神戸ポートタワー横の中突堤中央ビル、最後の店舗が営業終了へ 喫茶「フジ」、震災や航路撤退「交通手段としての船消えた」

ポートタワー北側にある中突堤中央ビル。南館が取り壊され、ポートタワーと直結しなくなった=神戸市中央区波止場町

 かつて、神戸港中突堤が淡路、四国方面の海の玄関だった頃、通勤客や港湾労働者でにぎわったビルが姿を消そうとしている。ポートタワー北側の中突堤中央ビル。北館2階の「グルメ横丁」で最後まで営業していた喫茶店が今月末、ひっそりと店を閉じる。

 同ビルはポートタワーができる前年の1962年に南館が完成。北館は73年にできた。神戸市はウオータ-フロント再開発の一環で、北館と南館を解体し、観光、商業施設の誘致を構想しており、現在は南館で解体工事が進む。北館も解体予定で、区分所有者と交渉を続けている。

 北館のグルメ横丁で、飲食店として唯一営業を続けていたのは喫茶店「コーヒーショップ フジ」。北館の開業時から店を構え、8月で丸50年となった。うどん、ラーメン、オムそば、各種定食など喫茶店とは思えないメニューの多さが目を引く。

 店主の男性(57)は移転ではなく、店を畳む理由をこう語った。「移転しても、新たなビルに入っても、今より家賃が上がる。仕入れ値も上がる中で、同じようにはできないから」

 男性の両親は50年前も、再開発で移転を余儀なくされ、ビル内で店を開いた。当時、中突堤は淡路島行き連絡船の最終便が午後11時半だった。喫茶店も午後11時過ぎまで営業し、船を待つ人でにぎわった。

 95年1月の阪神・淡路大震災で中突堤の港湾施設は大打撃を受けた。98年4月に明石海峡大橋が開通するとともに、神戸と淡路島を結ぶ淡路航路がなくなった。その他の航路も中突堤から撤退した。

 その後、周辺は整備されて観光客は増えたが、21年9月からポートタワーの改修工事が始まり、22年11月から南館の取り壊しが始まった。ポートタワーまでの通り抜けができなくなり、横丁の人通りはなくなった。

 店舗は次々と移転した。フジの閉店が迫った12月25日。メリケンパークはクリスマスを楽しむ人であふれていたが、北館2階のグルメ横丁に人影はほとんどいなかった。

 一帯の再開発では、都心部から港まで、観光客にどうやって足を運んでもらうかが課題とされる。だが、「かつては港が玄関だった」と店主。「観光船ばかりで、交通手段としての船は消えた。もう潮時やね」とつぶやいた。(高田康夫)

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