宇都宮の元教員古橋さん、歌会始に入選 若人の健全成長願い詠む 最年長、9回目で快挙

一般入選者に選ばれた古橋さん。日々ノートに歌を書き留め、新聞に掲載された歌はファイルにとじている=宇都宮市

 来年1月19日に皇居・宮殿で開かれる新春恒例の「歌会始の儀」で、自作の歌が読み上げられる一般入選者に宇都宮市、元教員古橋正好(ふるはしまさよし)さん(88)が選ばれた。歌の題は「和」。国内外の1万5270首の選考対象から選ばれた10人の1人で、古橋さんは最年長だ。教員時代の体験を基に、伝統の継承と子どもたちの健やかな成長を願う歌を詠んだ。今回が9回目の応募で、「短歌の神様が選んでくれたのかもしれない」と喜ぶ。

 高校生の頃から短歌が好きだった。しかし教員の仕事などに追われ、本格的に歌を詠み始めたのは80歳の頃。日々の生活や自然、自分の生きざまなどをテーマに、自己流で楽しんでいる。7年前から下野新聞の「しもつけ文芸」に月3回投稿し、約180首が掲載された。「載ることが一つの励み」と腕を磨いている。

 古橋さんは宇都宮市出身。宇都宮高、宇都宮大を卒業後、旧河内町(現宇都宮市)の小中学校などで教壇に立った。退職後は旧上河内町の教育長を約10年間務めた。

 歌会始の儀に応募した歌は、教員時代の実体験に着想を得た。「今は変化の激しい時代。子どもたちが日本の古きよき伝統を大切にしながら、健やかに育つように」と願いを込めた。これまでに8回落選。「年齢に関係なく挑戦し続けることが大切」と、9回目の応募で花を咲かせた。

 「この喜びを亡き両親に伝えたい」と古橋さん。特に、高校3年の春に他界した母シズさんへの思いは強い。高校時代、古橋さんは大学受験を控えながらも母が入院する病院を訪ね、支え続けた。

 大学の合格通知を病床の母にみせると、安心したような喜ぶ表情を浮かべ、約2時間後に息を引き取った。その時、高校の授業で学んだ歌人・斎藤茂吉(さいとうもきち)の歌、「みちのくの母のいのちを一目みん一目みんとぞただにいそげる」の歌が思い出され、心に刻まれた。これを機に短歌に関心を深めた。

 歌会始の儀で、古橋さんは宮殿「松の間」に招かれ、天皇、皇后両陛下や皇族らとともに、自身の歌が詠み上げられる。古橋さんは「参殿できるなんて予期していなかった。本当に光栄」と笑顔を見せ、当日を心待ちにしている。

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