北陸新幹線の敦賀延伸だけじゃない、2024年の鉄道の注目イベントは? 新型車両や新観光列車が続々、東海道新幹線は開業60年「鉄道なにコレ!?」【第55回】

By 大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)

走行試験中の営業用車両「W7系」を迎え、北陸新幹線が延伸する敦賀駅のホームで開かれた歓迎式典=2023年10月、福井県敦賀市

 2024年3月の北陸新幹線金沢―敦賀(福井県敦賀市)間の延伸開業は、鉄道ファン以外も大いに注目している大きなニュースだろう。他にも山形新幹線の新型車両デビューやJR西日本、JR九州の新観光列車の運転開始などが控える。今回は新春特別企画として24年に待ち受けている鉄道の注目イベントをご紹介する。(共同通信=大塚圭一郎)
 
 ※記者が音声でも解説しています。共同通信Podcast『北陸新幹線の敦賀延伸だけじゃない、2024年の鉄道の注目イベントは?』をお聴きください。

 ▽福井県敦賀市まで延びる北陸新幹線、並行在来線はJRから分離
 2024年の鉄道で最大のイベントとなるのは、3月16日の北陸新幹線金沢―敦賀間(125・1キロ)の延伸開業で決まりだろう。運行はJR西日本が担い、途中に小松(石川県小松市)、加賀温泉(同県加賀市)、芦原温泉(福井県あわら市)、福井(福井市)、越前たけふ駅(福井県越前市)が設けられる。越前たけふ駅以外は在来線と接続する。
 北陸新幹線延伸に伴い、並行在来線の北陸線の金沢―敦賀間(130・7キロ) はJR西日本から分離される。
 うち石川県内の金沢―大聖寺(加賀市、46・4キロ)間は石川県と金沢市、白山市などの県内自治体、石川県市町村振興協会、鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)、民間企業が出資する第三セクターの「IRいしかわ鉄道」が引き継ぐ。

福井市内を試験走行する北陸新幹線の営業用車両「W7系」=2023年10月(共同通信社ヘリから)

 IRいしかわ鉄道は倶利伽羅(くりから、石川県津幡町)―金沢間を結んでおり、3月16日以降は倶利伽羅―大聖寺間を運行する。既存区間の石川県白山市の松任駅と加賀笠間駅の間に新駅「西松任駅」を3月16日に開業する。
 主に福井県内の並行在来線となる大聖寺―敦賀間(84・3キロ)は三セクの「ハピラインふくい」に転換する。ハピラインふくいには福井県と福井市、敦賀市といった県内自治体、鉄道・運輸機構、いずれも福井県に事業拠点を構える企業の信越化学工業とセーレン、福井銀行、福井新聞社、福井放送などが出資している。

JR西日本が特急「サンダーバード」に使っている683系=2018年3月12日、大阪市(筆者撮影)

 ▽北大阪急行も「千里中央」から大阪府箕面市へ延伸開業
 3月23日には、北大阪急行電鉄南北線の千里中央(大阪府豊中市)―箕面萱野(同府箕面市)間の2・5キロが延伸開業する。途中には箕面船場阪大前駅(箕面市)を設け、大阪大学外国語学部の箕面キャンパスが近くにある。
 現在は千里中央―江坂(大阪府吹田市)間を結んでいる北大阪急行は江坂―なかもず(堺市)間を走る大阪メトロ御堂筋線と相互直通運転しており、途中で大阪市中央部の梅田、心斎橋、なんば、天王寺などの駅を通る。

