、寒さも吹き飛ぶような熱闘を見せてほしい。

<写真提供:伊藤ミチタカ氏>

▼柴田惣一のプロレス現在過去未来(バックナンバー)

© 株式会社リアルクロス