「立候補も推薦もないのに当選」実は脚本ミス ネット批判避ける工作があだに

滋賀県湖南市役所

 立候補した市議が1人しかいないのに別の市議が大差で勝つという異例な経過をたどった湖南市議会の副議長選で、立候補しなかった市議が推薦を受けて議場に2人の名前が挙がった上で当選するという「脚本」があったことが分かった。副議長は投票前に内定していたが、議場やインターネット中継で議事を見る市民から批判を受けないためとみられる。専門家は「議会改革の流れに逆行している」と批判している。

 副議長選は11月10日の臨時会で行われた。「地方自治法との整合性をとる」として、休憩中に赤祖父裕美市議の立候補表明があり、再開後に議長が指名推選制を提案。その際に赤祖父市議が異議を唱え、投票になった。「脚本」と違った結果、立候補せず推薦もなかった森淳市議が14票を獲得して当選した。赤祖父市議は2票だった。

 脚本の存在は上野顕介議長が明らかにした。事前の調整では、赤祖父市議が異議を唱えるタイミングは、同市議の立候補後に議長が指名推選制を提案し別の候補の名前が出た後の予定だったという。

 複数の市議によると、臨時会を前にした同6日に議員全員協議会(全協)が開かれ、議長・副議長選の指名推選制が提示された。役員人事は事前の会派代表者会議で合意があったが、赤祖父市議が立候補意向を伝えると全協後に議会事務局職員と打ち合わせとなり、「異議を唱える機会は3回あるが、別の候補が推薦された後が市民には分かりやすい」と説明を受けたという。

 赤祖父市議は異議の発言後に、議会事務局職員から翻意しないかと聞かれたという。指名推薦の前に異議を唱えたことについて「本会議前は納得していたが、立候補者がいるのに指名推選制にするのがおかしいと思った」と説明した。

 京都新聞社の取材に対し、上野議長は「指名推選制は法に定められており、立候補の必要があるわけではない。問題は法にあるのではないか。議事については事前に事務局から赤祖父市議に合意を得たと聞いている。間違ったのは赤祖父市議だ」と述べた。

 一般に自治体議会の本会議の進行は議会運営委員会(議運)で確認される。11月6日の全協前にも議運が開かれたが、当時の委員長で副議長に当選した森市議は京都新聞社の取材要請に応じていない。市関係者は「森市議は議長経験者で、副議長の立候補表明をしたくなかったのではないか」と話した。

◆地方の議会改革の流れに逆行

地方自治に詳しい新川達郎同志社大名誉教授(公共政策論)の話 多数派により方向性が定められ、談合批判のある指名推選制から、透明性や公開性を高めた立候補制の採用が増えている地方の議会改革の流れに逆行していると言える。副議長選で湖南市議会が立候補者を拒否したのは分かるが、表に名前の挙がらない特定の議員に票が集中したのは誰もが不思議に感じるだろう。立候補者が出たなら指名推選制を取るのではなく、立候補者同士が公開で議論した上で選出するのが本来の議事の姿であるべきだ。法的な問題はないとしても倫理的には非常に疑問のある手続きだ。

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 地方議会の正副議長選挙 地方自治法で各1人を選挙することが定められ、手続きは、候補者1人の記載▽無記名とする秘密投票▽法定得票数による当選人の決定-などで公職選挙法が準用されるが、立候補制は法的に準用されない。このため、立候補の有無にかかわらず議員全員が候補者となり、立候補しない議員も法定得票数を得れば当選する。全国市議会議長会の調査によると、立候補者の所信表明は約5割の市が導入し、うち11%が本会議中に、55%が休憩中などに行う。指名推選制は異議がない場合は行うことができ、全員の同意で指名人が当選することが地方自治法で定められている。

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