山形新幹線の新型車両「E8系」の車体。「紅花イエロー」の鮮やかなラインが特徴=2023年2月、宮城県利府町

 ▽山形新幹線にパープル×イエローの新型車両「E8系」
 JR東日本は「ダイヤ改正」に合わせて3月16日、東北・山形新幹線の新型車両「E8系」の営業運転を始める。
 E8系は7両編成で、東京―福島間のフル規格の区間で営業運転する最高時速を300キロと現行車両「E3系」の275キロから引き上げて東京―山形間の最短所要時間が2時間22分、東京―新庄(山形県新庄市)間が3時間7分とそれぞれ4分短縮する。在来線と線路を併用している福島―新庄間は引き続き最高時速130キロとなる。電源コンセントを全ての座席に設置し、荷物を置くスペースをE3系より大型化し、車いす用の空間を広げる。
 デザインは、車体の上部に山形県の鳥であるオシドリの紫色「おしどりパープル」、側面に県特産のベニバナをイメージした「紅花イエロー」の鮮やかなラインを配したのが特徴。
 JR東日本は「E8系の17編成(計119両)全てが2026年春までに完成する予定だ」と説明しており、代わりに引退するE3系は26年3月のダイヤ改定時までには全て消える見通しだ。

JR九州が新観光列車「かんぱち・いちろく」に改造する3両のうち2両となるキハ47の旧「いさぶろう・しんぺい」=2019年3月24日、熊本県人吉市(筆者撮影)

 ▽九州には新観光列車「かんぱち・いちろく」が登場
 JRグループと自治体などが手がける大型観光企画「福岡・大分デスティネーションキャンペーン(DC)」が2024年4~6月に開かれるのに合わせ、JR九州は久大線経由で博多(福岡市)―別府(大分県別府市)間を結ぶ新たな観光列車「かんぱち・いちろく」の運行を24年春に始める。
 この列車には観光列車「いさぶろう・しんぺい」に使っていたキハ47形2両を転用することは既に判明していたが、中間車にキハ125形を採用することは本連載「鉄道なにコレ!?」の第47回「JR九州新観光列車、『いさぶろう・しんぺい』と組む〝第三の男〟が判明! 関係筋が明かした予想外の正体は…」で最初に報道した。この事実をJR九州が2023年10月26日に正式発表した。
 名称に選ばれた「かんぱち」は、日本酒「八鹿(やつしか)」を手がける八鹿酒造(大分県九重町)の経営者だった故麻生観八(あそう・かんぱち)氏から名付けた。麻生氏は久大線の敷設を求めて鉄道院総裁だった故後藤新平氏らに粘り強く陳情した。
 「いちろく」は旧大分県農工銀行(現みずほ銀行)頭取だった故衞藤一六(えとう・いちろく)氏から命名。久大線を西へ建設する中で湯平(ゆのひら)駅(大分県由布市)を過ぎた地点で線路をカーブさせることを働きかけ、現在の由布市にある南由布(由布市)、北由布(現湯布院、由布市)の両駅の開設に道筋を付けた。

JR九州が新観光列車「かんぱち・いちろく」に改造する3両のうち1両となるキハ125=2019年2月3日、大分県日田市(筆者撮影)

 ▽全てグリーン車以上の観光列車「はなあかり」、上毛電鉄には日比谷線の車両
 JR西日本は、全ての車両をグリーン車以上とする豪華な観光列車「はなあかり」を2024年10月に導入する。途中で播但線を通って大阪―鳥取間を走る特急「はまかぜ」に使っているディーゼル車両「キハ189系」の3両編成を改造し、うち1両は2人用個室を10室設けた「スーペリアグリーン車」、残る2両はグリーン車にする。

上毛電気鉄道の「800系」となる旧東京メトロ日比谷線「03系」。写真は譲渡を受けた長野電鉄の車両(現3000系)=2020年11月22日、長野市(筆者撮影)

 群馬県の私鉄の上毛電気鉄道は、東京メトロ日比谷線で使っていた「03系」を譲り受けて2月下旬に運用を始める。改造後は2両編成となり、形式名は「800形」となる。上毛電鉄が新形式の車両の運用を始めるのは京王電鉄井の頭線「3000系」を改造した「700形」以来、実に四半世紀ぶりだ。03系は車体の全長が18メートルなのが地方鉄道のニーズに合い、これまでにいずれも地方私鉄の長野電鉄、石川県を走る北陸鉄道、熊本電気鉄道にも譲渡されている。

上毛電気鉄道が京王電鉄井の頭線「3000系」を譲り受けた「700形」=2018年1月3日、前橋市(筆者撮影)

