「阪神V」も「ちいかわ」も盗難か…人気中づり広告どう守る? 悩む鉄道各社 販売や譲渡は禁じ手?

阪神タイガースのリーグ優勝時を記念した中づり広告。一部が逸失した(阪神電気鉄道提供)

 プロ野球阪神タイガースが優勝した際、阪神電車内に掲げられた記念の中づり広告の一部が行方不明になったが、同様の問題は阪急電鉄やJR西日本の車両内でも起きている。阪急では、人気キャラクター「ちいかわ」がデザインされた中づり広告が逸失。タイガースも「ちいかわ」も盗難の可能性があるが、各社は対策の難しさに頭を悩ませている。(門田晋一)

 2003年のリーグ優勝時には、駅などでポスターの盗難が相次いだタイガース。今回のリーグ優勝時は、球団ロゴマークとともに大きな文字で「優勝」と記したB3判の広告が数千枚用意され、約360両に取り付けられた。汚れたりした広告を新品と交換する際、他の広告より在庫の減りが早く、逸失が分かった。

 阪神電気鉄道の担当者は取材に「何らかの影響で外れた可能性がないとは言い切れない」としつつ、盗まれた可能性を否定しなかった。その後、日本一を記念した中づり広告が、11月7日にフリーマーケットアプリ「メルカリ」に出品されていたことが判明した。

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 今年8月から来年3月末まで、「ちいかわ」とのコラボ企画を実施し、話題を集めているのが阪急だ。

 宝塚、神戸、京都各線を走るラッピング電車の車両内には、B3ワイド判(縦約36センチ、横約1メートル)の中づり広告が掲示されている。

 広告のデザインは6種類。愛らしい主人公の「ちいかわ」や友だちの「ハチワレ」「うさぎ」などのキャラクターが、ポートタワーや南京町など沿線の名所を楽しむ様子が描かれ、地域限定の魅力が詰まっている。

 そんな中、広告の一部がなくなっていることが分かった。「もし盗まれていても、その瞬間を見ていないので盗難とは言えない…」と困惑する阪急担当者。

 ただ、22年にウサギのキャラクター「ミッフィー」とコラボした際も、同じように中づり広告の一部が車内から消えたという。

 JR西も同じく、人気キャラクターやタレントを起用した広告が不自然に減ったことがあるという。

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 これらの事態を受け、交流サイト(SNS)などでは「掲示期間が過ぎれば販売したり譲り渡したりすればいいのでは?」という書き込みが目立つ。

 ただ、ことはそう簡単ではないらしい。兵庫県内を運行する会社はいずれも、「終了した広告を販売、譲渡するかは広告主の判断。勝手に外部に渡せない」と口をそろえる。契約に基づき、中づり広告は最終的に廃棄しているという。

 また、阪神は自らが広告主でもある立場も踏まえ、「タイガースの広告は、譲渡や販売を考えていない」と強調する。

 そんな中、盗難防止に一役買うと期待されているのが、車両内の防犯カメラだ。ただ、普及はすぐには進まない。阪神は今秋から、カメラの設置を順次進めているが、完了は大阪・関西万博が開催される25年春の見込み。阪急と京阪地区を走るJR西の主な車両の設置完了は27年の予定という。

 また、車両内のデジタルサイネージ(電子広告)も解決策に思えるが、「設置と保守、点検の費用を考えると、導入のハードルは高い」という声も。

 対策は簡単ではないが、「ちいかわ」などの中づり広告は、きょうも多くの人の目に触れている。阪急など各社は今後、転売などが確認された際の対応を検討するとし、JR西の担当者は「関係者と協議し、場合によっては警察へ被害届を提出する可能性もある」としている。

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