【F1チームを支える人々:ピート・クローラ/ハース】全体をまとめる“接着剤”的役割を果たすチームマネージャー

 F1チームには多数の人々が関わり、さまざまな職種が存在する。この連載では、普段は注目を浴びる機会が少ないチームメンバーに焦点を当て、その人物の果たす役割と人となりを紹介していく。今回は、ハースのチームマネージャー、ピート・クローラに焦点を当てた。

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 F1は、スポーツのなかでも、ロジスティクス面において極めて複雑で困難な作業が必要なことで知られる。グランプリからグランプリへとサーカス全体が世界中を移動し続けるのだ。各チームには、その分野の担当者が存在し、新規参入するチームの場合には、その担当者がすべてのものを一から揃えるという重要な任務を担う。

 ピート・クローラはハースのチームマネージャーであり、その役割は広範囲におよぶ。多くの経験を積み、F1チームの仕組みを理解している者でなければ、その仕事をこなすことはできない。彼はモータースポーツの階層を一歩一歩上りながら、今の役割に必要な経験を身に着けてきた。

ハースF1のピート・クローラ(チームマネージャー)

 クローラはイギリス出身のエンジニアで、プレストンにあるセントラル・ランカシャー大学で、モータースポーツ・エンジニアリングとマネジメントの学位を取得して、この世界への道を切り開いた。レース関係の仕事に就くことに焦点を当てていたクローラは、学生時代に複数のチームで働いて経験を積んだ後に、イギリス・ツーリングカー選手権のタイヤエンジニアの仕事を得た。

 卒業後、クローラは、未来のF1ドライバーたちが走るイギリスF3に参戦するフォーテック・モータースポーツにレースエンジニアとして加入。フォーテックにおいて、責任が大きく変化していくなかで、クローラは、ビジネスのオペレーションの分野に関わるようになり、また、ワールドシリーズ・バイ・ルノーにおけるチームマネージャーも務めるようになった。

 2010年にはイギリス・ツーリングカー選手権に復帰、ホンダチームのチームマネージャーとして4年務めた後、いよいよF1の世界に踏み出すことになった。マクラーレンに、レースチームのチームリーダーのひとりとして加入。そして、その1年後に新しい機会がめぐってきた。

 2016年からF1に参戦するハースが、グリッドに加わるために必要なものすべてを整える作業を手伝ってほしいと、クローラに打診してきたのだ。プロジェクトは確定していたが、まだマシンが走っていない段階だった。F1にはガーデニング休暇のシステムがあり、契約したスタッフが実際に働き始めるまでに時間がかかる場合が多い。クローラの場合は、ハースのイギリスでの14人目の従業員としてチームに加入し、比較的初期から参戦準備に関わることになった。

2016年F1バルセロナテスト ハースVF-16

 ゼロから新しいチームの立ち上げに取り組む機会はめったにない。そのため、マクラーレンにいたクローラだが、ハースのオファーに大きな魅力を感じた。そうしてハースのデビュー戦まで8カ月という時に、彼はその挑戦を引き受けた。

 当初はチームコーディネーターのポジションに就いたクローラは、2015年にチームマネージャーのデイブ・オニールと協力して、チームを構築し、その後の2年間、運営にかかわった。ハースがレースに出場するために必要なインフラを特定し、購入する作業にあたり、ファクトリーのアイテムからチームトラック、ガレージのセットアップ、各エリアに設置する機器など、あらゆるものを揃えるというエキサイティングな時期を過ごした。

 オニールは2017年にアメリカに移り、クローラはチームマネージャーとしての役割を引き継いだ。 その後、役職名が何度か変わるなかでも、同じ役割を果たし続け、さらにスポーツ面での責任も担い、ハースで最も重要なメンバーのひとりになっていった。

 現在クローラは、ガレージのセットアップ、リソース、パーツの移動などの分野を監督、さらにFIAとF1の両方に対する主要な連絡窓口として、認証、オペレーションスタッフの報告、車検申告などについても担当している。

ハースF1チームのガレージ

 バーニー・エクレストンの時代のF1で働いてきた彼は、リバティ・メディアの所有となったF1の変化を目の当たりし、2016年と現在とでは「昼と夜ほどの違いがある」と表現する。ただ、彼の仕事が簡単なものになったわけではなく、レーシングチームとしてF1をうまく運営するためにハースが必要とすることを、F1とFIAに対して毅然とした態度で主張しなければならない、難しいケースもある。

 レースウイークエンドには木曜日と金曜日にできるだけ多くの仕事を終わらせ、必要に応じて重要なセッション中に対応できるよう、時間を確保することに努める。トラック上でインシデントが起きた際には、マシンが無事にガレージに戻ってくるよう確認し、修理に必要なものを用意するなど、細かい作業にまで気を配る。

 さまざまな面で、チームマネージャーは、F1チームをしっかりとまとめる接着剤のような存在なのだ。

2023年F1第23戦アブダビGP ケビン・マグヌッセン(ハース)

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