 ▽近鉄に24年ぶりの新型通勤用車両、阪急や地方都市の地下鉄にも
 関西大手私鉄の近畿日本鉄道は2000年に「シリーズ21」を導入して以来、24年ぶりの新型通勤用車両を2024年秋に導入する。
 1編成当たり4両で、座席の向きを切り替えて壁に並んだロングシートにも、進行方向に向かって座るクロスシートにも配置できるようにする。省電力化したインバーター制御装置や、発光ダイオード(LED)照明の採用で「消費電力は従来車両比で約45%削減する」(近鉄)。

近畿日本鉄道の「シリーズ21」=2020年2月5日、大阪市(筆者撮影)

 同じく関西大手私鉄の阪急電鉄は京都線で新型特急用車両「2300系」、神戸線・宝塚線で新型通勤用車両「2000系」をそれぞれ2024年夏から運用する。2000系・2300系の形式名はともに2代目。うち2300系の1両には阪急で初めての有料座席指定車両となる「プライベース」を設ける。
 仙台市地下鉄南北線では新型車両「3000系」、福岡市地下鉄の空港線・箱崎線では「4000系」がそれぞれ2024年秋ごろに営業運転を始める。 

JR西日本が公開した特急「やくも」の新型車両=2023年10月、大阪府東大阪市

 ▽特急「やくも」にブロンズ色の「273系」登場、国鉄特急型電車が全廃へ
 JR西日本は岡山駅と出雲市駅(島根県出雲市)を結ぶ特急「やくも」で、新型車両「273系」の営業運転を2024年4月6日に始める。車体のブロンズ色が特徴的で、地図データも活用してカーブで車体を自動で傾ける車上型制御付き振り子方式を初採用した。
 もっとも、鉄道愛好家がより注目しているのは日本国有鉄道(国鉄)時代に登場した特急型電車の消滅ではないだろうか。というのも273系の導入はやくもで活躍している最後の国鉄特急型電車となった「381系」を置き換えるためで、消滅への“Xデー”が近づいているからだ。
 1973年に登場した381系は、曲線を通過する速度を上げるために日本で初めて振り子方式の車体傾斜装置を採用した。ただ、曲線を走る際の振り子方式の揺れを「心地よくないと感じる乗客もいる」(JR西日本関係者)。このため、車内の洗面所にはいざという場合のためのエチケット袋も用意している。
 JR西日本は筆者の取材に対して381系は「現時点で波動用としての継続使用の予定はなく、順次廃車、解体を進める」と説明。4両編成の273系を2024年6月末までに11編成、計44両を全て導入し、381系は定期運転を終える公算だ。

JR西日本が特急「やくも」で運用してきた381系=2017年3月25日、岡山県倉敷市(筆者撮影)

 ▽根室線は部分廃止、九州では日本最古の現役SLが引く観光列車が終了
 他にも残念な「お別れ」が待ち受けている。JR北海道の根室線富良野(北海道富良野市)―新得(北海道新得町)間(81・7キロ)が2024年3月31日で営業運転を終え、4月1日付で廃止される。
 JR九州は1922年製造と国内現役最古の蒸気機関車(SL)「8620形58654号機」がけん引する観光列車「SL人吉」の運転を2024年3月23日で終了する。

名古屋市の「リニア・鉄道館」に展示されている東海道新幹線の初代型車両「0系」=2012年5月18日(筆者撮影)

 ▽日本の大動脈は10月に開業から60年
 日本の大動脈となっている東京―新大阪(大阪市)間の東海道新幹線は2024年10月1日、最初の東京五輪が開かれた1964年の開業から60年を迎える。
 東海道新幹線が約1時間半で結んでいる品川(東京)―名古屋間を40分でつなぐリニア中央新幹線は、JR東海が計画していた2027年の開業が困難になった。静岡工区の着工のめどが立たないためだが、24年には果たして動きがあるのだろうか?

東海道新幹線の「N700S」=2023年6月27日、大阪市

 ※「鉄道なにコレ!?」とは:鉄道と旅行が好きで、鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」の執筆者でもある筆者が、鉄道に関して「なにコレ!?」と驚いた体験や、意外に思われそうな話題をご紹介する連載。2019年8月に始まり、ほぼ月に1回お届けしています。ぜひご愛読ください!

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