[社説]初の「代執行」へ 国際世論に働きかけよ (1面から続く)

 生物多様性国家戦略(2012-20)には、望ましい地域イメージがこんなふうに描かれていた。

 「北の海ではアザラシが、南の海ではジュゴンの泳ぐ姿が見られるなど(中略)健全な生態系を保っている」

 あのジュゴンはどこへ行ってしまったのだろうか。

 沖縄島周辺の海域で確認された3頭のうち1頭は、今帰仁村運天漁港で死骸となって確認されているが、残る2頭は行方不明のままだ。

 13年に埋め立てを承認した仲井真弘多元知事は、留意事項を付し、「ジュゴン、ウミガメ等海生生物の保護対策の実施について万全を期すこと」を求めた。

 そのための調査が不十分なまま大浦湾側の軟弱地盤の改良工事に入ることは許されない。

 他にも大浦湾側の埋め立てには、見過ごせない問題がある。

 糸満市の沖縄戦跡国定公園は全国で唯一の戦跡国定公園として知られる。

 設計変更申請の際、埋め立て土砂の調達予定地としてクローズアップされたのが糸満市と八重瀬町の鉱山である。

 戦跡国定公園内にある鉱山から土石を採取し、大浦湾側の埋め立てに使用するのではないかとの話は、瞬く間に県外にも広がった。

 ボランティアで遺骨収集を続けてきた具志堅隆松さんは言う。「人が死んだら血は土に吸い込まれ、肉も腐乱し溶けて土壌に吸い込まれる」

 「死者の尊厳」に関わる問題なのに、政府からはいまだに具体的な説明がない。

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 仲井真元知事が埋め立てを承認した時、想定していたのは米軍普天間飛行場の「5年以内の運用停止」。辺野古移設計画が完了するまで「現状維持の状態となるような事態は絶対に避けなければならない」というのが元知事の考えだった。

 「5年以内の運用停止」は実現せず、政府はこの件について何も言わなくなった。普天間飛行場の「一日も早い危険性除去」という中身の伴わない常とう句を繰り返すだけである。

 負担軽減はリップサービスの言葉に成り下がり、思考停止と関心の低下だけが目立つようになったのだ。

 一方で、新基地建設を取り巻く状況は大きく変わった。

 軍事的な合理性、生態系に与える影響、膨れ上がる事業費。辺野古にこだわる理由は確実に失われつつある。

 CV22オスプレイの墜落事故が示すように、普天間の危険性除去も差し迫った課題として浮かび上がっている。

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 安全保障のコストを沖縄が担い、利益を本土が享受する。そのようないびつな安保政策はもはや限界にきている。

 ウクライナやガザの住民犠牲によって明らかになったのは、「平和なくして人権は存立し得ない」「国を守るだけでは国民は守れない」という事実である。

 沖縄が抱える問題に普遍的な人権の視点を持ち込み、国民のコンセンサスを得るための新たな取り組みが切実に求められている。

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