認知症の母を20年以上介護、孤立の果てに殺害…面会の男性「仕事と両立『しんどい』と言えず」胸の内明かす

事件のあった集合住宅=神戸市内

 家族を支えるために働く一方、介護も担う「ビジネスケアラー」。経済産業省の試算によると、2030年には国内で約318万人に上るという。今年5月、神戸市内で認知症の母親を殺害した男性(69)は20年以上にわたり、仕事と介護を両立してきた。懲役3年の判決を言い渡された後、神戸拘置所で面会に応じた男性は「職場では、母の介護で『困る』とか『しんどい』とかは言えなかった」と打ち明けた。(千葉翔大、小野坂海斗)

■真面目な担当課長

 男性は神戸市内の集合住宅で、同居する母親=当時(91)=の首を絞めて窒息死させた。直後に自殺を図ったが一命を取り留め、兵庫県警の取り調べに「介護で疲れた」と供述。神戸地裁は11月28日、男性に懲役3年(求刑懲役5年)を言い渡した。

 公判などによると、男性は20歳で現在の神戸市環境局に入り、ごみ収集を担当。仕事ぶりは真面目で、現場を取りまとめる担当課長を最後に定年退職した。その後、66歳まで再雇用で嘱託職員として働いた。

■いつも寝不足

 母親は60代後半から犬の散歩で道に迷い、会話がかみ合わなくなった。男性と妻、母親が3人で暮らしていた17年ごろには生活は昼夜逆転し、男性や妻が用意した夕食はほとんど口にしなくなった。夫婦よりも先に寝たはずが、空腹に耐えかねて深夜に料理をしようとする。火事を恐れ、部屋はオール電化にした。公判で男性は「母と生活リズムが合わず、いつも寝不足だった」と話している。

■妻が亡くなり

 一緒に介護を担ってきた妻はがんになり、負担が増した。一方で、ほかの家族への仕送りもあり、男性は家計を支え続けた。

 近所付き合いは少なく、周囲に介護疲れは伝わっていなかったようだ。同じ階でも男性のことを知らない人が多かった。買い物や洗濯物を干している姿を見かけたという女性(83)も「1人で家事もこなしていると思い、偉いなと感じた」という程度だった。

 男性は嘱託職員を退職後、仕事が見つからず、21年には妻が亡くなった。介護休暇なども使わず、ヘルパーを頼ったのは3年前。デイサービスを利用し始めたのは妻の死後だった。

■最期まで口にせず

 神戸地裁の判決から2日後、男性は神戸拘置所の面会室で「職場では、家の状況を冗談めかしてしか話せなかった」と明かした。「妻の看病と母の介護でしんどかったのかもしれない。でもやっぱり、事件は私の責任やと思う」。もっと誰かを頼ればよかった、そうした後悔は最後まで口にしなかった。

© 株式会社神戸新聞社